43…戦闘準備
゛奥村 燐の処刑が決定しました゛
メフィストから告げられたソレは場の空気を重くする。
燐を閉じ込めている鉄の扉を見つめるソラの顔は青ざめ、雪男はシュラが呼んでも反応なく立ち尽くす。
そんな二人を他所にメフィストは不浄王が復活した為に討伐を最優先にするよう指示をだした。
「不浄王が復活すると瞬く間に成長し……そして、熟しきった時……京都は死の都と化す」
そう言った後、彼はシュラに複数枚の装備品を渡し意味深な台詞をウィンクしながら口にする。
「これが何かの助けになれば良いのですが」
「!?」
シュラが何かを言う前にメフィストはソラにもプレゼントがあると指パッチンである物を渡す。
受け取った彼女はすぐにソレが何なのか理解し僅かに目を見開く。
そんな彼女にメフィストは口角を上げ一言告げて、その場から煙と共に消えた。
「使うかどうかは貴女の判断にお任せします」
メフィストが消えてすぐに雪男は足を進める。
眉間にシワを寄せ、淡々と口を開きながら……
「とり敢えず僕達は出来ることをしましょう」
「お前……?」
「不浄王討伐に僕達も駆り出されるはずですから……」
雪男は前にと足を進めながら、先程メフィストがソラに手渡した物と言葉を思い出し眉間のシワは更に寄る。
゛昔から研究していたのですが、コレって悪魔にも有効ですかね?゛
゛……打撃系以外の技もあれば更に戦いやすいと思いまして…゛
合宿前だったか、雪男に相談しに来たソラが話したソレがメフィストから手渡された。
それが何を意味するのか彼は良く分かっている。
「………ソラ、判ってはいるだろうけど相手は不浄王だ。身の危険を感じたならすぐに避難してくれ」
『……はい。貴方も』
雪男は何も答えずにその場を去っていく。
その後ろ姿を視界にとらえながら彼女もまた足を進める。
家族や友人の処刑が決定した直後に大きな戦場へと進む……そんな二人にシュラはかける言葉が見つからずにいた。
(大丈夫……なわけないか………にしてもソラが渡されたアレって手袋……だよな)
前世で幾度となく目にした錬成陣が描かれた特製の手袋。
発火布で作られたソレをソラは長年かけて研究し尽くし、納得いくまでに理解した。
後は素材集めや実戦での使用だけ……何でも手に入れてみせようと高らかに言ってみせたメフィストにソラは頼んでいたのだ。
どのような物を作るのか話した時の彼は興味深そうに……それでいて楽しげに笑っている。
(手にするのもコレが初めて……一度も使用したことのない武器故に加減も扱いもド素人……人の近くで使うのは避けたほうが良いですね)
まるで燐と同じではないかと自嘲気味に笑い……そして、気づいてしまう。
錬成陣を描く手を止め、彼女は右手で顔を覆う。
(私は戦うと決めた……けれど、同じ事を言っていた燐には……戦わないでほしいと反対してるじゃないですか)
思い浮かぶのは不安げな表情や困惑した燐の顔で、彼女は唇を噛みしめながら覆う手に力を込める。
(私は……あの時っ………燐の事を信じてあげられなかった!)
何がパートナーだ…何が友人だ……と込み上げてくる想いをのみ込み堪えた。
険しい表情でソラは作業の続きを始めていく。
(弱音を吐いている場合ではないんです……不浄王の事を終わらせた後は燐の処刑を阻止する為に動かなければ……)
その後、手袋をはめたソラは部屋を後にしようとするが……ふと、自分の鞄に手を突っ込み黒の上着を取り出した。
それを錬成で作りなおしていく。
前世で愛用していた黒のロングパーカーだ。
ただ、背中には白で大きく描かれたフラメルの十字架が追加されている。
そう、友人であるエドワード・エルリックが愛用していたコートのように……
『立って歩け……前へ進め……私には立派な足があるじゃないか』
そう口にしながらパーカーを身に着け、鋭い視線を前に向け足を進めていく。
(あの頃のように……エド達のように強く、前へ進め!悲劇のヒロインを演じている場合ではないんです!)
その両手には共に戦った仲間の武器を……その身にはかつての自分を……その背中には常に前を進み導いてくれていた友への想いを込めて進む。
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