46…一難去ってまた一難

ピカが参戦して十分後、大規模な爆発と共に菌塊が焼却されている。
今迄と違う火力に、菌塊の進みが半減しているのは何故か?

それは、地面に沿ってピカが高密度の放電を菌塊方面に行っているからだ。
相性の悪い電気では滅する事は出来ないが、繁殖するのを遅らせる事は可能だった。

その間にソラは集中してオーラを練ることができ、一人の時より二倍もの火力で焼却する事が出来ている。


(………弱点属性だからといって何もできない訳じゃない。そんな簡単な事にも気づけなかったなんて……ピカ。本当にありがとう)


冷静になってみれば、良い案がすぐに見つかった。
一人で出来る事に限りはあるが、仲間がいるだけでやれる事の幅は広がっていく。

何よりも傍に誰かが共に戦ってくれるのは精神的にも良かったらしい。


「ピッ♪ピッカァ〜!チュウ!ピィー♪」


かれこれ数分は放電を続けているにも関わらず、ピカは疲れを見せるどころか上機嫌で歌っている。

広範囲に高密度の放電……走り疲れていたとは思えない元気さにソラは内心、首を傾げていた。


(……頬の電気袋は無限ポケットか何かですか?)


緊迫した戦況の中、ピカは遂に身体を歌いながら左右に揺らし始めた。
そして、不浄王の本体と溢れる菌塊を全て包むように【火属性の結界】が張られていく。

空を見上げれば赤い光、ソラはその結界から感じる勝呂のオーラを感じ取り素直に感想を口にする。


『……凄い。これが結界…………しかも、こんな広範囲のものを……』


祓魔師は複数の戦闘方法がある。
結界もその一つであり、勝呂がこれ程の術を使用出来るとは思っていなかった。
ソラは己の浅はかな判断を悔い改める。

彼らは戦える強い人達だと……忘れてはならない。彼らは将来の祓魔師なのだと。


(負けていられませんね……)


結界がいつまで保つかは分からない。
道を塞いでもらっている間にソラとピカは、再び広範囲の焼却を始めた。









勝呂の結界が張られて暫くして、結界内の胞子嚢が破裂してしまった。
濃い瘴気が一気に拡散され、ソラ達の所にも流れてくる。

ピカは平気だからとソラの口にハンカチを当て心配をしており、咳き込む彼女はぎこちない笑みを返す。

これ以上は危険と判断した彼女はピカを抱いて結界外に向けて走り出た。
少しでも新鮮な空気をと吸っては吐いてを繰り返し、雨がソラの火照った体を冷ましていく。

その間にも彼女の頭の中は皆の事が心配でならない様子。
息を整えてから、どうする?……と、考え始めた時にシュラからの連絡が入る。


「いま何処にいる!?」
『胞子嚢が破裂して、結界の外にいます』


それを聞いたとシュラは安堵し、これ以上は一人では危険故に本隊と合流するよう命じた。
それを受けたソラはすぐにピカを抱いて走り出す。

【円】をしながら走り続けること数分、結界外にも関わらず一箇所で戦闘が繰り広げられていた。
逃した菌塊を焼却するにしては様子がおかしいと近づいた時、爆発するかのように炎が飛散する。


(雪に志摩君のお兄さん達……いったい何と戦って……)


静まり返り、終わったのかと思うも走る脚を止めない。
そして、彼女が木々を走り抜けたその時……白い人の腕が雪男の頭へと伸ばされていた。


『雪にでんこうせっか!』
「「!!」」


耳にした瞬間、ピカはソラを足蹴にして雪男へと猛スピードで向かいタックルをした。
横から強烈な痛みと共に吹き飛ばされた雪男。

その間にソラは白い、人間の姿へと変わっていく何かへ向けてオーラ込みの蹴りを入れる。
しかし、それは濡れた粘土のように崩れ落ちただけで再び元に戻ろうとしていた。


「そいつは藤堂だ!今は【灰】になっているがすぐに再生する!!」
『了解!』


上半身を起き上がらせた雪男からの情報をそのまま聞き入れたソラは、両手を合わせて地面へと手をついた。

眩い閃光と共に辺りに散らばっていた白い塊は丸い円形状となり転がる。


『ピカ、思う存分に注ぎ込んで下さい』
「ピッカ!」


復活される前にピカが両手を置き、高密度の電気を流し始めた。
菌塊を足止めする程の電流をサッカーボールより小さい物に注ぐだけじゃない。
今は雨も振っている……電気に水は相性抜群だ。

目が痛くなる光を放つピカチュウを雪男が眼鏡の位置を直しながら見ている。
そこにソラが走り寄り、声をかけると強張った表情で助かったと彼は言う。


『藤堂って……人間だったのでは?』
「今は違う……伽樓羅…不死鳥とも呼ばれる使い魔を取り込んだ……悪魔だよ」
『ゆ……!!』


雪男が憎々しげに白い球体を見ている事が気になり、名を呼ぼうとした時だった。
目の端に捉えた動く白い物体……すぐさま【円】で確認すると藤堂の一部であると分かる。

自分達の方に飛んできたそれをソラは雪男を抱えて飛び退き、そのまま志摩の兄【柔造】の隣へと移動。

雪男は銃を志摩家の者達は錫杖を手に警戒、ソラは他にないか探りを入れていた。


『………アレだけのようです』
「分かるんか?」


彼女の能力を知らない柔造が警戒しながら問うと、【円】に集中しているソラの代わりに雪男が簡潔に説明をした。

それは助かる……そう口にしようとした柔造より先に藤堂が喋り出す。
残った僅かな肉体の一部は細く長く伸びていき、伸びた先端は人の頭を形作っていく。


「随分と便利な能力だね。君だろ?サタンの炎を浴びながらも生き延びた子どもって……」
「なん……やて?」


柔造達は知らなかったが、藤堂は学園の元職員であり、情報収集はもちろん行っていた。
ソラは返事を返さずにいつでも戦えるようにと構えをとる。

その隣では険しい表情で銃を向ける雪男がいた。


「奴に火は効かない。本隊から増援が来るまで再生を阻止し続ける」
『了解。なんなら、エンドレスに分解しましょうか?』
「良いね。その方が僕達も休む事ができるし……」


藤堂から視線を逸らさずに二人は会話をしている。
そんな二人を藤堂は考える素振りをしながら見ていた。
暫くして、彼は溜息と共にダルそうな目を向け言う。


「面白くないね……伽樓羅の能力も大体掴めたし……そろそろ、退散するとしようか」


その言葉の後に彼はピカの方へと向き直り、ドシャっと崩れ落ちた。
襲いに行く気かとソラは錬成でピカと藤堂の間に壁を作る。

しかし、崩れ落ちた塊は動くことはなく……変わりにピカが触れている球体から炎が溢れだす。


『ピカ!離れて!』


【凝】をしているソラには内側から高密度のエネルギーが見えており、急いでピカを呼び寄せた。
逃げる為に力を無理矢理放出するつもりのようだ。

カッと光りながら炎が溢れ出し、ソラは前面に壁を錬成、オーラでコーティングしながら皆を守る。


「………また、会おう。奥村くん」


その言葉を最後に藤堂は現れることはなかった。
【円】でも確認して、逃げられたと結論が出たところで皆は結界内の本陣へと向かう。

怪我人を担ぎなから走る雪男は険しい顔つきのまま、隣を走るソラから話があると言われる。

彼女自身も今の雪男に話して良いか悩んでいたが、自分と雪男が逆の立場だった場合、後に知る方があらゆる面でショックが大きいと思ったのだ。

雪男は若くして祓魔師になった実力を持っている。
自分よりも燐の助けになるのは確かで、弟である彼には知る権利がある。


「どうしたの?」
『結界が張られる前にシュラさんから報告がありました……燐を牢から解放し、勝呂君達と山の中へ入ったと』
「なっ!?」


驚き止まる雪男に皆の視線が集まるが、彼は何故だとソラに強く問う。
彼女は知る限りの情報を伝え、燐の性格からして恐らく核の近くにいるのだろうと話す。


『この雨で私は火を扱えません。悪魔に関する知識も殆ど無い……簡単なサポートしか出来ませんが、共に来てはくれませんか?』
「!」


彼女の目は真剣だった。
雪男は追いかける気満々だったが、まさかソラから一緒に来てほしいと頼まれるとは思わず、目を見開く。

自分だけでは足手まといになるので、雪男に協力してほしいのだと彼女は言う。
それを聞いて、雪男は眼鏡の縁に触れながら息を吐く。
少しは冷静になれたようだ。


「頼まれなくても行くつもりだったよ。柔造さん、すみませんが僕達は此処から別行動を取らせていただきます」
「はぁ!?ちょっ……待たんかい!!コラァ!!」


担いでいた怪我人を預けた後、二人は柔造の返事を待たずにその場を走り去っていった。
もちろん、ピカも一緒だ。


「【円】で周辺の警戒を頼む。何かあればすぐに報告してくれ!」
『はい!』


走り始めて一分と経たずに二人は青い炎の光を目にする。
燐がそこで戦っているのだと……本当に牢を抜け出したのだと分かり、雪男は顔の険しさが増していき、ソラは複雑なものへと変わっていく。


『ええい!邪魔ぁ!!』


目の前に菌塊が押し寄せればソラが、錬成で左右に壁を作りながら塊を押しのけていく。
出来た道を走り進みながら、少しでも早くという思いと共にスピードを速めている。

そんな時だった。
眩い光を放ちながら青い炎が前方より迫って来たのだ。


「『!!?』」

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