そこはかとなく現パロ




「馬鹿は風邪引かない…ってさ、言いますよね」
「言うかもな」
「…」
「黙るな」
「…そしたら俺、馬鹿じゃないですよね」「…」
「黙んないでくださいよ」

義丸が風邪を引いた。
顔を真っ赤にして、頭が痛いと喚いている。体温計には、38度7分の文字。

「ここ最近、雨が降って寒かったからなぁ…」
「うぇ…体いてぇ…」
「滅多に風邪なんか引かないから、余計辛いだろ」
「んー…、体痛い」
「それは解った。何か作るから、食べたら薬飲めよ」
「ステーキ食いてぇ」
「病人がステーキなんか食うな!ああお前やっぱ馬鹿だ」
「鬼さんやっぱは余計だぜ…」

なんだかんだ言ってもやはり辛そうだ。
布団に潜るのを確かめてから、台所に向かう。冷蔵庫の中を見て、風邪に良さそうな、ネギや卵を取り出す。
自己管理がなってない、と言いたい所だが、義丸が風邪を引いて弱るのは本当に珍しいので、俺も少し慌ててしまった。
結局風邪には何がいいんだっけ、と思いながら何度も冷蔵庫を開けるが、知識があやふやで解らない。自然としかめっ面になってしまう。
「義、」とりあえず出来上がったお粥を持って寝室に行くと、義丸は眠っていた。
ヒューヒューと荒い息を繰り返しながら、苦しそうに眉を寄せる。

「…義丸」

もう一度呼んでみるけれど、返事はない。唸り声と、汗。
熱にうかされて、どんな夢を見ているのだろう。
そっと前髪を撫でて、額を合わせてみた。熱い。
上下する胸を鼓動に合わせて叩き、ゆっくりと、子守唄を口ずさむ。
いつだったか、子供の頃に聞いた歌。
俺に歌ってくれた人なんて覚えちゃいないけど。

義丸の左目から、涙が零れた。
それは突然で、あまりに綺麗だった。
見なかった事にしようと思う。俺だけの秘密。

「…鬼、」
「起きたか」
「ごめ、…寝てた」
「いや、…お粥を温め直してくるよ」
「鬼さん、」
「ん?」
「あのさ、…ずっと、そこにいてくれたんですか」
「ああ」
「…はは、ありがと」

義丸の頭を撫でる。汗で絡み付くそれが、いつもの手触りと違って、気持ち良い。

「風邪が治ったら、計画でも立てるか」
「…計画?」
「有休とって、温泉でも行くか。部屋に露天風呂なんかある所」
「俺混浴がいい」
「それは一人で行け」
「鬼さんは女に疎すぎですよ〜。まぁ俺がいるからいっか」
「お前な…」

俺は本当に、つくづく義丸に甘い。
でも悪くない、気付くと、俺は笑っていた。






「で、『俺がいるから』ってどういう意味だよ」
「…鬼さんの判断に任せますよ」


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