もし、君、が、しんでしまったら
ああ、もし
君、が、しんで
そうしたら私は
唯一の、神を、失うことに、なるんだ。

そんなのはもう、当たり前だ。今こうして笑っていられる"鉢屋三郎"は、顔を貸してくれた"不破雷蔵"無しでは有り得ない事なのだ。
私は君と何度も笑ってきた。でも、その事を一瞬たりとも忘れた事はないよ。
この世界の軸は、勿論当然の如く君であって、それが私の幸せである。

と、とある人に話した事がある。その人はまるで蔑むような、可哀想なものを見るような目で私を見て、「よく解るよ」と言った。その言葉は本当のようだった。
きっとあの時、あの人は、私を通して自分を見ていた。あの人にも、そういう世界の軸である人がいるのかもしれない。或いは、いたのかもしれない。

(「忍というものは、刃と心でできているんだよ、鉢屋くん」)


生きているのが怖いのかも知れない、そうだ、私は生きていくのが怖い。
いずれどんな形で君を失うのだろう。
もし私が死んだら、君と居られなくなってしまうから、死ぬのも怖い。
いっそこの世に生を受けなければ、とも思ったが、そうすると君に出会えない。どうしようもない、出口の無い恐怖。なんてこと無いふりをするのも、慣れた。
この、狂気みたいな感情を君に知られたくなかった。
君の隣にいて、君と同じ笑顔で笑っている、きっと君――不破雷蔵が望んでいるのはそんな鉢屋三郎だろうから。
そう、だから雷蔵は私に、顔を貸し続けてくれたんだ。

(なら私は雷蔵に全てを尽くそう。私の世界は、君がいないと存在しないから)


そう、  思って、  いた、のに

「三郎!!」

君の声で我に返ったら、急に血の匂いが鼻をさした。
私の手に握られた苦無からはぼたぼたと血が垂れていて、足元にはもう顔の原型もない程に、ぐちゃぐちゃになった、人間。

(…ああ、そうだ、)

これは私がやったんだ。

「三郎、お前…なんで…!」
「…だって」
(こいつは、君に刃を向けたんだ)

「こんな…殺さなくても、良かったはずだろう!」
(だって、な、この男が君に向かって襲ってたとしたら)
私の、せかいは

「雷蔵が危なかったんだよ」
「だから殺したのか!」
(それは、いけないこと?)

「…三郎、お前、少しおかしかった、僕の声も、何回呼んでも、聞こえないみたいで、」

ああ、泣かないで。

「…三郎、なんで、僕には何も言ってくれないんだ」

怖がらないで。

「僕はお前のこと、ちゃんと…っ、本心が知りたいんだ!」

お願いだから、

「三郎!!!!」

私を暴かないで。



雷蔵にだけは、言えない
本当のことなんて、知らないままでいて
君が大切なんだ、君しか大切じゃないんだ

だから、ねえ、お願い
君だけは私の「嘘」を愛していて。





***

ある人 の目星が大体ついちゃう方はあまかマスターですおめでとう
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