(拉致……ら……れる……)
体が言う事を聞かない。
しかも意識まで混濁してきた。このままでは相手に絶対的に有利だ。
しかし、分かってはいてもどうする事も出来ない。
『ヨウシ、良イ子ダ』
それは、前触れもなく静かに舞い降りた。
「何処へ連れて行く気ですか?」
丁寧な言葉だがドスがきいた少年の声。
鋭利な刃物のような殺気が、部屋全体を満たし始める。
『…誰ダ貴様?』
「答える義理はない。遊びは終わりです。さっさと帰りなさい」
シュルルルルッ!!
ベットから生える筈のない蔦が後から後から生えてきて、【何か】を捕らえる。
『…待テ。私ハ、コノ小僧ヲ連レテ行カネバ殺サレテシマウ!【アノ方】ハ…』
すると、少年は嘲笑った。
「いいから帰れ。あんたの事なんか、僕に関係のない事だ。勇気は渡さないよ」
ギリリリリ…。
蔦は【何か】を締め上げ、霧散させた。
「…ふう、行ったか。………大丈夫…じゃないみたいだ。おい!?しっかりしろ!?」
少年にペチペチ頬を叩かれ、勇気は薄く両目を開いた。
「……あ……う……?」
少年は勇気の顔を覗き込み、顔をしかめた。
「かなり荒くやられたな、こりゃ。やっぱり一度診て貰った方がいいな。………茜!?」
「はぁい!?何ですかぁ!?」
窓の外から、少々離れているのか小さく返答が返ってくる。
「たぶん奴の仲間がもうじき来る。“あれ”頼む!」
「りょ〜か〜い!」
「よし。じゃ、僕が君を抱える。良いね?」
「……う……?」
(誰…?)
視界がぼやけて、よく見えない。
「…いくよ。…そりゃっ!!」
少年は勇気を抱え上げ、窓から飛び降りた。
ちなみに勇気の部屋は2階。
少年が地面に着く直前、巨大なシダ植物のようなものが地面に一瞬にして生え、クッションになった。
「よっと。…茜、待たせたな」
茜と呼ばれた少女は、にっこりと笑い、首を振った。
「全然大丈夫ですよぉ!じゃ、いっきまぁ〜す!!ふわふわわ〜♪」
少女の手から、七色に光るシャボン玉が幾つも生まれ、少し離れた所で合体し、大人が何人も入れそうな程巨大になった。
「もう入ってOKです。…急いだ方が良さそうですね」
彼らから数メートル離れた地面から、【何か】が生まれ、こちらに向かって走り出した。
「すぐ出発しよう!急いで!!」
勇気を抱えた少年は巨大なシャボン玉に突入し、中でフワリと浮いた。
「了解です!!」
茜も同じようにしてシャボン玉の中に入り、眉間に皺を寄せ念を込める。
すると巨大なシャボン玉に透明な翼が生え、見かけによらず一瞬にして空に舞い上がり、車よりも早いスピードで移動を開始した。
「行く先は何処ですか!?」
「【例の場所】へ。なるべくスピードを上げて!勇気の体がもたない!」
勇気は少年の腕の中で、ぐったりと衰弱しきっていた。ほんのりと頬が赤くなってきているので額に手を当ててみると、熱い。
ちらとこちらを見た茜は、驚いた。
「ちょ、勇助さん!?その人いやに弱ってませんか!?」
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