「とりあえず、これ」


十代は洗面所にある棚からバスタオルを取り出すと、泡まみれでくんずほぐれずしている二人にかけた。


「ちょ、せめて泡流してからでしょ」


バスタオルを受け止めた遊菜は、それを煩わしそうに返す。そしてゆっくりと立ち上がるとシャワーからお湯を出し、自分と砂夜子を洗い流した。


「んじゃ、はい」


完全に泡が流れきったのを見届けた十代は、またタオルを押し付ける。遊菜と砂夜子……そして十代は互いに何の恥じらいも無いが、ヨハンだけは居心地が悪そうに目をそらしていた。

ジムは未だに床に伸びている。


「うひゃー、ジム大丈夫か?」


身体にバスタオルを巻き付けた遊菜は、ジムの傍にしゃがみこみ、その頬をぷにぷにとつつく。
「服は着ろよ」流石の十代も呆れ気味に突っ込む。なんと言っても、ヨハンが居たたまれない。


「はいはい。着ますよー」


ヨハン、リビングに戻ればいいじゃんとは思う遊菜だが、口にはしなかった。口にするのも面倒くさい。特に恥じらうこともないし、いいかと判断したのだ。
ちなみに、遊菜が照れないのは完全にヨハンをそういう対象として見ていないからだろう。砂夜子もしかり。 最近の女子の強かさには、脱帽せざるを得ないところがあるだろう。その事実に十代はそっと息を吐いた。


「砂夜子ちゃんも服着て」

「分かった」


頷いた砂夜子は某電気ネズミの着ぐるみパジャマを着る。さっきまでは裸だったというのに、一気に色気が消え失せた瞬間だ。
遊菜も自分のパジャマを着る。
その姿にヨハンがガッツポーズしたのは言うまでもない。自分が見立てたパジャマを好きな子が着ているのだ。歓喜しないわけが無いだろう。ヨハンだって思春期真っ盛りの男子である。

ちなみに……いや、ちなまないでも、十代も同じく思春期なのだが、この二人の違いは何なのだろう。


「ジム運ぼ?」


遊菜が砂夜子に声をかける。すると砂夜子は頷いてジムの左足首を持つ。右足首は遊菜が持っている。
引きずるのかな?と十代とヨハンが見守っていると、遊菜が「せーの」掛け声を出した。


「それ」


砂夜子と遊菜はその足首を互いに自分の方に引く。つまり、大きく開脚させたのだ。


「Oh my god!!!」


激痛に飛び起きたジムは足首を掴む腕を振り払い、軽やかに身体を持ち上げると半泣き状態で立ち上がった。


「ゆ、遊菜…?砂夜子…?」


完全に怯えていた。
しかし、それも一瞬だけ。風呂上がりである砂夜子の髪はしっとりと濡れており、ジムの視線を奪う。砂夜子は見つめられる意味が分からず、右手で自分のパジャマの耳を、左手で遊菜のパジャマの耳を引っ張りながら首を傾げた。

十代はさきほどの行動に、「運ぶんじゃないのかよ」と心でつっこみを入れる。声には出さない。


「よし。今回の事件は幕を下ろしたわけだし、牛乳飲もー」


一つ伸びをした遊菜は、砂夜子を風呂上がりの至福に誘い、洗面所を出ていった。

ジムは、その危うそうな砂夜子の足取りを少しだけ暗示しながら萌えている。
ヨハンはウサミミをピョコピョコさせる遊菜にキュンキュンしながらニヤニヤしている。
十代はその二人を見ながら眉を潜めた。

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