小説 | ナノ



『…コノ…覚エテイロ。必ズ我ラハ戻ル。何処マデモ追イ掛ケル』

「好きにするが良い。何度でも消してやるよ」

『面白イ。“骨折リ損ノクタビレ儲ケ”トハコノ事ダナ。ハハハハハハ…』

そして、【彼ら】は一人残らず消え失せた。

「…さて。追い掛けるか」

「急がないと…………え」

気がつくと、辺りの闇が濃さを増していた。

再び、倒した筈の【彼ら】は表れた。今度はムクムクと膨れ上がり、東京タワーよりでかい、いびつな格好の巨人となって。

二人は顔を引き攣らせて、互いの顔を見合わせた。

「………おい。これって」

「………もう自重して貰いたいですね……けど、やるしかないですね」

「しゃ〜ね〜な…よっしゃ、じゃあパターンBで行くぞ」

「了解」

しかし、二人は動き出す前に気がついた。

巨人となった【彼ら】が、自分達には全く目を向けていない事に。

『ヴアアアアアアッ!!』

【彼ら】は雄叫びを上げ、“何者か”に向かってドス黒い煙を吐き出した。

ヒュガッ。

風が煙を切り裂き、【彼ら】は動揺したのか後退し始める。

「逃げらんね〜ぜ?ゲス野郎共」

若い男の声が響くや否や、【彼ら】を取り囲むように幾つもの巨大な魔法陣が表れた。

「消えな。【ヘヴンズ・ジャッジメント】」

カッ!!

魔法陣は七色に光り輝き、【彼ら】を一気に霧散させ、チリにした。

「よ〜う。久しぶりだな」

闇からツカツカと足音が響き、次第に姿があらわになる。

「「奥寺さん!?」」

二人が叫ぶと、奥寺は目で二人を制した。

「お前ら、今何時だと思ってる。さっさと帰るぜ」

「でも!勇助さんと朔耶さんがまだ…」

「あの二人なら心配ねぇよ、送っといたから。帰りは奈津子が迎えに来るってよ。ったく。だいたいお前らまだ高校生だろ?明日学校は?」

「私は……授業あります」

「俺も。けど二人を置いて帰るなんて出来ません」

「いいから帰れガキ共。明日の授業に差し支えるだろうが」

「…………」

完全にこちらを見下したような言い方。
普段あまり争いを好まない二人だが、はらわたが煮え繰り返りそうになった。

しかし、奥寺は二人の思い等どうでもよいと言うかのように。

「ほら、帰んな。仕事は終わったんだ」

「…了解しました」

「………了解」

二人は仕方なく、奥寺にくるりと背を向けて、帰路についた。



    ****



その頃、勇助と朔耶は、よく公園で見かけるような長いベンチに座っていた。
電車の駅なのか、ホームがやたらと長い。しかし、屋根はなく、駅名が書かれた看板もない。

そよ風が苦しそうにベンチに横たわっている勇気の頬を優しく撫で、勇助と朔耶の髪を弄び、吹き抜けて行く。

空は透き通った青や紫等が折り重なった美しいグラデーション。ふわふわの白い雲もオレンジ色に光っている。

「…朔耶」

「…もうすぐ来るよ。あと数分」

「そうじゃなくて。なんで奥寺さん、僕らがここを目指してたのが分かったんだろ?」

「さぁ?あの人は謎だらけだからな…」


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