「遊菜、来たぞ」
チャイムの音に呼ばれ、遊菜が玄関の扉を開ければ、頭の上に緑色のリボンをはためかせる砂夜子が立っていた。
遊菜は急いで靴を履くと、外に飛び出す。中にいる十代には、適当に挨拶をする。 すると、十代がバタバタと足音をたてながら玄関まで走ってきた。
「俺も、行く…!!」
おめかしをした遊菜を砂夜子に取られると思ったのか、十代は息も切れ切れに言うと、また中に引っ込み、手早く着替えを済ませ、外に出てきた。
「えー。女の子同士の買い物についてくるの?」
「やはり、見苦しいな。少年」
「うっせぇ……っ」
ま、別にいいけどね。遊菜がそう言えば、十代は安堵の溜め息を吐き、砂夜子は小さく舌打ちをする。十代はその舌打ちを聞き付け、ぎょっとした面持ちで砂夜子を見る。 しかし、砂夜子は既に普段となんら変わりの無い、無表情であった。
「今日はねー。アクセサリーを買いに行くの。砂夜子ちゃんとお揃いが欲しくて」
遊菜が意気揚々と言えば、砂夜子も嬉しそうに頷いた。嬉しそうに、というか、無表情ではあるのだが……少しだけ口角が上がったのだ。
お揃い、ねー。そう鼻を鳴らす十代は、ああ、そうだ。と思い立ち、砂夜子の眼前に服の中に隠れていた物を突き付けた。それは数個のリングがついたネックレスで、砂夜子は首を傾げる。
「これ、遊菜とお揃いなんだぜ!」
な、遊菜! と遊菜を見れば、彼女も服の中に隠れていたネックレスを取り出す。確かに十代の物と同じデザインだ。
砂夜子はそれを淡白な表情で見やると、それがどうした。と溢す。
「私だって、今から遊菜とのお揃いを手にいれるのだ。そんなもの、何とも思わんぞ」
釈然と言い切る砂夜子に、十代は眉根を寄せると、どこか閃いた顔つきになる。
「お前、必死に言いやがって。もしかして、嫉妬してるんだろ?」
「!?」
十代の試すような物言いに、砂夜子は肩を揺らし、遊菜の着るスカートの裾を掴む。遊菜がその様子に首を傾げ砂夜子を見れば、宇宙人の彼女は遊菜を見上げ、口を開く。
「私は嫉妬しているのかもしれない。こんな私は嫌いか…?」
心配そうに上目使いをする砂夜子に、遊菜は心を弾ませる。
「嫌いじゃないよ!むしろ大好きだよ!砂夜子ちゃん大好き!」
砂夜子に飛び付いた遊菜は、矢継ぎ早にそう言う。十代の顔からは、みるみる内に血の気が引いていく。砂夜子はその様子にニヤリと笑うと、遊菜に私も遊菜が大好きだ。と告げた。
そんな二人に今度は十代が嫉妬する番であった。