「遊菜、これを」


砂夜子がどこか紅潮した顔で、遊菜にプレゼントを渡す。それは例のガーベラの花とメッセージカードだ。
遊菜はそれを受けとり、目を丸くする。 彼女の後ろに待機していた十代は、「キザだな…」と呟いた。


「これ、私に?」
「ああ」


一本だけの美しい花に、遊菜は顔を綻ばせる。その微笑みは、砂夜子の心を安心に落ち着けたのである。


「ありがとう!大切にする!」


遊菜はガーベラの花を急いでシンクに持っていくと、棚から花瓶を取り出した。そして、一度ガーベラの茎を下の方で斜めにカットし、お湯にさらす。
一連の行動に、砂夜子は首を傾げた。 それを見た十代は、口を開く。


「ああやると、花が長持ちするんだってよ」
「そう……なのか」


それだけではなく、遊菜は水をいれた花瓶の中にも何かをいれる。 きっとあれも長く持たせるための術であろうと、砂夜子はそれを最後まで見届けた。そして、一本の花をも大切にする遊菜の姿に、素直に嬉しくなった。



* * *



「ところでジムのプレゼントはなんなんだ?」


ダイニングの真ん中にガーベラの花が飾られたすぐ後に、砂夜子は自分の斜め後ろにいるジムに声をかける。室内でも帽子はとらないのかと、その拘りに少しだけ関心を持ちながらの質問だ。


「oh!俺のpresentはこれだ!」「これ?」


ジムが遊菜に手渡したのは、赤いリボンが巻き付けられた、オレンジ色の物だった。


「これ……琥珀?」
「right!amberだよ!」


遊菜はスルスルとリボンを解き、その琥珀はLEDであるダイニングのライトにかざした。オレンジがキラリと煌めき、遊菜の瞳に同化する。


「すごい!キレイ!ありがとう!」


「My pleasure」そう言おうとしたジムだが、それは叶わなかった。 代わりに漏れたのは、「Yipes!」という驚きの声だけ。ジムの足は、砂夜子に強く踏みにじられていた。


「な、何をするんだい砂夜子!」
「遊菜を誑かしたら許さんぞ」


光を失った砂夜子の双眸に睨み付けられ、ジムは頷く他なかった。



* * *



砂夜子はチラリとリビングを確認し、驚愕した。そこは、いつも訪れるときとは違い、沢山の物で溢れかえっていたのだ。
砂夜子は遊菜の服の裾を引っ張り、聞いてみることにする。


「遊菜、なんだあれ」
「ん? ああ、みんなプレゼントだよ」


「あんなにか!?」と、砂夜子は声を上げる。それを聞いていたジムも随分驚いているようである。


「うん」


このシルバーアクセサリーはアテムさんからで、遊戯さんは普通にパズルくれたでしょ、あの積まれてる新作ゲームは全部瀬人さんから、冷蔵庫に入ってるシュークリームは了さんから、あのネックレスはバクラさんからなの。

それからね。と、嬉々として話す遊菜に、砂夜子は柔らかく微笑んだ。
自分の友人が、こんなにもたくさんの人々に愛されているのが知れて、嬉しかったのだ。


「ああ、やはり遊菜はキレイだな」


唐突に言った砂夜子の言葉は、プレゼントを説明する遊菜の耳には聞こえていないようだ。砂夜子はそれでいいのだと頷き、その背中に声を投げ掛けた。



「生まれてきてくれて、出逢ってくれて、友人になってくれて」



ありがとう。


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