「鉢屋、もうすぐ誕生日でしょ。何か欲しいものとかあるの?」
「…………」
「給料出たし、多少は糸目をつけないよ!何が欲しい?」
「…じゃあ、それ」
「…ごめん、これはちょっとあげられない」
「それじゃなかったら、いい」
「…………」

私の誕生日。
何か欲しいものはないかと尋ねた勘右衛門に、私は勘右衛門の左手、人差し指の指輪を強請った。そして断られた。
指のサイズが違うから不格好になる、指輪が欲しいのだったら一緒に見に行こう、云われたが、私はそれじゃなきゃ嫌だと首を横に振った。
指輪のデザインは凡庸なもので、何処にでも有りそうなものだったけど、私はそれが欲しかった。
勘右衛門がつけているものだから。
勘右衛門が身に付けているものは何も指輪だけじゃないが、一緒にいるうちに左手が気になりはじめた。
左手に指輪をしている。薬指ではない。
何の指輪だ。
わかりやすいのは、恋人だったり思い出の品だろうか。形見というのも有り得ないわけではない。勘右衛門はどれだけ服を持っているんだというほど毎日髪型も服装も違うけど、どれだけピアスをつけたって、ブレスレットをつけたって、勘右衛門は指輪だけは絶対取らない。
単なる装飾と考えられないのは私の思い込みだろうか。
気になった。
無意識に左手の指輪を目で追い掛けてしまう。
勘右衛門は指輪の話はしなかったし、私も訊いたりしなかった。
でも、そう思ってるときに勘右衛門が欲しいものなんて訊いてきたから、私は正直に答えた。

誕生日当日まで、私は同じことを言い続けた。
勘右衛門は困った顔をした。
もっと、欲しくなった。
否、奪いたかった。

「いいよ」

ほら、やっぱり。
…………、え、今、

「鉢屋、ずっと見てたもんね」

勘右衛門が私の左手を取り、人差し指に指輪を填める。勘右衛門の指から指輪が外れた。私が外した。

「あぁ、やっぱり少しぶかぶかかな」
「親指だったら、大丈夫だろ」

勘右衛門が付けていた指輪。
多分私は笑っていたと思う。
勘右衛門もいつもみたいに笑っていた。







指輪に意味はなかった。ただ鉢屋と俺が行動を一緒にし始めた頃につけた。
鉢屋の関心が俺に向けば、上出来。
難しいこと考えてそうで実は単純な鉢屋は、期待以上に執着してくれた。
焦らせば焦らす程、鉢屋は俺に固執する。

「…はーちや」
「ん」
「嬉しい?」
「…、大事に、する」
「うん、誕生日おめでとう、鉢屋」


俺は、指輪なんてどうでもいいのにね。



***
2012年はちやくんの日。
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