「遊菜と砂夜子って百合なのか?」
ある休日、遊城家に訪れていたヨハンがそう漏らした。しばらくの沈黙の後、首を傾げたのは十代だ。
「何言ってんだよヨハン」
「いや、だってほら」
ヨハンは言いながら指を差す。その先では遊菜と砂夜子が肩を並べて寝ていた。十代は「まぁ…」と呟く。現状、そう見えるのだから否定は出来ないのだ。
「仲良いっていうのを超越してる気がするんだよなー」
「ヨハンが言うのも分かる」
うんうんと頷いて見せるのはジムだ。ヨハンとジムはお互いの拳を当てる。何か通じるところがあったのだろう。
「て、言ってもなー。これぐらい仲が良いのが普通じゃないのか?」
二人が仲良くしているのに慣れている十代はあっけらかんと言ってのけた。ヨハンとジムは不服そうに眉根を寄せる。
「普通じゃない!絶対にこれは普通じゃない!」
「二人の間にspecialな感情があるんだ!」
「そんなこと言って、報われない思いを正当化すんなよ」
的を射た十代の発言に二人は肩を揺らした。その視線はあからさまに泳ぐ。どうやら図星のようだ。十代は深い溜め息を吐くとゆっくり立ち上がり、遊菜と砂夜子に歩み寄った。
「ほら、遊菜、砂夜子。もうそろそろ起きろよ」
十代の後ろではもう少し無防備な寝顔が見たかった二人がガッカリしている。十代はもう一度溜め息を吐き、遊菜の肩を揺らした。
「ん、んー……砂夜子ちゃん…」
「ゆー…な…」
「起きろ」
お互いの名前を呟く二人に十代は呆れた。ちらりと背後を確認すると、「ほらっ」とでも言いたげにヨハンとジムがドヤ顔をしている。
「別に百合だからってわけじゃないだろー」
「百合!?」
「はい、変なのが反応したー」
「百合」という単語に反応したのは案の定遊菜だった。遊菜はキラキラと瞬く瞳で十代を見やる。十代はめんどくさそうに目線を外した。
「何が百合だって!?キマシタワー!?」
「違うから一回落ち着け」
十代は遊菜の両肩に手を置いてなんとか落ち着かせる。見ると、興奮した遊菜の声に、砂夜子が目を冷ましたようだ。ぱちくりと瞬きを繰り返している。
「ゆ、な…。遊菜ぁ……」
砂夜子は寝ぼけたまま遊菜に抱き着く。遊菜はそんな砂夜子にトキメキを隠しきれず、抱き締め返す。
「あー……」
「な。キマシタワー」
「立ったな。キマシのtowerが」
男三人衆はそんな二人を目にし、思い思いに呟く。十代は今度こそ否定することが出来ず、ただただ二人の女の子が抱き締めあっているのを見つめた。