49…萌えを愛する同士は悪魔の王である
燐との食事を終えたソラは離れた席にいる皆の所に……ではなく、食器を片付けて広間を出て行った。
しえみ達と明日の予定を話すつもりでいた燐は彼女を引き止めるが、笑顔でやんわりと断られる。
『急用ができましたので、皆には宜しく伝えといてください』
「お、おい!」
返事を待たずして足早にその場を去っていく様子を燐だけでなく、しえみ達も困惑しながら見送った。
しえみは自分達の所に来て話してくれるだろうと期待していただけにショックだったようだ。
「………何かあったのかな?」
「分からん。けど、奥村とは和解したみたいやし……明日にはいつもの水野に戻ってるやろ」
勝呂の言葉にしえみは「そうだね……」と苦笑しながら返した。
その後に燐も交えての雑談が始まる。
部屋を出たソラが向かっているのは……追いかけているのはシュラだ。
彼女は窓越しにシュラと志摩家の長である【志摩 八百造】が並び歩いているのを目撃。
二人が向かっている先はメフィストが休んでいる部屋がある為、今回の件について話をしに行くのだろうと推測し部屋を急ぎ出た。
(………何か情報が得られるかもしれない)
彼女の言う情報とは、燐に関する事ではない……メフィストの目的について、又は彼に関する何かしらを得られないかと言っているのだ。
ソラは彼についての情報収集を入塾直後から行っていた。
見た目が胡散臭いのもあるが、間近で更に感じた重苦しくも洗練されたオーラ……己が虫けら同然に思う程の圧倒的な力の差を感じ取れば調べないわけがない。
雪男からはある程度、塾に慣れたら教えると言われ……知る事が出来たのは夏休み前の事だ。
メフィストの正体は、悪魔の王族・八候王(バール)の一人、【時の王 サマエル】
時間と空間を司り、瞬間的に移動、一部の時間を止めたりと使い方によっては強力な能力だ。
二百年もの間、人間側だった彼だが……未だに彼の真意を知る者は居らず、特に上層部からの信用は殆ど無いらしい。
(皆が戦っている間に何をしていたのやら………間違っても安全な所で見物してました…なんて………)
言いそうだ……と、ソラは深いため息を吐く。
不浄王を燐が倒したとはいえ、犠牲者がいなかったわけではない。
人よりも長く生きる悪魔、遥かに強い存在である彼が単純に人助けの為だけに何百年も協力していると思う者はいないだろう。
ソラもまた、前世でホムンクルスという存在と言葉を交わした事もあり、メフィストのような人物を完全に信用する事は難しいようだ。
………まあ、萌えやらテンションやノリ等と気の合う部分はある。
(さすがに……盗み聞きはさせてもらえませんか)
【絶】で忍び寄る事が出来たのは、部屋から一部屋離れた先までだった。
そこから先にはメフィストの、悪魔特有の気配(オーラ)を……此処から先は立入禁止!来たら判ってるよね?と言わんばかりに放たれているのだ。
それを暗い部屋の中でムスッとしながらソラは感じ取っている。
(おのれ、メフィさんめ………仕方ないですね。シュラさんに直接聞きますか)
それから数分後に志摩所長が部屋を出ていき、遅れてシュラが現れた。
彼女は隣の部屋にて待機していた雪男に話しかけてから、ソラのいる方へとやって来る。
彼女がいると判ったシュラは頭を掻きながらため息を吐いた。
「お前もか……雪男といい、揃いも揃って何してんだ。休めって言ったろ」
『すみません。少しでも情報が欲しくて……』
ソラは一から説明し、メフィストの目的が何か知らないかと問う。
それに関しては彼女も謎だと苦々しく返している。
「雪男にも言ったが、奴には燐を使った遠大な計画があるようだ。少なくとも、利用価値があると判断されている間は……燐を守るだろうさ」
『そうですね……守ると同時に高難易度の苦難を与えてきそうです』
「……今回の事もそうだと思ってるのか?」
真剣味の帯びた瞳での問いにソラは静かに頷いた。
シュラもまた思っていた事であり、何度目か分からない盛大なため息を吐く。
これから先も似たような試練が待ち構えているのであれば、今のままでは生き残れないとソラは続ける。
そして、メフィストや燐の姿を思い浮かべながら彼女は呟くように言う。
『………自分が弱いのだと、嫌でも思いますよ』
「アレの前では誰だって虫同然だって、お前は十分に強いよ……そんで、まだまだ強くなれる」
『!』
頭に乗せられた手の主へと視線を向けたソラ。
ニッと笑っているシュラは世辞で言っているのではないと分かり、ソラが礼を伝える前に乱暴に頭を掻き乱される。
「にゃはははは!悩め青春!悩んで悩みまくって悪魔落ちにはなるなよ!」
『い、痛いですって!』
騒がしい二人はそのまま大広間へと行き、デザートを頂いてから就寝したそうだ。
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