「なんでお前がいるんだよ…」
なぜか私の背後に隠れた十代が、まるで肉食獣のように唸る。 唸る相手は宇宙人の砂夜子ちゃんだ。
「貴様には関係無いぞ」
意地悪く口角を上げた砂夜子ちゃんに、十代は更に警戒心を剥き出しにした。 そんな威嚇しなくても……。って、言っても無駄か。
「十代、今日は砂夜子ちゃんが泊まりに来たの」
私が端的に説明すると、十代が訝しげに眉根を寄せた。いつからだろう。十代がやけに砂夜子ちゃんを警戒するようになったのは。うーん。謎だ。
「って、流石に大人気ないよな……」
「え」
驚いた。十代は唐突に警戒心を薄めると、砂夜子ちゃんを家に招き入れたのだ。ど、どんな心境の変化が。
「砂夜子と遊菜は友達!家族として応援してやるのが責務だろ!」
そうだそうだ。と十代は頷いてリビングに入って行くが、正直意味が分からない。 砂夜子ちゃんは十代を見ながらニヤニヤしてるし……。この二人の間にはいったい何が……。
「砂夜子ちゃんは私の部屋で寝てね」
「押し入れ」
「え?」
疑問解消を投げ出し、砂夜子ちゃんに部屋まで案内しようとした時、彼女が唐突に口を開いた。
ってか、押し入れ?
「未来から来た猫型ロボットが寝泊まりをしているという押し入れはどこにある」
「え、えーと」
無表情のまま詰め寄ってくる砂夜子ちゃんを直視することが出来ない。だって、その瞳が嬉しそうに爛々輝いてるんだもん! ああ!やめて!そんな瞳で私を見ないで!
というか、砂夜子ちゃんのそういう知識はどこから得ているの!? 宇宙は果てしなく未知なり!
「あ、あのね砂夜子ちゃん。この家には押し入れは無いんだ。代わりにクローゼットって物があってね?」
「無い、のか……」
ああああ……!!砂夜子ちゃんの頭の上にあるリボンが弱々しくへたり込んでいく…!! 無表情だから分かりにくいけど、めちゃくちゃ残念がってるに違いない! ごめん!ごめんよ!砂夜子ちゃん!
「じゃあ、クローゼットでいい」
「ごめんよ!砂夜子ちゃ、って、え……?」
この子、今なんて言いました?
クローゼットでいい ですと?
「押し入れの代わりなんだろう?なら、そこでいい」
「よくないよ!!!」
言い合いながらも部屋には着いており、砂夜子ちゃんは部屋に入ると首を巡らせる。多分クローゼットを探してるんだ。
「これだな」
「ダメだってば!」
呆気なくクローゼットを見付けた砂夜子ちゃんは、その中に入ろうとする。私はそんな砂夜子ちゃんの腰に腕を回し、行かせまいと抱き締めた。
「大丈夫だ、遊菜。私はクローゼットでも十分満喫できる」
「何を!?」
「もしや、クローゼットの中に何か見られたくないものでも入ってるのか?」
「ひっ!?」
思わず上擦った声を出してしまった私に、砂夜子ちゃんは敏感に反応して、口角を上げた。ああ、悪い顔してる。
「入っているのだな。なら、ここでの寝泊まりは止めておこう」
砂夜子ちゃんが神妙に頷いたのを見て、私は嘆息する。そして、分かってくれたのならよかったと腕を離した。
「しかし!見させてもらうぞ!」
「はにゃ!?」
油断した隙に、砂夜子ちゃんは私のパンドラの箱を開けてしまった。クローゼットの扉が否応無しに開かれる。さ、最悪だ…!!
「…………」
その中を見た砂夜子ちゃんは、ひきつった顔のまま扉を閉め、こちらを向いた。
「悪かった遊菜。あんな物があるとは……」
「慈悲に満ちた顔やめて!」
このクローゼット、後で鍵でも着けておこう。じゃないと、いつか他の人にも開けられてしまうかもしれない。 十代にさえ哀れんだ目で見られた代物だ。危険すぎる!
クローゼットの中?この際言ってやるよ!
バクラさんとアテムさんと瀬人さんの引き延ばし写真があるんだよ!文句あるか!? みなさん大好き!うわぁーんっ!!!
「砂夜子ちゃん……今見たものは、みんなに秘密だよ……?」
「あ、ああ、承知した……」
ふぅ と息を吐き、崩れていただろう表情を作り直して私は砂夜子ちゃんに向き直る。
「じゃあ、今十代がご飯作ってくれてるだろうから、一緒に手伝おうね」
「あ、ああ!」
小刻みに頷く彼女に一つ苦笑を漏らし、一緒に部屋を出た。