44…実験成功

出入り口付近ではシュラから燐の処刑について聞いた勝呂達が例の手紙を読んでいた。

そんな彼らの足元にはメフィストがシュラに渡した【迷彩貫頭布ポンチョ】があり、それで燐を助けてやって欲しいと頼まれている。

まさかの内容に驚愕する面々だったが、一番に助けに行こうと声を上げたのはしえみだ。

その時、しえみの隣りにいたピカが勢いよく振り向き走りだす。
皆がそちらに視線を移すと服装が変わり、険しい表情で歩き進むソラがいた。

ピカを抱き上げている彼女の所にしえみが駆け寄り、神木達はソラの変わりように困惑気味だ。

「ソラちゃん!」
『……しえみ、ピカの事をお願いします』
「ピッ!?」
「え……?」

困惑するピカを手渡した後、彼女は再び出口に向かって歩き出す。
ピカやしえみが待ってと叫ぶも彼女は止まらない。

神木は目の前を通り過ぎていくソラに強めの口調で言う。

「ちょっと!この大変な時に何処へ行くつもり!?だいたい……その格好はどうしたのよ」
『私は不浄王討伐に参加します。錬金術師として……やれる事がありますから』
「「なっ!?」」

外へと行ってしまった彼女に神木は燐の事は良いのかと聞けなかった。
更に追い詰めてしまうと思ったからだ。

勢い良くポンチョを手にとった神木は牢屋がある方へと足を進め、いまだに出入り口を不安げに見つめるしえみを睨み言う。

「ほら!助けに行くんでしょ!アイツなら奥村を助ければすぐにいつもの萌えバカに戻るわよ!」
「!……そ、そうだね。うん!行こう神木さん!」

彼女達に続き、勝呂達もポンチョを手に燐救出へと向かった。
しかし、ピカだけはソラを追いかけて行ってしまう。

「ピッ……ピカァ!ピカチュウ!!」

待って……待ってよ……一緒に戦うから……と彼は必死に後を追いかけていく。
濃い瘴気と大きな力をその身に感じ取っても彼は必死に走る。
そして、最後は大きな声で鳴き叫んだ。


゛今度はボクが助けるから……死なせないから……゛














山道を進みながらソラはシュラに連絡を入れている。
新しい武器について説明し終えると彼女は一人で行動すると言い出す。

『仲間を巻き込まない自信がないので、誰もいない奥の方で菌塊を焼却します』
「一人でって…お前なぁ!いくらなんでも……っ」

途中で言葉を止めたシュラは髪を掻き乱しながら深いため息を吐く。
電話越しに聞こえる風を切る音でソラが既に山の中を進んでいると分かっているからだ。

シュラは離れた場所にいる雪男をチラ見しながらソラに最後の言葉をかける。

「……着信音量は上げておけよ。すぐに気づけるようにな」
『はい……ありがとうございます』

通話を終えたシュラは雪男にソラの事を話した。
牢での話から彼に話しても問題ないと判断したからだ。

分かっていた事なのか雪男は眼鏡の位置を戻しながら冷静にこたえる。

「ソラには【円】もありますから、人を巻き込むヘマはしないでしょう。逃げ足の速さも一流ですしね」
「……へぇ。信頼してんだな」

そう聞かれた雪男はソラが幼少期から過酷な修行をしていた姿を思い浮かべながら背を向け進む。

そして、同じく幼少期から過酷な訓練を続けていた自分を重ねあわせる。

「彼女が血の滲むような努力をしてきた事を知っていますから……」













山深くまでやって来たソラは【円】で人が居ないかを入念に調べてから攻撃を開始した。
菌塊に向けて大きく指を擦り合わせ燃やしていく。

何度も繰り返すうちに力加減や火花をどのようにして標的に届かせるかのコツ……使用するにあたっての必要な知識などを頭の中でフル回転させながら続ける。

しかし、思っていた以上の成果はなく……ソラは休憩も兼ねて木の上に避難した。

大きくなり続ける不浄王の本体を目にしながら彼女は軽く咳き込む。

(吸い過ぎましたか………それにしても予想していたよりダメージがありませんね。やはり、悪魔の力か神の加護が無ければ半減してしまうのですね)

彼女は再び【円】で人が居ないかを確認してからオーラを練り始める。
密度の高いオーラを込めながら再び炎を繰り出す。

すると先程よりも威力が増しており、菌塊へのダメージも大きかった。

『あたり……のようですね』

燃え盛る菌塊を前にソラは再び腕を上げ、大きくなる不浄王の本体を燃やしていく。







前世での錬金術との違いは使用するエネルギーである。
賢者の石もなければ地の竜脈も……いや、それ以前に彼女は竜脈は感じ取れていない。

そんな彼女が何故、錬金術を発動出来ているのか……それは己のオーラを使用しているからだ。

この事に気づいているソラは、使用するオーラを密度の高いものにした高エネルギーだったならと幾度となく実験をしている。

錬成時間の短縮だけでなく、威力まで上がったのだから……扱いには十分に気をつけねばならない。

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