26…仲間との時間

あれからは何事もなく日々が過ぎ一学期も今日で終わり……学生なら喜び万歳の夏休みだ。
しかし、我ら祓魔師に夏休みなど存在しない。
終業式も終わった私は実家に帰るわけでもなく荷物を持って駅に向かっている。

(……お父さん…寂しそうでしたね。)

塾に合宿とやることが多い塾生は寮に残り過ごす。
父に帰れないことを伝えると「大丈夫だよ。」と言ってくれたのだが、声は寂しそうに聴こえた。
だから、塾も休みの日や塾が始まるまでの間は実家に帰ることにする。
乗り物や自身の足で帰ればすぐだからね。

「ソラちゃーん!」
『!』

後ろを振り返ると志摩君が大きく手を振りこっちに走ってくる。
更に後ろには京都組と燐、神木さんが歩いて来ており私は足を止め挨拶をした。

『こんにちは。今日も志摩君は元気一杯ですね。』
「そう?俺はいつもこんなんやで♪…皆もおるし一緒に行かへん?」
『もちろんOKですよ!むしろ断る理由がありませんね。』チラッ
「お!…やっぱソラちゃんとは気が合うわ〜」チラッ

私と志摩君がチラ見したのは神木さんだ。
わざとらしくニヤリと笑うと神木さんは燐の後ろに隠れた。
それを見て私達は軽く笑いあった。
近くまで来た勝呂君はため息混じりに注意する。

「おい、変なことしとらんで行くで。…水野もこいつと同類になったらお先真っ暗やぞ。」
「どういう意味!?」
『……うむ。ほどほどに気をつけますか。』
「ほどほどじゃなくて絶対に気をつけなさいよ!迷惑なんだから!」
『えぇ〜……。』

凄く残念そうに言うと頬を引っ張られた。
ちゃんと返事をするまで引っ張られたのでヒリヒリする。
頬をさすりながら歩いていると駅に到着し、雪とシュラさんが待っていた。
しえみも一緒だ。

「候補生の皆さんはこれから【林間合宿】と称し…【学園森林区域】にて3日間実戦訓練を行います。引率は僕、奥村と霧隠先生が担当します。」
「にゃほう。」

雪の話によれば夏休みの前半は塾や合宿を強化、本格的に実戦任務に参加できるか細かくテストされるそうだ。
ちなみに今回もテストを兼ねている。

(帰れる日が更に減りますね。)







【正十字学園最下部 学園森林区域】

日射しも強く虫も多い山道を私達は荷物を担ぎ歩いている。
特に男性陣はキャンプ道具やらで重さは半端ない。
だが、私もその重たい方を持たされている。

「水野さんなら平気ですよね?」
『………。』

そう言って私にも荷物を渡した雪は鬼だ。
確かに平気だが暑いのは苦手なんだぞ!
知ってるよね!?
他のメンバーもさっきまでの元気はない。

勝「…祓魔師いうか……行進する兵隊みたいな気分やな…」
志「重い暑い…」
猫「しんどい…」
神「蚊が多い…」
『……暑いっす。』
し「大丈夫?荷物少し持とうか?」

しえみが心配してくれたが彼女にこんなものを持たせるわけにはいかない。
というか、心配してくれるだけで元気がでる。
笑顔で礼を伝えると前の方を歩いている燐が元気に叫んだ。

「うおーい!滝だ!!ちっちゃい滝があるぞー!」
「「!」」
『む!滝とな…私にも触らせてください!』
「おう!すっげー冷たいぞ!」

走って駆け寄り二人で滝に触れていたら雪に軽く注意された。
でも気持ちよくて生き返った気がする。
そんな私達を勝呂君と志摩君は不思議そうに、他のメンバーは苦笑しながら見ている。

「何でアイツらはあないに元気なんや?水野も俺らと変わらん荷物背負っとるのに…」
「確かに…奥村君とソラちゃんって体力宇宙ですよね。」
『他にも癒しがないですかね?』
「どっかにあるかもな!何かピクニックみてーだよなー!」
『確かに!』

二人で楽しげに会話しているのをしえみは後ろから見つめていたのだが私達は気づくことなく足を進めた。
そして広い場所にやってきた私達は雪の支持に従い男女に別れ作業を開始する。
この森は日が落ちると下級悪魔の巣窟となるらしく日暮れまでに終わらせないといけない。

「男性陣は僕とテントの設営と炭熾し、女性陣は霧隠先生に従ってテント周囲に魔法円の作画と夕餉のの支度をお願いします。……じゃ、始めましょうか!」
勝「お、脱がはった。」
志「さすがに暑かったんやな。超人なのか思たわ。」

このくそ暑い中あのロングコートを着続けるのかと思ったら違った。
コートを脱いだ雪と燐達はテントを楽しそうに設置しており、魔法円を描きながら私としえみは笑いながら…神木さんは呆れながら見ている。

「あはは。楽しそうだね!」
『そうですね。』
「…なにが?暑苦しいだけじゃない。」
『【出雲っちゃん】!暑いって言わないでください!でないと私の体力ゲージが…』
「何さり気なく名前で呼んでるのよ!」
「ソラちゃん 暑いの苦手だもんね。」

汗を流し魔法円を描き終わった私達は夕食のカレー作りを開始した。
しえみはカレーの存在を知らず、神木さんは料理が苦手……ここは私の出番なのだが失敗をしている燐が目に入り、ある事を思いついたので雪に相談してみると…

「なるほど…それは良いかもしれないね。兄さんの事を皆に知ってもらういい機会になりそうだし。」
『そうなんですよ。皆に燐の良さをもっと知って欲しいのもありますが、友人達とのキャンプを1番に楽しんでいる燐に活躍してもらいたいんです。』
「そうだね。…あ!兄さんの代わりにソラは僕達の手伝いを頼むよ。」
『え?……私も女の子達とキャッキャ♪ウフフな時間を楽しみたいのですが…』
「何言ってんの…やる事はまだあるんだから手伝ってもらうよ。」

ということで、私と燐は互いの仕事を交換した。
勝呂君達は心配なのか何度も料理中の3人を見ては不安そうにしている。
ちなみに私は勝呂君と一緒に火を熾している最中だ。

『大丈夫ですよ。燐の作る料理は凄く美味しいんです。むしろ楽しみにしていてください。』
「ほうか。…しかし、あの奥村が料理できる言うんが驚きやな。」
『どこにでも嫁に行けるレベルですよ。』
「嫁て…あいつは男やろ。」

そして…日も暮れた頃にカレーは出来上がり、焚き火の周りに座った私達は燐特製カレーを頂いた。
一口食べた塾生達はあまりの美味しさに衝撃を受けている。

勝「え゛え゛〜!?うめぇ!!まじか…!」
志「これは…正にどこへ嫁がせても恥ずかしくない味や!」
猫「奥村君、お料理上手やったんやねぇ。」
し「ん゛ー!!燐おいふいよ!!」
『これこれ。口の中を飲み込んでからにしなさい。』

神木さんも美味しそうに食べている。
皆やしえみに褒められた燐は顔を赤らめ嬉しそうだ。

「ま…まーな!!得意だからな!ぐはは!つーかただのカレー…」
「ははは…奥村君の唯一の生産的な特技です…」
「黙れメガネ!!」

皆の楽しそうな雰囲気や笑顔を燐はじっと見ていた。
飲み物は何がいいか聞かれた燐は満面の笑顔で返事を返して自ら選びに行く。
そんな彼を見て私は思わず呟いていた。

『……良かった。』
「え?…燐のこと?」

隣りに座っていたしえみは聞こえていたようだ。
同じく近くに座っていた雪も私の方を見ている。

『彼も色々と大変ですからね。……こうして友人達と過ごし笑っているのを見て安心しました。』
「ソラちゃんも気になってたんだね。私も最近の燐の様子が違って見えたから心配してたの。…でも今日は楽しそうでホッとした…!」
「…………二人とも兄さんをよく見てるんですね。」
「ふん?」
「……いえ。何でもありません。」

それ以上は何も言わなくなった雪に冗談でお酒を渡して『元気出したまえ…』と言ったら頭を叩かれた。

「何でこんなもの(酒)があるの?」
『…イタイ……ジュースと一緒に混じってましたよ。』

酒を持ち込んだ犯人はすぐに分かった。
夕食が終わり、今は雪が訓練内容を説明し始めるところだ。
しかし、彼の隣には顔を赤く染め座り込んでいる酔っ払いのシュラさんがいる。

「おい…マジでか………シュラさん……勤務中です。」
「にっへへへ〜♪」

まさかの教師が勤務中に飲酒。
そんな彼女に勝呂君は怒り叫んだ。

「つかその女 18歳や言うてなかったか!?未成年やろ!!」
「18歳?何をバカなことを…この人は今年でにじゅうろ…「んにゃー手ェすべった〜♪」…」

実年齢を言われる前にシュラさんは雪の頭に空き缶を投げつけ阻止した。
もちろん雪は苛立ちを隠せないでいる。

「おい……仕事をしろよ…!!」

素がでた雪だが すぐに我に戻り訓練の説明に入った。
シュラさんは嬉しそうに笑っている。


【訓練内容】
・拠点の中心から半径500m先の何処かにある提灯を点けて戻ってくること。
・期限は3日間であり、提灯は3つしかない。
・成功し戻ってきた者には実戦任務の参加資格を与えられる。


そして…3日間の必要な道具や食料の他に魔除けの花火を配られた。
危険を感じた場合はこれを使い雪とシュラさんを呼ぶのだが、マッチは一本のみで使ってしまえば提灯には火をつけられない。
しかもその提灯に火が点けられた場合拠点からすぐに分かるそうでズルは出来ないそうだ。

(……【3枠】ですか。……ん?)

森の方から視線を感じたが何もいない。
【円】を使おうか考えたが皆の準備が終わりそうなので私も急いでブーツに履き替え荷物の中身を確認することにした。
それぞれがライトを片手に配置につき雪の合図で森へと走って行く。

「では位置について…よーい…」ドンッ!



この日から私達の過酷な戦いの苦悩の日々が始まるのだが……この時の私達は知る由もなかった。




〜続く〜












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