暖かい陽気に包まれた昼下がり、アカデミアの資料室に、オベリスク・ブルーの特待生達が集まっていた。

「ふふん、見てこれ!」

ソファに座っていた吹雪が、ポケットから一通の白い封筒を取り出した。
封筒には小さな花の模様が付いており、シンプルながら可愛らしいデザインになっている。

『うわ、可愛い便箋。良いセンスしてるね』

隣に座る露樹が吹雪の手元を覗き込んで言った。

「どうしたんだ?それ」

テーブルを挟んで向かいのパイプ椅子に座る亮が首を伸ばして封筒を見る。

「ふっふっふー……これ、妹からの手紙!」

「あー。そういえばいたっけ、妹さん」

露樹の隣に座っていた藤原が言った。
それに対して露樹が首を傾げる。

『へー、妹さん居たんだ?。知らなかった』

「明日香っていってね!
僕に似てそれはそれは美人で器量良しでホントによくできた自慢の妹さ!」

『ふーん……まあ、吹雪の妹となると美人なんだろうってのは想像出来る。』

ふむふむ、と露樹が頷きながら続けた。


『でも性格が……ねえ?兄が兄だし』

「ど、どういう意味さ!」

露樹の言葉に吹雪が食らい付いた。キャンキャンと犬のように反論する。

「ねえ、そんなことないよね!亮は明日香に会ったことあるから知ってるでしょ!」

向かい側に座る亮に吹雪が同意を求めた。突然話を振られながらも、亮が答える。

「あ、ああ……。露樹、兄はこんなだが、妹はその分本当にしっかりしているぞ」

『ふーん……。亮が言うなら、そうなのかな。』

「なぜ亮が言うと納得するんだ!」

『亮の言葉には嘘も誇張表現もないから。吹雪と違って』

「がーん!!!」

吹雪ががっくりと項垂れた。藤原が腕を伸ばし露樹越しにその肩を叩く。

「それで?手紙にはなんて書いてあったんだ」

亮が話を引き戻す。吹雪が顔をあげ、再び便箋を取り出す。

「えっとね、簡単な近況報告と、それから高等部で頑張る僕へのエールさ!
ふふふ、良い妹でしょ〜」

あすりーん!と頬を緩めながら吹雪が便箋に頬擦りをした。
ハートマークが飛んでいるかのように見えて、露樹が苦笑いする。

「よかったな、吹雪」

「うん!」

藤原がそう言ってやれば、吹雪は嬉しそうに頷いた。
にこにこと笑顔を浮かべながら、吹雪が思い出したように切り出す。

「そうだ、亮はちゃんと翔くんと連絡とってるの?」

「……まあな。たまにだが、電話してるよ」

「へえ。そういえば丸藤にも弟がいたな」

「ああ。」

亮は静かに頷いて、少しだけ表情を柔らかくした。

「明日香とは学校は違うが同い年だ。もしかしたら同級生になるかもな」

「そうなったら面白いね!楽しみだ」

『ほ〜……いいねえ。兄弟いるとそういう楽しみがあるのか。』

「だな。俺一人っ子だからそういうのよくわかんないや」

『右に同じく。』

露樹と藤原が言った。2人は微かに羨望が混じった視線を亮と吹雪に向ける。

「そっか、君たちは兄弟いなかったか。でも、一人っ子は一人っ子の楽しみがあるんじゃないの?」

「ああ。何でも独り占め出来るし、自由じゃないか」

吹雪と亮の言葉に、露樹と藤原が目を見合わせる。そして亮達に向き直った。

「そりゃそうだけど。でも絶対兄弟居たほうが楽しいって」

『うん。もし、お姉ちゃんいたら何でも相談するし、お兄ちゃんいたらいっぱい甘えたいし、弟と妹がいたらめいっぱい可愛がりたい』

「ん〜……そういうもんか」

「無い物ねだりだな。仕方ない」

吹雪が腕を組み、亮が頷く。そのご、吹雪が人差し指を上げた。

「あ!じゃあ、僕らが露樹たちのお兄さんになってあげる!」

これは名案!と吹雪が手を叩く。
しかし、藤原が眉間に皺を寄せた。

「えー、それは無理ありすぎだろ。吹雪も亮も兄貴だとは思えないって。特に吹雪」

「なんで!」

「自分の胸に手を当ててよーく考えな」

「む……むう……。」

吹雪は藤原に言われたとおりに胸に手を当て、黙り込む。
その様子に小さく笑いながら、露樹が言った。

「私は実際に1つ年下だから、まあ変ではないのかな。うーん、吹雪と亮がお兄さんか。」

「嫌か?」

亮が柔らかく笑みながら露樹を見る。その顔を見た露樹は、少しだけ頬を染めた。

『や……その。嫌ではないかな、うん。実際ね、時々思ってたの。亮がお兄ちゃんだったらなーって……。と、時々だよ!ほんと!』

「……そうか。俺も、妹がいたらお前のような感じなのかと、たまにだが思ったことがあった。時々翔の相手をしているような気分になるんだ」

『そ……そっか。へへ、なんか……うれし……。』

露樹がはにかんだ。
その腕を、誰かの手が掴む。

「……そこ、なに勝手に盛り上がってんの」

藤原だ。藤原は不機嫌さを顔に出し、露樹の腕を掴む手にさらに力を込める。

『いたい、痛いって!何なのもう』

露樹が抗議の声を上げるが、藤原は聞く耳を持たない。
手に込めた力を緩めるも、離すことはせずに続けた。

「俺はそうだなー、丸藤と吹雪は兄弟って感じしないけど、露樹はなんか妹って感じかな。」

『はあ!?私が藤原の妹?ていうか藤原がお兄ちゃんとか嫌だわ私』

藤原の一言に露樹が噛み付いた。
そのまま小規模な口論へと発展する。

「なんで、こんなよく出来た兄貴なかなかいないぞ!程よく親しみやすくて優しくて成績良くて色々優秀!吹雪みたいにヘラヘラしないし亮みたいに真面目すぎない!」

『ばっかだなあ!その2人に埋もれてるのが今のあんたでしょ!こんな頼りないお兄ちゃんは中々いないよ!藤原は兄というより弟!それも可愛げの無い部類の』

「な!俺だってお前が姉とか嫌だね!口うるさそうだし弟に色々押し付けてぐうたら昼寝するタイプだろお前」

『そんなことないっての!年下は可愛がる主義なの!もうね、可愛がりすぎて引かれるくらい可愛がっちゃうよ私!』

「そんな姉貴尚更いやだ!」

狭いソファの上で繰り広げられる応酬を見て、吹雪が笑った。
彼特有の優しい笑顔を浮かべ、亮に向き直る。

「なんていうかさあ、露樹と藤原は双子って感じだよね」

「ああ。俺もそう思っていたところだ」

クスクスと吹雪が笑い、亮を手招く。
亮は不思議そうに瞬きをして、椅子から立ち上がる。
亮が吹雪の前に来たところで、吹雪が立ち上がった。

「まあまあ、お2人さん」

「なに……わわわっ」

『うわ!何、どうしたの吹雪』

「……おい」

吹雪は立ち上がると、両腕を大きく広げで3人を抱き込んだ。
突然のことに、藤原達が声を上げる。
だが、お構いなしとばかりに強く抱きしめる。

「うんうん、僕たちは同級生であり兄であり妹であり姉であり弟でもあるってことで落ち着こうじゃないの」

「はあ!?何それわけわかんない……ていうか長いな!」

『……それって、家族ってこと?』

露樹がポツリと言った。隣にいた藤原が動きを止め、正面にいた亮がそっと頷く。

「そ!さらに言うと家族であり親友ってところかな!」

『……そっか。いいかも、それ』

露樹が笑う。横にぴったりとくっついていた藤原が、短く息を吐く。

「……ま、いいんじゃないの。別に」

そして彼もまた笑った。

「ああ。悪くない」

亮の言葉に、吹雪が力強く頷いた。

暖かい陽気に照らされた、資料室の窓辺で過ぎていく日常の1ページ。


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