あんたの死に方を考えていました。
そう言ったら、先輩は楽しそうに目を細めた。
先輩にとっては少しも楽しい話じゃないだろうに、けれど考えずにいられない。貴方はどんな風に死ぬんでしょうね?
「楽しそうだな、三郎」
「先輩こそ」
「いや、お前が笑ってるから」
先輩が私の頬を撫でた。それは雷蔵の顔なのだが。先輩はこの笑った雷蔵の顔の下にある、無機質な私をきっと知らない。
病気か、誰かに殺されるのか、老衰、殉職、ねぇ、先輩はどれがいいですか?何を望みますか?
刺されるのか撃たれるのか絞められるのか、一体どんな風に、貴方は。
「解ったよ」
「何が、ですか」
「きっとお前は、私にこう言って欲しいんだろう?」
「何を、」
隣り合わせで、好きでもないのに一緒に歩いている。お互いに引き離すくせに、寄せ付けあう。そんな所は、生も死も私と先輩に良く似ている。いつ貴方を失うだろう。どうやって貴方を失うだろう。
それが本当に愉快で、考えて考えて、想像して妄想して、私はどうやら少し可笑しくなってしまったようだ。
「私はお前の顔を見るまで死なないよ」
「…ふぅん」
ああ、本当に、私はほんとうに、あんたが嫌いで嫌いで仕方がない。
「その代わり私の最期は、お前が決めていい」
「…先輩、」
綺麗に笑うから、そっと首筋に両手をあててみた。
目を閉じた先輩の睫毛が、きれい。
ああ、この人が壊れてゆくのを見たい。
ならいっそ、今殺そうか、ああそうだ。それがいい。
がり、と白い喉を軽く引っ掻いて、私は先輩から手を離した。
「…いまは、まだ、いいです」
こうして貴方と居たい。
それでも、止まらない。貴方の命を手に入れて、貴方のいない世界を、どうやって生きていこう?
考えが、止まらない。
"私はお前の顔を見るまで死なないよ"
(先輩、そんなことおっしゃるのなら、私はとっくにあんたのこと、)
「…ああ、お前の肌、冷たいな。三郎」
頬に触れた白い指先は冷たかった。