42…共に戦おうと言えない悔しさ
手紙を畳みながら雪男は、達磨からの頼みに関して反対だと口にする。
「勝呂くんのお父さんには悪いが、兄さんの炎が不浄王に有効かどうかは推測でしかない。こんな不確かな根拠で剣を使わせるわけにはいかない」
畳み終えた雪男の手から手紙を取り上げたシュラは燐にどうしたいかと問う。
反発する弟を前に燐は今の素直な気持ちを答えていく。
「俺は助けたい!」
「兄さん!!今の自分の立場が判っているのか!?」
燐とて理解していないわけではない。
ただ、この時の彼が脳裏に浮かべたのは父である獅郎の血まみれの姿だった。
入学前にサタンに憑依されながらも自我を保ち、懸命に息子を守り戦った父の姿だ。
「……俺も親父(ジジイ)に命を助けてもらった……だから、俺が何かの役に立つっつーなら戦いてーんだ!!でも、あくまで俺の希望だよ!」
「じゃあ、その希望は却下だ」
「よし。判った」
「『!』」
そう言ってシュラは自身の胸から預かっていた降魔剣を取り出した。
戦うというのなら今ここで剣を抜いてみろと差し出すが、雪男はすぐさま剣を掴み阻止する。
「つい今しがた炎を出して暴れたばかりの兄に……降魔剣を握らせるなんて正気じゃない!次に何かあれば今度こそ必ず処刑される!!」
弟の言葉に燐は胸の奥が傷むのを感じていた。
顔をしかめ目線を下に向けた燐の前では、シュラが雪男と剣を引っ張り合いながら説得している。
ちなみにソラはというと……一歩下がって頭を悩ませ、眉間に深いシワを作っていた。
(ヴァチカンには既に伝わりいつ処刑を言い渡されるか分からない状況……なら、不浄王を倒せば存在価値をアピール出来きる……けど……)
彼女が視線を向けたのは不安げな燐の姿だ。
大きな力を操れると言い切れるなら良いが、残念な事にそうではない。
今までの戦いとは規模が違う。
多くの人々が前線で戦い、すぐ近くには街がある。
(不浄王は【腐の王の眷属】……魔元素の形成図にも記されていたように弱点は【火】……サタンと同じ青い炎はより効果を発揮するでしょうが……)
「フンッ!!……ぎぎぃ…ぅう゛う゛ぉおおお!!」
目の前で剣を抜こうと必死な燐をソラは難しい顔でみつめる。
何故か分からない兄弟とは違い、シュラやソラは理解していた。
「燐、お前怖いんだろ」
「えっ……?」
シュラから先程まで操れたと喜んでいたのに、その日の内に再び感情任せで炎を出し大暴れ……ふりだしに戻った気分なんだろと言われ、燐はどんどん顔色が悪くなっていく。
「今度この剣を抜いたら俺はどうなってしまうんだ?」
「また我を忘れてしまうかもしれない」
「今度こそ誰かを傷つけるかも判らない」
そのどれもが当てはまるのだろう。
僅かに否定の言葉を口にするも表情は強張っている。
そう、抜けない理由は一つ……燐は完全に自信を失くしたのだ。
雪男は剣を返すようにと言うが、燐はまだ諦めきれないのか言葉を詰まらせた。
そして、(名前)は難しい顔のまま燐の前に片膝をつき手を差し出す。
『さあ、剣をシュラさんに返してください』
「「!」」
いつもは燐の味方である事が多いソラの言葉に三人は驚きを見せている。
特に燐は焦りながら大丈夫だと訴えるが、彼女は首を小さく横に振った。
『これ迄の敵とは違います。王の眷属だけでなく、首謀者である藤堂も考慮した上で戦わなくてはなりません。なによりも……守るべき人々が多すぎます』
「!」
忘れてはならないのは、今いる場所が京の街中である事だ。
力を扱いきれずに炎を放出してしまえば……一つ間違えたら多くの命を奪う側になってしまうのだと彼女は言った。
『貴方にそのような罪を背負わせる訳にはいきません。それに、剣も抜けない状態で戦場に赴き無事でいられる保証もない……』
「ソラ……俺…」
困惑気味の燐に彼女は続きを言えなかった。
【死ぬかもしれない】……と。
剣を掴み下を向いて悔しそうに言えたのは……
『……此処にいて下さい』
「………やれやれ」
『「!?」』
そう言って隣の牢から出てきたのは一匹の犬。
その犬は牢から出るとすぐに変身を解き、派手なオッサンへと姿を変えた。
「フェレス卿!!」
「メフィスト!お前、何の用だ!」
派手な登場とまさかの人物に雪男やシュラは驚く。
彼は尻ぬぐいに来たのだと言ってツギハギだらけの鉄で出来た扉を用意した。
その扉が開くと同時に中から飛び出てきたアームにより燐は捕まってしまう。
助けようと手を伸ばしたソラの腕はメフィストにより掴まれ、彼女は睨むようにして言う。
『何を…!?』
「先程、ヴァチカン本部から連絡がありまして……」
まさか……と察したのが顔に現れていた彼女から燐に視線を戻し、メフィストは牢の中に連れて行かれる前にと伝える。
「先程、禁固呪が唱えられた件でグレゴリ以下 査問委員会 賛成多数により……奥村 燐の処刑が決定しました」
『「!!」』
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