小説 | ナノ



「キュルル…ルルルル…」

ポーは悲しそうに大きな青い瞳を潤ませている。
意気がっていた勇助は肩を落とし、ため息をついた。

「ポー……だよな。僕は今、勇気をおぶってるんだった。冷静になんなきゃ駄目だよな…」

おぶさっている勇気は、既に意識は飛び、大きく肩を上下させている。

「…さて、勇助。そろそろ始まるみてぇだぜ」

黎明が腰に巻いたベルトに装着されている鞘から剣を抜くのとほぼ同時に、【彼ら】は沸き上がるように表れた。
その数、ざっと見て千以上。

黎明は腰を落とし、剣を片手に持ち構えた。

「朔耶」

「何?」

「勇助と一緒に行ってくれないか?俺は茜とここで奴らを食い止める」

「!?…いや、でも俺…」

黎明は朔耶と勇助の背中を押し、スーパーの出入口を指した。

「ほれ!早く行かんかい!!」

茜も頷き、凄みを効かせ(てるつもり)て、

「行かないと猫パンチですよ!?」


と叫んだ。


一瞬、皆の動きがぴたりと止まる。
あんた萌えキャラかい。そのうちメイドカフェとか(殴)
…気にしないで下さい。



気を取り直し、


「……じゃ、行ってくる」

「おう、後でな」

そうやって一度だけ振り返り、全力で駆け出した二人を見送った黎明と茜は

「…すまん、勝手に決めちまって」

彼女はクスッと笑いつつ、両腕を一振りし、

「いつもの事ですから、慣れましたよ」

服の袖から、どうやって隠し持っていたのか数本のダート【※ダーツの矢に似てます】を滑り落とし、指の間に挟んで握り構えた。

「そんじゃ、行きますか!?」

「ラジャ!!」

二人は背中合わせになり、飛び掛かって来た【奴ら】を迎え撃つため、一気に動き出した。




「では、黎明先輩。いつもので良いですね!?」

「おぅよ!」

茜は一呼吸置いた後、

「行きます!【演武・千来牙】!!」

バレリーナのように体を回転させながら、四方八方にダートを投げ始める。

タタタタタタッ!!

さながらマシンガンの如く音が鳴り響いた後、何千といる【彼ら】の動きが全て止まった。

「ヒュ〜…相変わらず早業だな」

黎明が剣を構え直し顎で合図すると、茜は頷き、一度黎明の右肩の上に跳び移った後そこから勢いよく上へと飛び上がった。

「いくぜ…【ダーク・スプリット】」

一瞬だった。技の名を言い終えると同時に、全ての敵は真っ二つに切り裂かれていた。

しかも、切り裂かれただけではない。


空間が。

空気が。

紙が切り裂かれるようにパックリと破れ、そこから底の見えない漆黒の闇が顔を覗かせる。

「んじゃ、逝ってらっしゃい」

闇は飢えた獣のように【彼ら】を否応なく飲み込み、徐々に口を閉ざしてゆく。

『キ…貴様ハ…マサカ』

黎明は薄く笑みを浮かべ、首を振った。

「違うよ。俺は違う。けど教えねぇよ。【アンタら】は不死だからな…ヒントも無しって事で」

『フッ…貴様モ残酷ダナ。慈悲サエナイノカ』

黎明の瞳が、一瞬ギラリと光った。
瞳孔は細くなり、憎悪を込めた目で【彼】を睨む。

「自分の胸に手を当てて、よ〜く考えてみな。【アンタら】がしてきた事の方が、よっぽど残酷で冷血、残忍だぜ」


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