30…今は届かなくとも

急いで皆の所に戻らないと危険なのに私は足止めをされている。
いきなり空から現れたのはメフィさんで先に進ませてもらえないのだ。

『……なぜ邪魔をするのですか?』
「貴女がいると先に進まないのですよ。これも奥村くんの為ですから我慢してくださいね。」
『燐の?』
「彼には知るべき事が山程あります。…それに騎士団に隠すのも限界でしてね。」

他の生徒達も危険な状況なのにこの楽しげな顔…彼が仕組んだのは分かるが正直に言うと腹が立つ。
そんな時に感じたのは燐の悪魔の力だ。
勝呂君達が側にいるのを知っている私は驚き、メフィさんは嬉しそうに笑みを浮かべた。

「…行って良いですよ。私は先に見物してますね。」
『っ!』

指パッチン一つで消えたメフィさんと違い、私は全力疾走だ。
近づいて分かるのは雪とシュラさんが皆を連れて移動しているのとピカが弱っていること…
燐の力が炎が森を燃やしている。
青い炎の真ん中でメフィさんのファンシーな巨大ハト時計がアマイモンを取り込み消えたのが見えた。
そして近くには…

「ゥゥウオ゛オ゛オ゛オ゛!!!」
『燐!!』
「やめときなさい。完全に炎(ちから)に呑まれています…死にますよ?」

私の手を掴み止めたメフィさんの目は笑っていなかった。
目の前にいるのは理性を失った燐。
あの青い炎で確実に襲ってくるだろうが私なら死ぬことはない。
今度は私が笑みを浮かべ言った。

『大丈夫ですよ。ちゃんと炎の対策は考えてます。…まだ完璧ではないので怪我はするでしょうが死ぬことはありません。』
「…ほう。それは興味深いですね。」

手を離してもらえたので燐の前へと進む。
彼は私に気づくと剣を上から大振りに振り下ろすと同時に炎を放ってきた。
スレスレで避けて私は彼の腹部へ拳をぶち込んだ。
木々を倒しながらも態勢を整え叫び大量の炎を放つ燐の目に私はちゃんと写っているのだろうか。

「グルゥウオ゛オ゛オ゛!!」
『不思議ですね……この炎は前に見たものと同じなのに…綺麗じゃない。』
「!」

放たれる炎の中を進む私の身体は燃えることなく、炎は肉体から約5cmの所で弾き返されている。
それを見たメフィさんの歓喜の声が聞こえた気がした。

「オオ!…(なるほど。オーラを放出し炎が肉体に触れるのを防いでいるのか……しかし、あれは普通の炎ではない。青い炎を弾き返すにはただ放出するのではなく密度の高いオーラを一定量放出し続けなければならないはず…)…クックック。この短期間でよくもまあ……恐ろしい子だ♪」
『シッ!』
「ガァッ!」

蹴りで地面へと叩きつけ仰向けとなった燐の上に馬乗りした私は彼の頬に触れ話しかけた。
聞こえているなら戻って来て欲しい。
出来ることなら力ずくではなく…あの人のように心で止めたいのだ。

『燐…皆の所に戻りましょう。戻ってちゃんと話して…一緒に黙ってたこと謝ろう。』
「グルゥウオ゛オ゛!」
『っ!……帰ろう…燐。』
「…………。」

静かになったと思ったら先程よりも多めの炎を放出した燐。
その勢いで吹き飛ばされた私をメフィさんはキャッチしてくれた。
襲いかかってきた燐の刀を握りしめ止めると…

「このままでは被害が大きくなりそうですし…来客もいらしたようなので移動しますよ。」
『!?』

彼は説明もせず、一瞬の間に燐の刀を奪い私達を指パッチン一つである場所に連れてきた。
景色が一気に変わり森の外にある建物を結ぶ橋の上に立っている。
メフィさんは誰かと話しているようだ。
燐の拳を握りしめ受け止めている私の後ろからは塾生達の声が聞こえてきた。

「「!!」」
杜「燐!?ソラちゃん!」
雪「なっ!?」
シュ「まずい!離れろソラ!その炎は…」
「グオ゛オ゛オ゛!!」
「「!?」」

シュラさんと雪が近づいて来る前に燐は青い炎を放出した。
今度は吹き飛ばされないように脚に力を入れる。
後ろからは悲痛な叫び声が響いていた。

「キャアアっ!?ソラちゃん!!」
「ひっ…み、水野さん!?」
「水野ォ!!」
「やめろ兄さん!!やめるんだ!」
「ソラ!!」
『二人とも来ないで下さい!!』
「「!」」

近づいて来るのが分かったのですぐに叫んだ。
燐と目を離すことなく抑える手を弱めることなく私は続ける。
……申し訳ないが相手を気遣う余裕なんてない。

『雪…ごめんなさい。まだ私じゃ駄目みたいです。』
「ソラっ!?」

やはり、あの人のようにはいかない。
雪達は燐を止められるのは私と獅郎さんだけだと言っていたが違う。
私は文字通り力ずくで止めていたが獅郎さんは彼に一度だって反撃したことはない。
いつも彼を想っての言葉で…暖かい温もりで燐の心を取り戻していた。
たとえ…自身が傷ついても…

『…クックック。弱ぇなあ…それじゃあいつまでたっても俺には勝てねーぞ?』
「「!?」」
(…ソラ?)

思い出すのは出会って間もない頃の燐が話してくれた獅郎さんの言葉だ。
幼い頃の事でも一言逃さずに覚えていたことから…それだけ大切な思い出だったのだろう。
その時に私はいなかったがあの人の笑い方も口調もよく知っている。
ずっと見てきたから…
私は固まっている燐をガシッと抱きしめた。

「グルルあ゛あ゛あ゛あ゛!!」
『ぐっ!!』

抱きしめられたことにより暴れる燐と叫ぶように名を呼ぶ皆の声が響く。
私は殴られた腹部の痛みに堪えながら昔聞いた話し通りに進めていった。
彼の顔を私の身体に押し当てながら続ける。

『…燐、聞け。このままじゃお前…いつか一人ぼっちになっちまうぞ!何かの…誰かのために…もっと優しいことの為に力を使え。』
「!」
(…これは…昔…父さんが兄さんを止めるときに言った…)

炎が小さくなっていくのが分かる。
彼の耳に届いているのは私ではなく獅郎さんの声なのだろう。
小さく「……父さん?」と呟いているのが聞こえ思わず涙が出そうになった。
もう大丈夫だと確信した私は体を離して燐の両手を握り目を合わせる。
彼は幼さの残るいつもの目をしていた。
嬉しくて自然と微笑んだ。

『俺はお前には将来、仲間にたくさん囲まれて女にもモッテモテのカッコいい人間になって欲しいんだ!』
「…あ…」
『その為にはもがけ!そうなろうともがいてりゃその内…ふと振り返ったらいつの間にかそうなってるもんなんだよ。』
「っ!……ああ…」


一筋の涙を流しながら燐は不器用に笑った。



彼の中にはちゃんとあの人がいる。
獅郎さんの想いはちゃんと燐の中に…
私の声(言葉)はまだ届かないけど…いつかは……






〜続く〜



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