50…観光にも生活にもお金は必須!

翌朝は快晴。絶好の観光日和となった。
一番遅くに眠ったソラは誰よりも早くに目覚め、身支度を始める。

顔を洗いに行くと、鏡の前でワナワナと震える雪男を発見。
ソラが朝の挨拶をすると肩をビクつかせ、慌ててその場を去ろうとする雪男だったが……残念な事に素早く捕まってしまう。


『何やら面白い事になってませんか?』
「何でもないから放してくれ。もう少し眠りたいんだ!」


一度としてソラの方に振り向かずに、顔を手で隠している雪男を見て、彼の言葉を信じる者はいないだろう。

ソラは仏のような笑みを浮かべたまま雪男の腕を掴んでおり、彼は厄介な相手に捕まったと内心、かなり焦っている。


『あ。しえみ、おはようございます』
「っ!!」


まるで、雪男の前方からしえみが来たかの様に挨拶をしたソラ。
彼が慌てて背を向けた瞬間、視界に入ったのは満面の笑顔を向ける幼馴染みの顔だった。

固まる雪男に彼女はサムズアップと共に悪びれることなく言う。


『嘘ですよ。いやぁ、その落書き……誰にやられたんですか?ん?』
「………………………」


雪男の顔には髭や大量のホクロと思われる黒い点が多数描かれている。
それを必死に声に出して笑わないように堪えているソラへ……雪男は怒り任せに両頬を引っ張りだす。


『なぁあああ゛あ゛!!』
「さあ!?誰なんだろうね!?最後に話したのは兄さんだから奴の可能性は高い!腹が立つよ本当に!!」
『や、やつふぁらりぃ!!』


八つ当たりだと叫ぶ彼女だが、そうさせたのはソラなので同情の余地はない。
騒いでいると寝惚けたシュラがやって来て、目の前の光景で一気に目が覚めたようだ。

止めに入って事情を聞いた彼女は、スッキリした様子で落ち着いた雪男と、頬を擦りながら彼を睨むソラを交互に見る。


「………お前らって仲良いよな」
『この状況を見て……何故にそう思えるのですか?』
「自業自得だよ。まったく、朝から疲れた……」


そう言って顔を洗い出す雪男を軽く睨むソラ。
しかし、そりゃそうだと納得しているので言葉にはしない。

シュラは心の中で「ケンカするほど仲が良い」と呟き、雪男の方をチラ見した。
騒ぎの原因となった落書き……アレの犯人はシュラなのだ。


(燐には悪いけど……うん。黙ってよ)


その後、彼女から雪男も気晴らしに皆で観光してこいと言われる。
特に反対の意を示すでもなく、彼は了承した。












二時間後、全員が私服に着替えて門前に集合した。
ソラは七分袖のラフなロングTシャツ、シャツに隠れない程度の黒のショートパンツ、スニーカーといった姿だ。
荷物はシンプルなデザインのリュック型鞄に入れている。


子猫丸から行きたい所はないかと問われ、各々が候補を上げていく。
その中で一番強く希望場所を口にしたのは燐だ。


「お・れ・は!!京都タワー!!」


それはもう必死に嬉しそうに手を上げて言い切った燐。
他にも名所はあると言われても行きたいと頼み込む燐と、そんな彼をからかいながら了承する子猫丸達をソラは小さく笑いながら見ている。

その隣では雪男がタブレット片手に最適な道順や、バスなどの時間を調べていた。


(京都に着く前から楽しみにしてましたからね……雪も誘って行こうって、こんな早くに叶うとは……)

「ソラは行きたい所はないの?」
『!』


隣を見ればタブレットから目を離さずに作業をしている雪男がいた。
問われて考えた後にソラは特にないと返す。

意外だったのか、雪男は手を止めてソラへと視線を向ける。


「何かあったの?体調が良くないとか?」
『なんでやねん……』
「君のことだから、宝くんみたいに舞妓を見てみたいとか、しえみさん達が喜ぶ場所を調べて、その喜ぶ姿を目の保養ついでに隠し撮りしたりするでしょ」


冗談ではなく真顔で言い切った雪男……顔を引きつらせながらもソラは反論しなかった。
過去を振り返れば言われても仕方がない事をしてきたのだから……

足下にやって来たピカを抱き上げながら、彼女は行きたい場所は一か所だけだったのだと言う。


『京都に着いてすぐに京都タワーが見えまして……その時に落ち着いたら雪も誘って、京都へ遊びに行こうって、燐と話していたんですよ』
「僕も……?」
『ええ。事件から日の浅い時ではありますが……貴方達と一緒に観光ができるだけで私は満足です』


そう言って彼女は笑みを浮かべた。
雪男は一言「それも君らしいね……」と返し、小さく笑う。

そんな二人の所にやって来たのは燐だ。
雪男は例の落書きが燐によるものだと誤解しているので、日頃の不満も相まって彼への態度は少々冷たい。

しかし、燐は楽しい観光にしようと幾度となく雪男に話しかけている。
ちなみに今回はソラに用事があったようだ。


「昨日言ってたプレゼントって何だ?出発前に渡すって言ってたけど……」
『フッフッフ……よくぞ聞いてくれました』
「あ。やっぱいいや。早く行こうぜ!」


ニヤリと不気味な笑みと共に口を開いた彼女を見て、燐は危険を察知したらしく逃げようとした。
しかし、首根っこを掴まれた彼は逃げることを許されずに終わる。

やめてくれ!と叫ぶ彼を皆が怪訝な視線を向けるが、雪男だけは話をソラから聞いているので、呆れ気味にその様子を見ていた。

暴れる燐にソラは意味深な脅し台詞をやめ、何事もなかったかの様に一枚の封筒を手渡す。


「………へ?」
『メフィさんから頂いた観光資金ですよ』
「あ、ああ……なるほど……って!じゃあ、さっきまでのやり取りは何だったんだよ!?」
「ソラの悪ふざけに決まってるだろ。見事に遊ばれたね。兄さん」


雪男の言葉に燐は怒りを込めてソラを勢い良く睨む。
そんな視線を気にすることなく、彼女の手には【ドッキリ大成功!】と描かれたスケッチブックがあった。

満足気にニコニコとしているソラを神木は呆れ気味に、しえみ達は苦笑しながら見ている。


「やっぱり、ソラちゃんは元気なのが一番だね」
「あんたは被害に合わないからそんなことが言えるのよ。やられてる方は最悪なんだから!」
「でも、出雲ちゃんは毎回やり返してるやん。何もなかったら無かったで寂しいくせに〜」


志摩の茶化しが図星だったのか、神木は顔を赤くしながら睨み彼へと標的を変えた。
その頃の燐は中身が一万円札だった事に驚愕しており、何度も札とソラや雪男を見ている。

そして、勝呂の呼びかけにより一行は京の町へと向かう。








歩きながら一万円札をキラキラとした瞳で眺める燐を、勝呂達は喜び過ぎだと笑っている。
しかし、普段の生活費が月に二千円札という嫌がらを受けている燐にしてみれば当然の反応だ。

歩きながら後ろを振り返った燐は満面の笑顔でソラに礼を言う。


「ありがとな、ソラ!」
『いえいえ、せっかくの観光ですから楽しみましょう』
「おう!!」


再び前を向いて歩き出した燐は上機嫌だ。
そんな彼を終始ニコニコと見つめるソラの横で、同じく前へと視線を向けたまま雪男が問う。


「で?本当はいくら脅しとったの?」
「「!?」」


聞こえていた神木を含む京都三人組はギョッと目を見開き、ニコニコ顔のソラを見る。
そんな周りを他所に二人は変わらずに歩き、ソラは片手を軽く上げ五本指を広げて見せ、再び皆の視線を集めた。


『残りは今後の事も考えて貯金しておくべきでしょう。後でお渡ししますので管理の方、お願いしますね』
「わかった。兄さんの生活費が上がっただけでも有り難いのに……助かるよ。ソラ」


ソラは屋根の上でメフィストに二つの頼みごとをしていた。
一つは皆で観光させたいなら、燐にちゃんと小遣いをあげること。
最後に月の生活費を少しでも上げること。

それはそれ、と拒否するメフィストにソラは『一応、保護者なんですよね?』と睨んでいる。
今回の事をネチネチと愚痴りながらの嫌がらせ+さり気ない脅しを交えての説得により、メフィストは渋々ながらも応じた。

功労賞という事で観光資金五万円、月の生活費を一万円にまで上げる事に成功したのだ。


『今後もチャンスとあらば脅…説得して生活費を上げていきますね』
「ああ……本当に頼もしいよ。兄さんだと逆に下げられてしまうから……」


その後も生活費が上がった金額を少なめに話して、残りは燐の今後を考えて貯金していこうかと話す二人。
そんな会話を聞いていた勝呂達は唖然としている。
最初に口を開いた志摩から順に子猫丸、勝呂、神木が話していく。


「ね、ねえ。あの二人って奥村くんのなんやの?」
「さ、さあ?まるで子どものお年玉や小遣いを管理する母親みたいですね」
「オカンにしては物騒な単語がチラホラあったけどな……」
「というか、観光中に話す内容じゃないでしょ」







ようやく始まった京都観光は始まったばかり。
いつもの騒がしさが戻った束の間の休息……彼らは日が暮れるまで存分に楽しんだのだった。


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