「出勤は?明日からなの?」
「はい。明日来るように言われたんで」
「何時から?明日病院はどうするの?」
「………朝出ます。9時ぐらいに。病院は…明日はパスで」
正直、病院は二度と行きたくない。良い口実が出来たもんだ。
この時ばかりは、誘ってくれた奈津子に感謝した。
叔母はそんな勇気の気持ちを分かっているのか、ため息をつきつつも了承してくれた。
「…分かった、先生に電話しとくね。来週は行かないと駄目よ」
「……はい」
勇気は叔母が自分の目の前に置いた白菜テンコ盛りの皿をじとっとした目で眺めた。
(…肉がなくね?)
しかし、叔母が目で訴えてくるので、仕方なく食べ始めた。
(ホントに肉が見えない…さては底の方に埋もれてるな)
心の中でもう一人の自分がツッコミを入れてくる。
−そんな事よりも。
叔父さんに話すのはどのタイミングが良いのか考えないと…。
(…だよな)
叔母と違って、叔父は何事にも厳しい人だ。
高校を退学する時も散々理由を聞かれ、就職するには学歴が大事なのだから、大検を取るなり他の高校に編入するなりして、大学に行かなきゃ駄目だ。と何度も言われた。
−自分の人生なんだから、自分で決めた事なんだから別にいいじゃないか。
と反発ばかりしていたら、最近は叔父と滅多に話せなくなってしまった。
だから、タイミングというか、どう話し掛ければ良いか分からない。
「私があの人に説明しとくわよ」
「…え?」
「顔に書いてあるよ。あなたは本当に分かりやすいんだから」
見抜かれた。
そういえば、奈津子にも嘘がすぐバレてしまったし、自分はどうも、心の内が顔に出やすいらしい。
夕食が終わり、シャワーを浴びた後は、すぐ自室に戻った。
(ま、とにかくさっさと寝るか。明日は早起きしなきゃ…)
その時だった。
いきなり【何者か】に押さえ付けられ、勇気はベットに倒れ伏した。
ぐいぐいと力強く押さえられている為か、起き上がる事が出来ない。
「ぐっ…!?」
−なんだこれ!?何が起こった!?
『オマエハ【ユウキ】カ?』
「…へ?」
『名ハ【ユウキ】カト聞イテイル。答エロ!!』
(…こいつ…誰だ?)
直感では、嘘をついた方が良いと思った。しかし、嘘がバレたらどうなる?
『…答エナイナラバ、強行手段ヲトルゾ』
「…なぁ…あんた、誰?どっから入って」
『答エル気ガナイヨウダナ』
その瞬間、頭の中に【何か】が入り込んで来るのを感じた。
イメージとか生易しいもんじゃない。
脳みそに指を突っ込まれたような、悍ましい感覚がリアルに伝わってくる。
しかし痛みはない。
「…何して」
『貴様ノ記憶ヲ探ラセテモラウ。少シ辛イダロウガ我慢シロヨ』
すぐ後に、突っ込まれた指から悪寒が、徐々に痛みが全身に伝わってきた。
と同時に、異常なまでの虚脱感に見舞われ、抵抗が全く出来ない。
「………あ………ぐ………」
『…ヤハリ。貴様ガ【ユウキ】カ。一緒ニ来テモラウ。今スグダ』
「………え……ど………して………」
『詳シイ事ハ後ダ。大人シクシテレバ悪イヨウニハシナイ』
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