人を好きになるという事。

そのひとを誰よりも愛するという事。
全部知らなかった、関係ないと思っていた事。すきになって知った。
愛されて知った。
与えられる歓びより、失う恐怖。

貴方が居ないと、もう駄目なんです。貴方の声と、体温と、匂い。
それ等全てがいつの間にか生活に根付いて、なければ不安に駆られどうにもならなくなるんです。

貴方が好きです。好きで好きでたまらなくて。
貴方は同等かそれ以上に同じ気持ちをくれる。

共有出来るしあわせ。
…御伽噺なら、此処で終いだ。
愛し合うもの同士が寄り添って、約束された倖福が頁の外側に続いている。
けれど現実は違う。
いつ死ぬか、失うか、眼の前も足下も定かでは無い。数日後にはどちらかがどちらかの亡骸を抱いている、そんな未来が少なくない確率で常に存在している。

それか、もっと恐ろしいのは、興味を失う場合。
貴方が私を捨てるのなら、その時は無理心中するかもしれない。どこかで誰かとしあわせに、なんて、そんな綺麗事は今更言えなくなっていた。
どうしたら、貴方は私をずっと必要としてくれますか。…解らない、解らない。
貴方に愛され続けるにはどうしたら良いのか、どれだけ考えても解らない。









「…悲しいなら、声を出して泣きなよ」
「、」

不意に、眼を覚ました利吉さんが柔らかく微笑う。
不安に押し潰されそうで、深夜、利吉さんを眺めながら考えていた。
…あぁ、涙が落ちた所為で、利吉さんを起こしてしまった。

「、起こして、ごめんなさい…なんでもないんです」
「…話したくないなら、無理に訊かないよ。でも冷えるから、布団入って」

腕を引かれて、大人しく納まる。暖かい。
この暖かさが、どうしたら最期の時まで私の腕に留められるんだろう。

「…あのな、仙蔵」
「ん、はい」
「私はちゃんと仙蔵の隣に居るから。独りに、しないから」
「…」
「だから、ひとりで泣くなよ」

息が止まりそうに強く、抱き締められた。何も話してない。でも利吉さんは、私の不安を感じ取ってくれた。

それが嬉しくて、でもやっぱり継続する術は見当もつかない。
めでたしめでたしで終わる御伽噺の続きも、良く考えたら誰も知る筈が無かった。




(辛くて嬉しくて涙が出るんです)


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