小説 | ナノ



そのまま瞼を閉じようとすると、

「夕飯出来たわよ〜!帰ってるんでしょう勇気!?ほら〜こっちへおいで〜!」

下からでもはっきりと聞こえる叔母さんの声。

てか、台所に居てよく自分が帰って来たのに気付いたな…。

「はぁ…とりあえず夕飯の後、叔母さんに話してみるか…」

勇気は反動をつけてベットから起き上がり、ゆっくりと階段を降りてリビングへと向かった。

「やっぱり居たのね。ただいまの一言ぐらい言いなさいよ」

リビングへと続く扉を開けた途端、叔母さんにぴしゃりとそう言われた。

毎日言われる言葉だが、何度聞いてもうんざりする。

「あ〜…分かってますよ。明日は気をつけます」

「そう言って、一度も言った事ないじゃない。…ま、とにかく座って。早く食べないと煮え過ぎちゃうわ」

テーブルでは、アウトドア用の小型のコンロの上で、土鍋の中身がグツグツと煮えたぎっていた。

「…今日は焼肉じゃなかったんですか?」

「うん?急遽変更したの。いつもの事じゃない」

…そう。叔母さんはすごく気が変わりやすい。

朝、夕飯のメニューは絶対これ!と断言しても、夜には確実に違うメニューになっている。

おそらく例の特上肉は明日に持ち越したのだろう。

「ハハハ…あれ?叔父さんは?」

「あの人は今日は職場の宴会ですって。夜中まで帰って来ないわよ、きっと」

「…はぁ」

−もしや今回の変更理由はそれか?

席につき、叔母さんが取り皿に白菜を山盛り盛りつけているのをぼんやりと見つめていた勇気は、

(話すなら今か…)

話を切り出す事にした。

「…叔母さん」

「野菜は沢山食べなきゃね〜って、何?」

「俺、バイトを始めようと思うんです。本屋の」

叔母は驚いたのか、白菜を盛りつける手を止め、目をパチクリさせた。

「あら!いつの間に面接行ってたの!?てっきり、あんたは散歩に行ってるかと思ってたけど」

実際散歩に行っていただけなのだが。

「…今日雇ってくれる所、決まったんです」

すると、叔母は嬉しそうに微笑んだ。

「そう。そりゃ良かったじゃない!叔母さんも嬉しいわ。…で、何ていう本屋さんなの?」

「【月影書店】ってとこなんですけど、知ってます?」

叔母は少しの間、首を傾げ考えてから、

「…そういえば、そんな本屋があった気がする。でもそこ、小さな本屋じゃない?時給はいいの?」

(時給?……げっ!!聞くの忘れてた!)

とりあえず適当に言うしかない。

「えと……確か800円くらいだったと思います」

「ふ〜ん。安いわね…まぁ、まだ16だし、そのくらいで妥当かな?」

(妥当って…ま、いっか。一応認めてくれたっぽいし)


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