小説 | ナノ



勇助と呼ばれた少年は舌打ちをし、

「そうなんだよ…普通は気絶するくらいで済む筈なんだけど。野郎、何かしたな…」

「とにかく急ぎましょう!…あ、少し清白公園へ寄ります!メールがあったんで」

「誰から!?…ってどうせ先輩だろ?」

「そうです。増援に来てくれたんですよ♪」

巨大なシャボン玉は、勇気の家から少し離れた所にある、清白公園の上空から旋回しながら着陸した。

「悪りぃ。急いでるとこ、寄ってくれてサンキューな」

そう言いながらシャボン玉の中に入って来たのは、黎明だ。

続いて、

「ちょっと!早く入んなさいよ!!」

茜より少し大人っぽい少女が入って来た。

「朔さん!あれ?今日はなんでまた?」

「男ばっかじゃ茜ちゃんが心細いかなぁと思ってね☆」

「わぁ〜い♪嬉しい!ありがとう」

「そこ!盛り上がってる所悪いが急がないとやばいって!」

勇助が辛そうに息を荒げている勇気を指し、続いて公園の滑り台の影からこちらを見つめている【何か】を指すと、茜は真顔になり頷いた。

「ですね。じゃあこれからはスピードを上げますんで、皆さんしっかり掴まってて下さいね!!」

そこで黎明が、

「掴まるって、何処に?」

とさりげなくツッコミ。

しかし、茜は目で言った。

【聞かなくても分かるでしょ】と。
ようは気分とノリ。


茜は再び眉間に皺を寄せ念を込め、シャボン玉を操作し移動を開始した。

地上では黒い影のような【何か】が次から次へと生まれ、こちらを見上げ追跡してくる。

しかし【彼ら】は遠距離攻撃が出来ないのか、ただ追ってくるだけで、何もして来る訳ではない。

「もうすぐ着きます!皆さん、心の準備は!?」

「たぶんOKなんじゃん?」

聞いた途端、朔は立ち上がり勇助を睨み付けた。

「たぶん!?勇助!!私あんたのそういう曖昧な所が嫌い!!」

「今好きとか嫌いとか関係ないじゃん。別に嫌われても構わないし」

「〜〜〜〜…可愛くない!」

「始まったよ…ほらほら。もうすぐ着くってんだからちゃんと構えてねぇと危ね〜よ?」

シャボン玉はスーパー『コモディイノウエ』の上空に来ると、再び旋回しながら近くの駐車場へ着陸した。

茜がため息を付き肩の力を抜くと、シャボン玉は静かに消滅した。

時間はAM12時半。とっくに閉店したスーパーの駐車場に光はなく、ここは夜は人通りが少ないので、しんと静まっている。

口火を切ったのは勇助だった。

「…さて、どうする?」

「皆で行くんじゃないんですか?」

「馬鹿言え。今はいないが、いずれ【奴ら】は来る。中で待ち伏せしてる可能性だって」

黎明は腕を組んで少し考えてから、

「………とりあえず、攻撃系なのは俺と朔だけど…朔?」

「呼んだか?」

いつの間にやら、先程まで朔が立っていた場所に、今度は青年が立っている。

「おい!?急に変わるなよ朔耶!びっくりすんだろ」

「悪い。これからは俺の方が良いだろうと朔が」

勇助はいきり立ち、少々息を荒げながら異義を唱えた。

「僕だって戦える!武器だって使いこなせてる!!年下だからって」

「違えよ、年下だからじゃねぇ。けど、お前の力はどっちかっつ〜と護衛の方が向いてる。なぁ、ポーもそう思うだろ?」

「キュルルル……」

勇助の後ろ髪から出て来たのは、兎のように長い垂れ耳、目が眩む程真っ白で光り輝く、妖精だった。


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