小説 | ナノ



「実は奥寺はストーカーとか」

「…それ本人に言ってみろ。確実にシバかれる」

「上等。俺はあいつが大嫌いなんだよ。いっぺんギャフンと言わせたくてよ」

「逆に君が言うんじゃないか?それに『ギャフン』て実際言う人いないんじゃ」

「だああああっ!!うっせ〜んだよ!細かい事言ってんじゃね〜!!」

二人がギャアギャア話していると、

チリー…ン…。

かわいらしい鈴の音が聞こえてきた。

続いて、

ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン…

電車が線路の上を走る時にたてる音が、遠くから…だんだんと近づいて来る。

しかし近づいて来たのは電車ではなく、ピカピカの深緑色をしたSLだった。

SLは二人が待つ駅でゆっくりと止まり、中の車掌が扉を開けて、二人に笑いかけた。

「こんばんは。おや?二人一緒なのは久しぶりですね。任務ですか?」

勇助は自分がおぶっている勇気を顎で指し、

「こいつがね。早く医者に診て貰わんと」

車掌は勇気を見て、心配そうに困ったような顔をした。

「辛そうですね…もしや【黒煙人】の仕業ですか?」

二人は頷き、朔耶が三人分の切符を車掌に手渡しながらこれまでのいきさつを簡潔に話した。

「そうだったんですか…。ちょうど四人用の向かい合った席が開いてますので、どうぞそこへ。あと5分で発車です」

車掌は三枚の切符に入鋏をし、車両の中へと入っていった。

勇助と朔耶も続いて車両の中へ入り、勧められた四人用の向かい合った席へ座る事にした。

まず二人分の席に勇気を横たえさせ、二人は向かいの席に並んで座った。

「…腹減ったな」

「駅弁あったっけ?」

「ん〜…あるんじゃね?確か次の駅に」

「そうだっけ?それにしても…疲れたね」

「…疲れた。超眠い」

話している内に、二人はウトウトし始めた。
そんな彼らの眠気を更に誘うかのように、SLは静かに動き出した。

空へ向かって。
ゆっくりと上昇して行く。


    ****



気がつくと、ベットの上に寝転がっていた。

カーテンの隙間から白い光が僅かに漏れ、小鳥の雑談が聞こえる。

『ねぇ〜今日の朝はどうするよ?』

『その辺の蝿で良いよ。昼は木の実で…』

…家…かな?
ぼんやりとした頭で天井を見上げ、次にベット横に設置された小さな机の上にある目覚まし時計に視線を移すと、

【8:30】

「…え?」

確か今日は…あ〜…え〜と…

「バイトの日だっけ…て、うおああああっ!!」

ベットから跳ね起き、5分で身支度、朝食もそこそこに家から飛び出した。


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