「三郎」
「なに、雷蔵」
「聞こえる?」

ドク、ドク、と、音がする。

「…聞こえるよ、雷蔵が生きてる音」
「…うん」

雷蔵は微笑んで、私を抱きしめた。

「さようならだね」
「…」
「もうすぐ止まっちゃう、よ」
「…」
「これでやっと、」

ドク、ドク、と、音がする。

「三郎、」
「…なに、雷蔵」
「僕が先に死ぬのは、きっと僕が望んでいたからだよ。神が願いを聞いてくれた」
「…望んでいた?」
「うん」
「…なんで?わたしは、嫌だよ」

この先ひとりで生きていくなんて。
もう"不破雷蔵の顔を借りた鉢屋三郎"でいることもできないなんて、と。
雷蔵は笑った。

「これでやっと、三郎と同じになれる」
「…」
「お前と会ったから、僕はお前を好きになったよ。愛してしまった」
「…雷蔵」
「お前がどれだけ、僕の顔をしても、お前は、三郎…鉢屋三郎なんだよ、」
「…らいぞ、」
「お前と同じじゃない事が、本当に苦しかったよ」
「…らいぞう」
「ん?」
「…なんて、言っていいか、解らない」
「…、…さぶろう、僕が好き?」
「うん」
「なら、それだけで、いいんだよ」

雷蔵は私の肩に額を乗せた。



「すこし、お喋りし過ぎたね、」
「雷蔵、好きだ」
「さぶろうは…」
「らいぞう、好き」
「次にまた、会えた、なら、」
「らいぞ、」
「、…」

どくん、と、音が響いた。







とある国で、天才と謳われた男がいた。
あらゆる知識を持ち、様々な才能に長けていて、その素顔は誰も知らないという、千の顔を持つ男。
「本当の顔は?」言うと、彼は決まって、もう忘れてしまった、と言う。
「では今しているその顔は?」言うと、彼は決まって言うのだ、これはわたしの顔だ、と。
鉢屋三郎とは、何とも奇妙な男である。


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