その日、日も沈み月明かりが街を照らし出す頃。
遊菜と砂夜子は連れ立って歩いてた。
二人の手にはコンビニの袋が握られていて、中にはカップスイーツと缶の飲料が入っている。
ガサガサと音を立て、遊城家を目指して歩く。

「こういう甘い乗って急に食べたくなっちゃうんだよね」

「私はいつでも食べたいぞ」

「あー、そうだったそうだった」

太るかなー、一晩くらいなら大丈夫かな? と、袋の中を覗く遊菜。
砂夜子は漆黒の髪を揺らし、「太っても美人だから大丈夫だ」と返す。

「砂夜子ちゃん……!」

目を輝かせ、遊菜が砂夜子の肩に腕を回した。同じように砂夜子も遊菜の肩に手を回す。
たまに十代とヨハンがやっているのと同じように肩を組合って、どちらからともなく可笑しそうに吹き出した。

公園の前を通りかかったところで、砂夜子が足を止める。
そのままひとり、暗い公園の中に足を踏み入れた。

「砂夜子ちゃん? 帰らないの?」

「少しだけ遊んでいきたい」

入り口で遊菜が呼び戻すも、砂夜子はその声に従うことなくブランコに足を掛ける。
本格的に遊び始める砂夜子に、慌てて遊菜が駆け寄った。

「だめだめ、帰ろう? デザート悪くなっちゃう。十代も待たせてるし」

「……う」

デザートが悪くなる。その言葉を聞いて砂夜子が動きを止める。
渋々ブランコから離れると、キョロキョロと周りを見渡して、ジャングルジムを見つけると今度はそっちに駆け寄った。

「砂夜子ちゃん!」

「これを登ったらすぐ帰る」

いいだろう? と、砂夜子にねだられ、遊菜は「一回登るだけだよ?」と仕方ないとばかりにため息をついた。


  ■


 「ま、まって砂夜子ちゃん、早いって! 暗いんだから慎重に登らないと」

「よく見える、平気だ」

するするとジャングルジムを登る砂夜子とその後ろをついて登る遊菜。
ものの数十秒で頂辺まで登った砂夜子の隣に、遅れて遊菜が到着した。

「ジャングルジムなんて久しぶり。結構高いね」

「ああ。空がよく見える」

並んで腰掛けて、星空を眺める。
一際目を引く白い月を見て、砂夜子が薄く口を開けた。
何かを思い出すような素振りを見せてから、遊菜に向き合う。

「遊菜」

「うん?」

月明かりを浴びて輝く遊菜の金の髪を風が揺らす。
はらはらと風に舞う髪を撫で付けながら、遊菜は砂夜子の言葉を待った。
意を決したように、砂夜子が再び口を開く。

「月が、綺麗ですね」

真っ直ぐに遊菜を見据え、砂夜子は言った。

「…………え」

一瞬ぽかんとした遊菜だったが、少しの間を開けて、その言葉の意味を理解する。
暗い中でもわかるほどに、遊菜の顔が首まで赤く染まる。

「ま、まま待って砂夜子ちゃんッ! それってえっとあのその」

「? 何か変なことを言ったか? 好意を伝えるときに使う言葉なのだろう?」

「そ、そうだけど! 間違ってないけど……でも今の言葉は“like”じゃなくて“love”の方の……」

爆弾を落としながらもケロッとしている砂夜子に、遊菜は必死で説明する。
だが砂夜子はいまいち要領が掴めてないようで不思議そうに首を傾げるばかりだ。

「らいく? らぶ? よくわからん。どちらも同じ“好き”じゃないのか?」

「……あ、あー……なるほどね、はいはい」

砂夜子は、好きと愛の違いをよくわかっていないらしかった。
酷く子供じみた突然の告白に、遊菜は気が抜けたようにガクッと首を落とし背中を丸めた。それから砂夜子を見て。

「死んでもいいわ」

と、微笑んだ。

「…………」

今度は砂夜子の顔が赤くなった。
大きな目を見開いて、驚いたように硬直する。その赤い頬をつん、とつついて遊菜はジャングルジムから降りる。
たん! と地面に着地して、下から未だにジャングルジムの上にいる砂夜子に呼びかける。

「さあ帰ろ!」

「……ああ」

真っ赤な顔を膝に埋め、砂夜子は掠れた声で返事をしたのだった。
ミイラ取りがミイラ。そんな言葉があったなと、頭の片隅で思い出しながら。


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