「今年も1年良いことがありますように!」

『ように!』

パンッ、と吹雪と露樹それぞれ手を合わせた。


亮、吹雪、藤原、露樹の四人は、アカデミアから離れた、本土の神社に来ていた。
なぜ神社に来ているかというと・・・。
ーーーーーーーーーーーーーー

冬休みも残すところあと数日、殆どの生徒が島を離れているなか、四人は学園に残っていた。

「なんかさー、暇だよね」
いつもの図書室で、吹雪が言った。

「あ、そうだ!街に行こう」

『街?』

「また急だな」

「急も何も、今しかないじゃないか!もうすぐ学校始まるし」
「え〜…めんど…。」

「藤原!そんなことだから君はいまいちパッとしないままなんだよ!」

「ぱ、パッとしてなくて悪かったな!」

「露樹、お前はどうする?」

『そーだなあ、ずっとここに篭るより、外で遊んだほうが楽しいかも。行きたい!』

「うんうん、そうだよね!外で遊びたいよね!よし、行こう」
吹雪が満足げに頷いて、荷物を纏め始めた。

『亮は?行くんだよね?』

「ああ。・・・たまにはいいだろう」

「じゃあ早速職員室に行って外出届けを出そう!」
るんるん、とそれはそれは楽しそうに吹雪が動く。

『藤原は?いかないの?』

「・・・・いく」

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こうして一日数本運行するフェリーに乗り込み、島を抜け出し童実野町に入り込んだ。
そして正月ということもあり、まずは神社にお参りにやってきたのだった。

「よし、じゃあまずどこ行こうか!」

『やっぱり海馬ランド?』

「でもさー、わざわざ学園抜け出してまで海馬ランドって・・・なんかなー」
藤原が言った。

『じゃあ買い物!私新しい服欲しいんだよね!あと、映画見て、今話題のケーキショップ行って、それからそれから・・・』

「なんだよそれほとんど露樹しか面白くないじゃん!だったらまだ海馬ランドのほうが・・。」

「いいんじゃない?僕はいいと思うよそういうの。うんうん、露樹も女の子だねー」

「俺も、それでいい」
亮と吹雪が露樹に賛成し、流石に藤原も押し黙る。

『じゃ、行こう!』

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それからは童実野町のショッピングモールに移動して、さっそく店を回り始めた。
服を始め、雑貨やアクセサリー、菓子や紅茶などの嗜好品など、好きなものを買っていく。そしてそれらが入った紙袋は結構な数になっていた。
しばらく買い物を楽しみ、映画館に入いる。

『んー、そうだなあ・・・みんな何観たい?』

「僕はなんでもいいよ」

「俺も、あまりうるさいものでなければ」

「俺は・・・そうだな、あれが見てみたい」
亮が指差したパネルには今話題のホラー映画が映っていた。

『・・・え、亮ってホラー好きなの?怖いやつ』

「ああ」

『い、意外・・。』

「じゃあ、それでいいかな」

「えー・・・」

『いいよ!』

「・・・・。」
納得いってない顔の藤原を無視して話は進む。

『それじゃあ、チケット買ってくるね!』

「あ、じゃあ僕も一緒に並ぼう」
にこりと笑った吹雪が露樹の肩に手を置く。

『そう?ありがとう』

「どういたしまして。それじゃ、亮たちは飲み物とか買ってきてよ」

そう言って吹雪と露樹は行ってしまった。

「・・・買いに行くか。」
亮の言葉で、藤原も動き出す。

フードショップの列にならび、4人分のソフトドリンクを購入した。
二つずつ手に持って、列から離れて吹雪たちを待つ。

程なくして二人が戻ってきた。

『それじゃ、席につこうか』
劇場に入り、通路側から、藤原、吹雪、露樹、亮の席順で座る。

上映が開始されるまでの数分間、ワクワクした様子の露樹がパンフレットを握りはしゃぐ。
『楽しみだー!』

「露樹はホラー平気なんだね?」

『うん、怖いのは好きよ。心霊番組とか、絶叫マシーンとか』

「あはは、それじゃあデートの楽しみが無くなっちゃうね」

「ていうかモテないんじゃないか」
藤原がストローを噛みながら言った。

『な!だったら怖いの嫌いな男の人と付き合うもん』
ずずー、と露樹がジュースを飲む。

「お前たち、今からそんなに飲んで、途中でトイレに行きたくならないか?」

『平気平気』

「大丈夫大丈夫、てか飲んだあとに言われても。もうすぐ始まるし」

「・・そうか」

劇場が暗くなる。どうやら上映開始らしい。

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夜の廃校の廊下を、少女がプリーツスカートを翻して走る。
目の前の角を曲がったとき、ボロボロに顔が崩れ、薄汚れたセーラー服を来た女が立ちふさがった。
「きゃああああああ!」
甲高い悲鳴を上げて、反対側に向かって走り出す。しかし、足がもつれうまく進むことができない。
その間にも女は少女に近寄っていった。

「い、いや・・!来ないで!!」

皮膚が剥がれ、肉が裂け、骨が見える指を少女に伸ばす。
「いやあああああ!!!!」

ーーーーーーーーーーーーーー
『ずずー・・・』

「・・・それは俺のなんだが」

『へ?・・ああ、ごめん』
どうやら飲み物を亮のものと取り違えたらしい。
『中身同じだから、気付かなくって』

「いや・・大丈夫だ。」
そう言って亮は露樹から手渡された飲み物に口をつけた」

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「やー、けっこう面白かったね!」

『うん、お化けもよく出来てた!とくにあの真っ黒焦げの・・・』

「ああもうやめろよ!生々しい!」

劇場を出て、興奮が冷めないまま映画の内容について語りだした吹雪と露樹に、藤原が抗議する。

「なんだあ、藤原ってホラー駄目なんだ?」

『怖いもの好きな女がモテないなら、怖いのダメな男はどうなるのかな?』
二人が藤原をからかう。

「・・・お前らあああ!」
腹を立てた藤原が二人に飛びかかった。

「おい、あんまり騒ぐな。人前だぞ」
じゃれあう三人に亮が言った。それを聞いて三人も騒ぐのをやめる。

「・・よし、じゃあ次はどこ行こうか」

『はーい、ケーキバイキング行きたい!』

「それじゃあ、行こうか」

『確か、下のフロアにお店あったから、早速行こう!』

露樹が駆け出した。

それに続くと、可愛らしい看板を置いたケーキショップが見えてきた。
露樹が手を振って待っている。

「いらっしゃいませー!何名様ですか?」

店内に入って、チケットを購入する。そして案内された席に着いた。
早速露樹はケーキを取りに行ってしまった。

「俺甘いもの得意じゃないんだけどなー・・・。」

「まあまあ、いいじゃないか藤原。」

「ケーキ以外にもあるから、お前はそれを食べたらいい」

露樹が皿にいくつかケーキを乗せて戻ってくる。
『あー、いっぱい取っちゃった。』
皿の上にはチョコレートケーキや、タルト、ムースケーキなど様々なケーキが乗っていた。

「露樹、僕にも一口ちょうだい」

『えー、自分で取りに行けばいいじゃん!』

「・・・吹雪、お前がそこで“あーん”をしてもらったら、俺と亮がすんごい寂しいやつみたいになるだろうが」

「えー、そんなつもりは無かったんだけどなー」

藤原と吹雪のやり取りを見ていた露樹は自分のケーキを一口分フォークで切り分けると、それを藤原の口元に持っていった。

『はい藤原、あーん』

「・・・え、何してんの」
藤原がピシリと固まった。

『食べないの?じゃあ、吹雪か亮・・・』

「た、食べる!食べます!」
藤原がパクリとケーキを食べる。

それを見て露樹が満足げに頷いた。

『亮もどうぞー』
また一口切り分けて、今度は亮にフォークを向けた。

「・・・いただこう」
亮もそれを食べた。

『さ、私も食べよーっと』

「ええええ、何で二人には食べさせてあげるのに僕にはやってくれないの!」
吹雪が不満げに言った。

『冗談だよ、はい吹雪』

「ありがとう!うれしー」

「俺パスタとってくるわ」

藤原が席を立った。それに続き亮も席を離れた。

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バイキングを楽しみ、ショッピングモールを出ると外はもう真っ暗だった。

「うわー、思ったより時間かかっちゃった」

『そろそろ帰らないとまずいよね?』

「ああ、港に行こう」

四人は港を目指して歩き始めた。

『楽しかったなー、また来たい』

「俺は海馬ランドがいい」

「僕はどっちでもいいけどね。亮は?」

「俺も、どちらでもいいよ」

夜の童実野町は明るかった。
電灯がたくさん灯り、人々が行き交う。

『ふっふっふー』
何やら楽しそうに、露樹が両脇にいた亮と吹雪の腕を組んだ。
「なんだ?」

「どうしたの?」

『べっつにー!』

嬉しそうに二人の手を握った。

「・・・俺だけなんか寂しい奴みたいになってんじゃん」
藤原がポツリとこぼし、吹雪の隣に並んだ。

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その夜、予定より大幅に遅れた時刻にアカデミアに帰ってきた四人が、教師陣に大目玉をくらったことは言うまでもない


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