「おばけさーんおばけさん」

「うう……」

「出てらっしゃいな、あそびましょ」

「や、やめてええ……」

花村遊菜、17歳。
夜の廃病院で、情けなくも泣き出した。

右手には懐中電灯、左手には砂夜子の手。
場所は廃病院、時刻は21時。気分は最悪。一体何故こんな時間にこんな所で泣いているのか。
それは、数時間前に遡る……。


 ■


 「えー! やだよ、絶対いや!」

その日一番の大声を上げて、遊菜は首を横に振った。

夏ももう終わる頃。夜の風が心地良い季節になった。
残暑にも別れを告げ、衣替えの準備をしなくてはならないな、と思いながら沈みゆく夕日を眺めていた遊菜に、十代がとある話を持ちかけた。
それは……。

「嫌だ! 肝試しなんて、絶対しない!」

そう、それは肝試しのお誘いだった。

 真夏の暑さから解放され、ようやく虫の鳴き声を聞きながら夜を過ごすという風流が魅惑の秋へと季節は移り変わったというのに、何故に今頃肝試しなんぞやらなければならないのか。肝試しはそもそも暑さを吹き飛ばすためのものだろう。第一、もう暑くないじゃないか! だったら肝試しに参加する理由どころか開催する必要もない!

「以上のことから、私は肝試しへの参加を拒否します!」

ビシイ! と指を突きつけて、遊菜は一息に言い切った。
完璧な突破だっただろう、ふふふ。と、遊菜はドヤ顔で十代を見上げた。

「ふーん、行かないんだ? ほんとに?」

「い、行かないってば……?」

「そっか、残念だなあ……なあ?」

だが、十代の表情は予想と違って涼しいものだった。なぜ、何故だ!
それどころかニヤリと口角を上げ、今まで背後に隠していた“最終兵器”を投下してきたのだった。

「砂夜子」

「んな!!」

最終兵器……それは十代の背後から静かに現れた。
しゅんぼりと垂れ下がったリボンと眉、がっくりと落ちた肩、そして滲み出る悲壮感。
いつもの数倍落ち込んだ砂夜子の姿がそこにあった。
十代の持ち出したカード、それは“砂夜子を置いて本当にお前は肝試しを拒否できるのか”というものだった。
肝試し……オカルトめいたものや夜道が好きな砂夜子も、当然参加するだろう。
けれども、彼女の楽しみの根源にはいつも遊菜の存在がある。それは遊菜も自覚していた。
もし自分が参加しなかったら、砂夜子はがっかりするだろう、絶対に。
もうこの時点で相当落ち込んでいるくらいだ。これ以上落ち込むとどうなるかわからない。

「ぐ……! ひ、卑怯だぞ十代!」

「何とでも言え!」

「遊菜……本当に参加しないのか……?」

泣きそうな顔で砂夜子が言った。
嗚呼、そんな顔されたら困る! 遊菜は狼狽えた。
そんな遊菜の様子をどこかビクつきながら砂夜子は見て、続ける。

「こういうの、嫌いなのは知っている。でも、私と一緒なら大丈夫ではないか? 一緒に克服してみないか……? 安心しろ、私がついていれば絶対に安全だ。怖くないから……だから……」

いっしょに、きもだめし……っ

そこまで聞いて、遊菜は白旗を上げた。


 こうして、砂夜子の尽力(?)により遊菜の肝試し参加が決定したのだった。

最近心霊スポットそして話題の廃病院に、いつもの3人とジム、ヨハンは集まった。
十数年前に閉鎖された小さな病院で、なんでも夜になると男の叫び声が聞こえるのだという。

あまり大人数で行って誰かが迷子になったりしても面倒だからと、十代によって選ばれたのだ。……方向音痴の要注意人物が混ざっていることに気がついたのは廃病院に到着してからだったが。
まずは十代と遊菜、砂夜子が潜入する。その間ジムとヨハンは外で待機ということで、肝試しの幕は切って落とされた。

のだが……。


 ■


 「十代いいい、どこおおお……」

廃病院に潜入すること数十分。

十代が居なくなった。

所謂迷子である。遊菜は嘆いた。迷子を作らないために云々言っていたのは誰だよちくしょう!!!
目の前を見れば砂夜子は楽しそうに歌を歌いながら靴音を鳴らしていた。
2階のナースステーション前を遊菜と砂夜子は通る。
カウンターに置き去りにされたぬいぐるみを何となく見つめれば、背筋を冷たい何かが駆け上っていく。身震いをして、遊菜は目をそらした。

「いないな、十代」

「そ、そうだね、いないね。何なんだろうねあいつムカつくわ」

「そうは言いつつも……いや、なんでもない」

途中で砂夜子はやめてしまった。
不審に思い首を傾げる遊菜をスルーして、砂夜子はまた妙な歌を再開してしまう。

「もう、だからその歌やめて! こわい!」

「遊菜、遊菜」

砂夜子が遊菜を呼んだ。遊菜は振り返り、固まる。

「お注射しちゃうぞ、ばきゅーん」

そこには左手にバインダー、右手に注射器を構えた砂夜子がいた。
ちゃんとポーズまで決めている。

「………さ、十代はどこかな」

「……え、え、何も言わないのか? 放置なのか?」

「そういうのはもっと別の人の前で……いや、やっぱやられても困るんだけどね」

「……お注射し」

「やかましいわ!」

砂夜子の手から注射器を取り上げ、ぐしゃぐしゃと黒髪をかき回す。まったくどこで覚えたんだ!
未練がましく注射器に手を伸ばす砂夜子を「め!」と叱り、注射器をその片に放り投げた。先が鋭く尖っている注射器をこんな暗いところで振り回したら危険だ。
砂夜子がそわそわしながら遊菜の腕に絡みつく。手を握り返し、溜息を付いた。
とりあえず、十代を探さなくては。
大好きなオカルトスポットにいるせいか妙にテンションが高い砂夜子のことも気になる。

「おーい、じゅうだああああいいい」

……遊菜は叫んでみるも、やっぱり返事はなかった。当然といえば、当然である。

 砂夜子と共に、病院内を進んでいく。
砂夜子は何か見つけるたびに遊菜の手を離し、それらに飛びついた。
それはメスだったり、注射器だったり、何に使うかわからない器具だったり、様々だ。
そんな砂夜子がまた何かを見つけた。
今までとは違った反応。キラキラと目を輝かせ、それを遊菜に突きつける。
今度こそ遊菜は絶句した。

「……なにそれ」

「なーす服だ! テレビで見たぞ、病院で働く女性はこれを着るんだろう?」

そう、それはナース服だった。ご丁寧にキャップまで付いている。
古いものなのは間違いないだろうが、綺麗に仕舞ってあったのか、汚れがない。
ふたり分のナース服を砂夜子は興味深そうに眺めている。嫌な予感がした。

「遊菜、着よう! テレビでやってたやつ、やりたい!」

やっぱりね! そうだよねそうくるよね! なんてこった!
遊菜は当然拒否の姿勢を見せる。

「や、やだよ! 気味悪いし恥ずかしい!」

「そうか……でも、着てみたい。それに、遊菜のなーす服姿も見てみたかったのだが……」

肩を落としてしまった砂夜子。
遊菜は落ち込んでしまった砂夜子に狼狽えた。だって、まさか悪ふざけを断っただけでこんなにもショックを受けさせるとは思わなかったのだ。

「あ……えっと」

「よい。私ひとりで着る! そしてジムにこの注射をお見舞いしてくれるわ。最近鬱陶しいからな」

「待ってダメだよ! そんなことしてもジム喜ぶだけだから!」

そうなのか? と首を傾げる砂夜子の手から再び注射器を取り上げ、ついでにナース服も取り上げる。……一着だけ。
砂夜子が、ぱあああっと笑顔を見せた。着る気になったのか! そんな顔だ。
これを着ないと、砂夜子の機嫌が……。でも、やっぱり恥ずかしい。けど、砂夜子が……。

遊菜は悩んだ。目の前には期待に目を輝かせる砂夜子の姿。手にはイカニモなナース服。

…………仕方ない。

「着るよ! 着ればいいんでしょ! 着るからジムのとこに行くなんて馬鹿なこと言わないこと、いいね!」

「わかった!」

尻尾があったら物凄く振り回しているんだろう。犬のように喜ぶ砂夜子を視界に収め、ナース服を手にとって、襟元のループタイに指をかけた。



 …………

「おおおお……」

砂夜子が感嘆の声を上げた。
その視線の先には短めの丈のナース服に身を包んだ遊菜がいた。
暗がりでもわかるほど頬を赤く染め、恥ずかしそうに自分の格好を見ている。
元々恵まれたスタイルのせいか、とてもよく似合っていた。

「……思ってたよりずっと恥ずかしいんだけどこれ」

「似合うぞ遊菜!」

砂夜子が遊菜の頭にナースキャップを乗せながら言った。
そういう砂夜子ちゃんだって……と、唇を尖らせ、遊菜は言い返す。
遊菜が着るものより幾らか丈の長いナース服を来た砂夜子を遊菜は眺める。
細身の砂夜子に丈の長めなスカートは似合っていた。清楚、という言葉が頭をよぎる。

「テレビてやっていたのとおんなじだ!」

そこかよ。
心の中で突っ込んで、遊菜は足元に雑に畳まれた服を集めた。
砂夜子の服と自分の服を抱え、立ち上がる。

「よし! 十代を探しに行こう! ついでにさっきから煩い地縛霊にも挨拶を……」

「え、え? いくの? この格好で? ていうか地縛霊ってなに……」

ぎゃあああああああ!!!!

突如鳴り響く声。
遊菜は顔を上げて咄嗟に耳を塞いだ。同時に青ざめる顔、引いていく血の気。
砂夜子を見れば、涼しい顔で準備運動をしている。
ぐいい、と足を伸ばし、足元を確認していた。
相変わらず病院に響き渡っている叫び声が、噂の地縛霊なのか……?
だとしたら、今からそれに会いにいくというの? 冗談じゃない!
こうしてはいられない、ヨハンたちに連絡を……!

「いくぞ!」

「ちょ、ちょっとま……いたいいたたた」

携帯電話を取り出そうとした遊菜の腕を砂夜子がひっつかみ、走り出した。
腕に抱えた服を落とさないようにすることに精一杯で、とてもとても電話どころじゃない。
だだだだだと足音を鳴らして砂夜子は駆ける。
こんなにアクティブな砂夜子ちゃん初めて見た! そっかこの子夜になると元気になるんだっけ!
自己完結しながら、遊菜はただただ引きずられていく。
スピードを伴って変わっていく景色。病室の扉が立ち並ぶ廊下を駆け抜け、プレイルームの前を通り過ぎ、砂夜子が最後に足を止めたのは……。

「しゅ、手術室……」

手術室だった。
砂夜子はごく当たり前のように手術室の扉をこじ開け、中に入っていく。
1テンポ遅れながら遊菜も中に入り、すぐに目を覆った。
砂夜子が持つ懐中電灯によって照らされた室内は、赤く染まっていたからだ。
血しぶきのようなもので辺り一面べったりだ。青かったであろう壁が赤く染まっている。

「遊菜、遊菜」

「な、なに。砂夜子ちゃん……」

「おばけだじょー!」

わあっ!
間抜けな声と共に、砂夜子が両手をくわっと上げた。
メスやらクーペやら、色んな物をひっつけて。

「やっかましい!」

本日二度目の「やかましい」に、砂夜子もころころと笑っていた。何がそんなに面白いというのか。
笑い転げる砂夜子の腕をひっつかみ、くっついていた銀色の医療器具たちを外していく。危ないったらない。
それにしても、砂夜子のキャラ崩壊がひどすぎる気がする。
いつもは意図的にボケを連発することなんてないのに。そんなにこの場所が気に入ったのだろうか? それとも、もっと別な原因が……?

「ねえ、砂夜子ちゃん。なんかすごく楽しそうだね?」

「む、楽しいぞ。ここはすごく居心地がいい。それに」

思い切って聞いてみれば、砂夜子はあっさりと答えてくれた。
それに? 続きを促す。

「私が笑えば、遊菜も安心するだろう? 十代がいなくても」

「…………」

そういえば。潜入直後はあんなに怖かったのに、今はそれほど恐怖を感じなかった。
確かに地縛霊の叫び声とやらや、血塗れの手術室は怖い。でも、明らかにさっきよりは恐怖が薄れている。

「……あー……うん。なんか、そうかも」

「よかった」

にっと笑って、砂夜子が手術台に乗り上げた。
片足で立ち、くるりと回って、どこか遠くを見渡す。室内なのだから、遠くなんて見えないはずだけれど。
しばらくひょこひょこ背伸びをしていたかと思うと、手術台から飛び降りた。
そのまま遊菜の手を取る。

「十代はすぐ近くのようだ。さっきの声の持ち主もきっと傍に」

「えええええ! やっぱり対決すんの?」

「対決もなにも、十代と合流するためには接触は避けられないだろうな」

なんてことをさらっと言ってくれるんだこの宇宙人!
遊菜は叫んだ。心の中で。
砂夜子はお構いなしにと遊菜の手を引く。
手術室を出て、階段を降りた。どうやら十代は下のフロアにいるらしい。
階段の踊り場に差し掛かったとき、また聞こえるあの叫び声。

ぎゃあああああんん

んん。最後が何だか妙に艶かしい感じがしたが、理由を考える余裕はない。
砂夜子に手を引かれ、階段を降りた。
その足で廊下を駆け、ある一室の扉を開ける。

そこには……


「ぎゃああああんん!!!」

「オラ! ゲロっちまえよ! おめえ見てたんだろう!?」

半透明のおっさんをいじめる十代の姿があった。

「十代! ってあんた何やってんのおおお!!」

「遊菜、砂夜子! いやさ、このおっさんが中々強情で……」

おっさんはハゲ散らかした頭をぶんぶん振りながら震えている。
白衣を着ている姿から、もしかしたら生前はこの病院に勤めていたのかもしれない。
遊菜はすぐさま十代に駆け寄ると、おっさんから引き離した。

「幽霊いじめるとか流石にそれはないよ十代! いくらおっさんがいかにも犯罪起こしてそうな風貌で変な声で叫んでてぶっちゃけなんかキモくてどうしようもないからってさあ! 死んでまでいじめられるのはいくらなんでも可哀想だよ!」

「そうだよ平和に行こうよ、ピースピース」

おっさんが両手でピースしている。
そして遊菜が十代に、砂夜子がふたりに気を取られているうちにそっと砂夜子の足元に転がった。

「……おい、おっさん……あんた……!!」

「さ、砂夜子ちゃ……!」

「む?」

おっさんの姿が見えなくなったことに目敏く気付いた十代が砂夜子の方を見た。
遊菜も同じように見て、絶句する。何が起きたのか、気づいてないのは砂夜子だけだった。

「……ひッ」

砂夜子は自分の足元を見て、やっと気が付いた。
……おっさんがスカートの中を覗いていたことに。床に転がり自分を見上げるおっさんと目が合う。

おっさんがグッと親指を立てた。

「ぎ、ぎいあああああああああ!!!!」

そして轟く悲鳴。鳴り響いたのではない。轟いたのだ。
病院内をびりびりと震撼させるほどの悲鳴に、その場にいた誰もが耳を抑える。
おっさんすらも目を回した。

砂夜子が思い切り踵を振り上げたのと同時に、固まっていた十代と遊菜が動き出す。
目をひん剥き、砂夜子は何度もおっさんの霊体に踵を落とした。
胸元で揺れる地球儀は真っ赤に光っている。まるで地球最後の日だ。

「ぎゃあああああ!!」

今度はおっさんが再び悲鳴を上げる。
砂夜子の猛攻から逃げようとしたところを、十代に捕まってしまった。
肩で息をする砂夜子を遊菜が抑えるのを視界の隅に捉え、十代はおっさんの尋問を始めた。

 
 「おっさん。さっきナース服の幽霊が俺に相談してきたんだ。おっさん、あんたにスカートの中を覗かれまくって辛いってなあ……。だけどあんたはずっとそれを否定してたよな? でも、もう言い逃れはできないぜ。あんたは、この俺の目の前で砂夜子のスカートを覗いだんだからな!」

「ひい、す、すみません! み、認めます……おじさん、つい覗いちゃいました。スレンダーな子がタイプで……」

「おいクソおやじてめえ! よくも砂夜子ちゃんのスカート覗いてくれたな! 女子のスカート覗くことがどういうことか身を持って教えてやろうか! あ゛あ!?」

ひいい! おっさんが震え上がった。

「ご、ごごごっごごめんなさい! もうしません! 今消えます、すぐ成仏します!」

おっさんはそう言うと、すう……と消えてしまった。

「あ! 逃げんな出てこい!」

遊菜が叫ぶも、おっさんが応えることは無かった。

「……なんて欲に塗れた霊体だったんだ……」

「あの叫び声、なんだったの?」

荒々しく息を吐き、遊菜が十代に問いかける。十代は頷いて、説明を始めた。

「あれは、おっさんがナース服の幽霊たちに蹴飛ばされて上げた悲鳴さ。おっさんいくつも前科あったみたいで。俺が駆けつけた時も、スカート覗いて蹴られてた。ちょっと嬉しそうだったのが気色悪かったね」

「……あー、そう言う感じね。はいはい」

何となくおっさんの好みを察した遊菜は白い目でおっさんが消えた場所を見つめた。
そうか、おっさん、そういうのが好きだったのか。

「そころでさ……お前らのその格好、なに?」

「へ?」

十代が気まずそうに指差した。
そこで遊菜は思い出す。今の自分と砂夜子の格好を。……一昔前の、古いナース服を。
かああ!! 気が付いて、顔が赤くなった。
は、恥ずかしい!! いくら相手が十代といっても、いや寧ろ幼馴染だからこそ恥ずかしい!!
遊菜はぱくぱくと口を動かして、どうにか言い訳を始めた。

「い、いや違うのこれは! 砂夜子ちゃんがどうしても着たいって! それで私にも付き合ってくれって……ほんどうだって!」

「へ、へえ……」

「顔が赤いぞ十代」

いつの間にか冷静さを取り戻していた砂夜子が突っ込んだ。
長いスカートの裾をひらひらさせて遊んでいる。おっさんにスカートの中を覗かれたことは、さっさと忘れることにしたようだ。
靴を鳴らし、砂夜子は遊菜の背後から飛びつくと、遊菜越しに十代をみる。

「どうだ、似合うだろう! 絶対似合うと自信があったのだ!」

「ま、まあ……」

十代がそわそわと視線を漂わせる。その頬が赤いことを遊菜はしっかりと見てしまった。
砂夜子はふふんと笑いながら、遊菜から離れる。

「に、似合ってるよ……」

十代はそっぽ向きながら言った。耳まで真っ赤に染まってるに違いない。
遊菜の耳も同時に熱くなる。ふたりして首まで真っ赤に染めるのを、砂夜子はからから笑いながら見ていた。


 どどどどどどどど!!!!!

響き渡る足音。
ひとりのものではない。複数だ。

「ん? なに……」

3人が首をかしげたとき、扉がものすごく大きな音を立てて蹴破られた。
巻き上がった埃の中から弾丸のように飛び出してくるのは、ジムとヨハンだった。

「砂夜子お!!」

「遊菜!!!」

ふたりは、ぜえはあと荒い呼吸を繰り返し、室内にいた十代たちに駆け寄った。
そして十代をスルーし、砂夜子と遊菜の肩をそれぞれ掴む。

「砂夜子! Are you ok!? さっき凄い悲鳴が聞こえて……け、怪我はないのかい!?」

「遊菜! 無事か!? ああもう十代しっかり付いてろよ! 外まですごい声が聞こえてきたから、俺もう遊菜に何かあったのかと……」

矢継ぎ早にジムとヨハンは畳み掛ける。
目を見開いたまま動けない砂夜子と遊菜に変わり十代が説明するも、ふたりは全く聞く耳を持たない。
さらに『なんでナース服!? いや、可愛いんだけど!』『ま、まさか十代に強要され……!』などと言い出す始末だから、十代は頭痛を覚える。

どうするかな……。適当に辺りを見渡したとき、あるものが床に落ちていることに気がついた。


「あ、こんなところに何故か注射器が」


……ぎゃああああああああああ!!!!!……

むさ苦しい男ふたりの悲鳴が病院内にこだました。

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