校舎の廊下を四人で歩く。
黙ったままの露樹の隣をどこか懐かしさに浸った表情の吹雪が歩いている。
その二人の後ろをヨハンと十代が並んで歩いた。
少々重い空気に十代が口を開こうとしたとき、前を歩く二人が扉の前で立ち止まった。
そのまま勢い余って吹雪の背中に鼻先をぶつける。
「ぶっ!」
「大丈夫かい?ごめんね十代くん」
吹雪が十代に苦笑いした顔を向けた。
「だ、大丈夫…」
ぶつけた鼻を擦りながら答える。
何やってんだよ、と隣でヨハンが言いながら肩に手を乗せた。
吹雪が部屋の扉を開け、入るように促す。
三人が入ったのを確認し、自分も入り扉を閉めた。
「吹雪さん、この部屋は?」
「資料室…という名のサボり部屋」
薄暗く狭い部屋の中は物が溢れ、少々埃っぽい。
天井に付きそうな程の棚が並び、沢山のファイルやカードの束達が敷き詰められている。
奥には小さな休憩スペースもあるようだ。
小さく粗末なソファが2つ向かい合い、その間にローテブルが置いてある。すぐ側には電気ケトルとティーセット、茶葉や湯飲みが用意されており、更には小さい水道と流し台もあった。
他にも漫画やデュエル雑誌、ゲーム機など、物が沢山置かれている。
「うわー、なんか色々置いてあるぜ!」
「それは学園の生徒たちが持ち込んで置いていったものさ」
吹雪が優しく笑いかけながら、ティーセットを手に取り、紅茶を淹れる準備を始める。
優雅に動く彼の手を十代が目で追う。程なくして、暖かな湯気とともに紅茶の香りが部屋いっぱいに広がった。
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『そうか・・・、ダークネスに・・・。亮も、変わっちゃったんだね』
露樹が手に持ったカップの中で揺れる紅茶を見つめる。そしてさみしげに呟いた。
「ああ・・・。」
吹雪が膝の上で両の指を組んだ。
『でも、よかった。吹雪が帰ってきて。すごく心配してたの』
「・・・心配かけて、本当に済まなかった。・・ありがとう」
吹雪の言葉を聞き、露樹が表情を和らげた。
「・・・えっとさ、今更だけど二人ってどういう関係なの?」
ずっと黙っていたヨハンが口を開いた。
「あ、ああ。説明してなかったね。置いてきぼりにしてしまってごめんね。彼女は僕と亮の同級生だよ」
吹雪が今までの暗い表情をどこかに追いやり、いつもの明るい笑顔を見せた。
『改めて、紺野露樹よ。よろしくね、レッドの十代くんとアークティックチャンプのヨハンくん』
柔らかい笑顔を浮かべ、十代とヨハンに手を差し出す。
「よろしく」
「よろしく!」
二人は露樹の手をとり握手をした。
「吹雪さんと同級生ってことは、2個上の先輩ってことか」
そう言って、ヨハンがカップに唇を付け紅茶を飲む。
『まあ、学年で言えばそうね。もっとも、歳は1っこしか離れてないけど。』
「あれ、そうなの?でもそしたら何で同級生?後輩じゃないの?」
十代が頭の上に疑問符を浮かべた。
「露樹は中等部から飛び入り入学してきたんだよ」
吹雪が優しく十代に言った。
『それで、吹雪たちと同級生ってわけ。3年に上がって、君たちが入学するのと入れ違いにサウス校に留学したの。2年間向こうに居たんだけど、落第して帰ってきちゃった』
「そうなんだ・・・」
「お前、ちゃんとついて来てる?」
ヨハンが呆れ気味に十代に言った。“つ、ついていってるよ!”と十代が噛み付く。
「そうか、サウス校に行ってたのか。だから去年ここに居なかったんだね」
『うん。吹雪が帰ってきたって聞いてたら、もっと早く帰ってきたんだけどな〜』
ははは、と露樹が小さく笑った。
「ところで、今日留学生が帰ってくるなんて聞いてなかったぞ。」
ヨハンが思い出したように言った。
『鮫島校長に、伏せてもらうように電話でお願いしてたの。こっそりクラスに紛れようかなって!』
「・・・それは無理だと思うけど」
『あはは、やっぱ無理かぁ。・・・さてと、それじゃあそろそろ鮫島校長に挨拶に行かなきゃ。あとジムにも会わないと』
「そうだね、鮫島校長も心配してるかもしれない」
部屋を出る準備を始めた三人を見て、十代が慌てて紅茶を飲み干した