51…海だ!水着だ!任務だァ!!

楽しい観光の翌日、私達はお世話になった人々に挨拶を済ませバスに乗った。
このまま駅まで向かい、新幹線に乗って帰るのだと……皆がそう思っていたが……


「えーっと、よし。じゃ、これから新幹線に乗って一路正十字への帰途につく……と思ったら大間違いだ!!」

「今から総員、水着を買ってきてもらう!!」


楽しげにシュラさんは水着専門店を指し示した。
全員の頭に【!?】が浮かんでいても、彼女は一足先に店へと入っていく。

疑問に思いながらも、先輩方や塾生達は店で水着を選びだす。


(水着……この人数で行くとなると、海ですね。泳ぐ気分でもありませんし……)


私は泳ぐなら川が良い。
海が嫌いなわけではなく、泳ぎ終わった後の塩水のベタつきが好きではないのだ。

探すふりをしていると、熱海の方で悪魔退治の依頼があったらしいと先輩方が話していた。

そういう事なら……と、私はサンダルだけ買いに行く。
戦闘になるなら足に固定するタイプが望ましい。


「『………あ』」


女性物で動きやすい履き物が無かったので、男性用コーナーへとやって来た私と、水中メガネを手にした雪と鉢合わせした。


「ここ、男性用だけど……」
『女性用は戦闘に不向きですからね。このタイプが欲しかったんですよ』
「なるほど……水着は?」


私と雪は同じサンダルを選んだ。
そして、水着は買う必要がないと言ってその場を去る。

雪も買わないらしく、一緒にレジへと向かい会計を済ます。
店を出る途中で子供コーナーが目に入り、立ち止まった私は急いで二点購入した。


『絶対に可愛いですって!』
「うーん……入るなとは言えないけど、間違っても電気を流さないように注意してくれ」
『了解!』


この後の水着パラダイスや可愛いピカを思い浮かべるだけで……ニヤニヤが止まらない。
隣を歩く雪からは呆れた視線を向けられているが無視だ。








海に到着した私達は着替えを開始。
私は昨日の観光で着ていた服装と、先ほど購入したビーチサンダルに履き替えた。

それを見たしえみはシュラさんに怒られると言い、神木さんは怪訝な視線を送っている。


『私は泳ぐつもりもないし、こっちの方が気が楽で良いんです』
「………そう…なんだ」


何か言いたげに見えたしえみだが、先輩に早く着替えるようにと注意され、急いで服を脱ぎ始めた。

後ろを振り返れば、神木さんのしかめっ面が私の方に向けられている。
……空気読めない奴。そう思われているのだろうか?

無言の圧が強すぎるので、秘密兵器を用意する。
みかん味の水を美味しそうに飲んでいるピカを呼んで、先ほど購入した【浮き輪】と【麦わら帽子(耳穴貫通済み)】を装着。

その姿を神木さんの方へと向けると……彼女は衝撃を受け、頬が盛大に緩みかけた。


「な……ななっ……カワ……イイッ!!」
「ピッ?」


よく分かっていないピカは、神木さんに手を差し出し……「一緒に行こう!」と誘う。
もちろん、彼女は即OKだった!

浮き輪を両手で支えながら歩くピカに皆が頬を染め、黄色い声を上げている。
その様子や、神木さんと歩くピカの写メは当然撮ったさ!


「………へ、変かな?」
『!』


しえみが恥ずかしがりながらも見せてくれた水着姿を……変などと思うわけがない。
全身全力で褒めさせていただきました!
写メも撮りましたとも!

幸せいっぱいの私だったが、シュラさんに捕まってしまい、説教を受けている間に皆は浜辺へと移動していた。

ちなみに、私服に遠距離射撃可能な銃を背負った雪も一緒だ。


「たくっ!水着着てないのお前らだけだぞ!ちったぁ若者らしく楽しめ!」
『ベタつくのキライ。水着じゃなくても問題ナイネ』
「遊びに来ている訳ではないのだから、これで問題ないと思いますよ」


二人して反省する素振りを見せない。
そんな私達をシュラさんは、顔を引きつらせながら血管を浮き上がらせていた。











「海神よ……!あざッッしたア゛ア゛ア゛!!!」


浜辺へとやって来て、目に飛び込んできたのは志摩君の海神への感謝を叫ぶ姿だった。
女の子の水着についてテンションが上がっている彼は、しえみは着ないと言っていたと燐から聞きショックを受けている。

見ていて飽きないなぁと思いながら、私は雪と一緒に階段を降りていく。


「あ!ソラちゃん!……って、なんで!?」


私服姿の私達を見た志摩君はあからさまにショックを受けている。
何故なのかと問われるが……もう説明するのも面倒くさい。

雪は気にすることなく水中メガネと防水時計を身に着け、私は苦笑しながら軽く手を振った。


「え?おまえら水着は!?」


志摩君の隣りにいた燐は同じ質問をするが、雪は視線を反らし、私は仕方なく簡潔に答える。


『水着よりも此方の方が戦闘はしやすいので拒否しました』
「……戦闘?」


首を傾げる燐には悪いが、今回は任務で来ている。
その説明をタイミング良くシュラさんがスピーカー越しに始めてくれた。


「今回の祓魔対象は【大王鳥賊クラーケン】だ!!」


作戦場所は観光客を避難させた、ここ熱海ビーチ。
大王鳥賊は食人性の為、一時間程前から輸血による人間の血を散布中らしい。

現在、接近中の大王鳥賊を倒す為に役割が発表され、私達候補生は吸盤から排出されるダミーを掃除するよう指示が下る。

とはいえ、現れるまでに時間もあるので……暫くはバカンス気分で楽しめとの事だ。


(美少女とキャッキャうふふと楽しみたいのですがねぇ……任務中というのがアカン。今はそういう気分になれません)


不浄王との戦いから三日しか経っていない。
心が晴れやかではない私には楽しむなど無理だ。
任務……戦闘が控えてなかったら良かったのになぁと、私は盛大な溜息を吐いたのだった。

[ 52/53 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]


top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -