22…地の王【アマイモン】

一定感覚で【円】を張りながら霊を探していた私は、以前感じた燐(悪魔)の気配を感じ、【円】を最大限に広げた。
するとジェットコースター近くで悪魔が二体確認できたのだが、一つは燐のものでもう一つは……

(……っ!…メフィさん程ではないけど…量といい、濃さといい…明らかに上級悪魔!)

燐の身が危ないと判断した私は建物の上を跳んでいき、雪に連絡を入れた。
緊急なのだと伝わるように声を張りながら報告を行う。

『緊急事態です!ジェットコースター中央付近で悪魔を二体発見しました。一人は燐ですが、もう一人は上級悪魔と思われます!』

「なっ!?……すぐに僕達も向かう!ソラ、他に誰がいるか分かる?」

『……約60m離れた場所にしえみと……恐らく例の霊が一緒にいます』

「なら、ソラはしえみさんの保護を優先してくれ!」

『了解!』

電話を終えた私は全速力でしえみの元へと向かった。
途中、破壊音と土埃が上がった事からやはり戦闘をしているようだ。
しえみを安全な場所に移動させたら燐の元へと急がなければ……嫌な予感がする。

『しえみ!』

「えっ!?ソラちゃん!どうした『説明は後です!君も急いで私に捕まってください!逃げますよ!』…え?きゃあ!?」

「ええ!?」

驚きながらも私の様子を見た霊の男の子は私の肩に張り付いてくれた。
そして、しえみを抱き抱え空高く跳び、安全な距離まで全速力で向かう。
着地したときにはしえみは方針状態だった。

『すみません。辛いでしょうが今は入り口まで逃げてください。事情は後で話しますから』

「…ま、待って!ソラちゃん!」

しえみには申し訳ないが時間がないので急いでその場を去った。
私の移動速度は某忍者漫画と同じかそれ以上かは分からないが普通ではないのは確かだ。
修行を欠かさなくて良かったと思った瞬間、ジェットコースターの一部が垂直に壊れていった。
燐が相手の攻撃で下へと落下したのだ。
すぐ近くまで来ていた私は、落下中も執拗に攻撃をする悪魔に反撃すべく足に力を入れ進む。

「う〜〜ん。ガッカリだ。【こんなもの】に父上と兄…おや?」

燐の顔を殴りながら落下していた悪魔の目の前へと、【念】を込めた足で蹴りを入れるも……左腕で防御されてしまった。
しかし、私の【念】を纏った蹴りは普通ではない上に、足場のない空中だったこともあり数10m先まで飛ばすことに成功する。

(……やはり簡単にはいきませんね。かなりの量のオーラを込めたのに腕のひとつも奪えなかった)

顔に酷い怪我を負い、出血の酷い燐を抱き抱え地面に着地したときには悪魔はこちらに向かって来ていた。
出血した左腕で殴りかかってきたのをバックステップで避け、燐を横に寝かせ戦闘態勢に入る。
【念】の応用技等を全て利用しての戦闘は初めてだが、相手は悪魔……遠慮はいらない。
何より悪魔に自身の力がどれ程通用するのかも知ることが出来る良い機会だ。

(逃げるのが一番ですが……流石に難しい。……雪が到着するまでの時間稼ぎぐらいは……)

「…白髪の女……キミが兄上の言っていた水野ソラか。確かにただの人間じゃなさそうだ」

(兄上?)

褒めてくれているのかは知らないが……燐の傷は明らかに重傷であり、私はその余裕面を殴りたくて仕方がない。
傷ついた左腕を見ながら話していたトンガリ頭が特徴の悪魔はこちらを見て表情を変えることなく続ける。

「本当はソレと遊ぶために来たんだけど……兄上のお気に入りのキミと遊ぶのもいいかもしれない」

『その前に貴方は誰ですか?出来れば兄上についても……』

「…あ、ハイ。ボクは【アマイモン】悪魔の王様です。兄上については内緒なので言えません」

『そうですか……っ!』

話は終わりと言わんばかりに持っていた降魔剣を降り下ろしてきたのを避けると、降り下ろした状態から鋭い蹴りがとんできた。
両腕をクロスさせガードしたがかなり遠くまで飛ばされてしまう。

『ぐっ!……なんて重い…【念】を覚えておいて正解でした』

「へえ〜。腕が吹き飛ぶわけでもなく死ぬこともないなんて初めてだ」

『無表情で無邪気に恐ろしいことを言わないでください……よ!』

今度は私が相手の懐まで潜り込み鋭い突きをしたのだが、相手は先程とは違い油断などしていない。
少し後ずさりながら首めがけて鋭い爪を刺そうとしてきた。
咄嗟に右肘で軌道をずらしたがすぐに蹴りが腹部に直撃する。
【念】を使っていなければ即死だっただろう。

『がっ!』

「まだまだ……!」

頭を掴まれ殴られる前にオーラを放出し、相手が隙を見せた一瞬のうちに反撃をした。
掴んでいた側の手首を折るつもりで握り、手が離れた瞬間に足払いをして地面に思いっきり叩きつけたが……しかし、相手は楽しそうに笑う。

「今の感じたアレが【オーラ】ですか?」

『ハァハァ……その情報…貴方のお兄さんって【メフィスト】さんではないですか?』

「……あ」

『意外と分かりやすいひとですね』

上級悪魔の兄で【念】について知っている人物はあの人しかいないのと目元が似ている。
立ち上がったアマイモンから距離をとり構えると近くで唱えながらやってくる人がいた。

「八つ姫を喰らう……蛇を断つ」

「?」

『……山田君?』

なんとやって来たのは謎の無口塾生の山田君だった。
彼は普段フードを深く被っていてゲームばかりをしているのだが、今回は唱えながら胸(肉体)から刀を取りだしアマイモンに攻撃を加えている。
私の前で刀を構えながら彼は話し出す。

「お前、【地の王アマイモン】だな。お前みたいな【大物】がどうやってこの学園に入った。メフィストの手引きか?」

「邪魔だなぁ……!」

歩いてくるアマイモンの足元に銃弾が数発撃ち込まれ彼は後方へと下がった。
振り返ると息を切らした雪が険しい表情で銃を構えている。
そんな雪に山田君は軽く怒鳴りだす。

「遅ーぞ!雪男!何してたんだ!」

「なっ!?」

『え?知り合いですか?』

「ちょっとな。後で分かるさ。まずはアイツをなんとかしねーと……」

アマイモンの方を見るとため息を吐き剣を鞘に納めている。
さっきまでの勢いが全くない。

「…やめました。またの機会に遊びましょう」

「待てコラ!」

『……なんて可愛らしい逃げ方なんだ!』

「何言ってんだお前は!……雪男、早くアイツの尻尾を隠しておけ!」

「!」

アマイモンは両腕を横に伸ばした状態で逃げていき、山田君は何処かに行ってしまった。
私と雪は山田君に言われ、燐の方を見ると目を覚まし不安そうにこちらを見ている彼と目があう。

「兄さん!」

『燐!怪我は大丈夫ですか?』

「…!……あ、ああ。大丈夫だけど……ソラこそさっきアイツにやられて…『失敬な!やられてません。ちゃんと反撃も防御もしました!最後はキチンとボケもかましましたよ!』……お、おう」

「……それでも病院で診て貰った方がいい。兄さんも」

どこから見ていたのかは分からないが、私が蹴りをくらったのは見ていたようで心配をしてくれた。
燐が一番辛い筈なんだが……
まだプチ混乱中の燐に雪はこっそりと尻尾を隠すよう言っていた。
もちろん、私は別方向を見て気づいていない振りをしている。
すると山田君が降魔剣の袋を持って戻ってきた。

「まったく世話のやける……」

「誰だ!?」

『山田君ですよ』

「……違う。まさかとは思うけど…」

『「?」』

雪は何かに気づいたようだ。
私と燐が二人を見ていると山田君が上の服を脱ぎ出した。
すると、男の子には存在しない立派なアレが露わになる。

「久し振りだな……まあ、いい加減この格好も飽きた頃だったしな。アタシは上一級祓魔師の【霧隠シュラ】」

「!?」

『なんと!?』

服を脱いだ山田君改め霧隠さんは長い赤髪のポニーテールと巨大な胸が素晴らしい女性だった。
私と燐は目が飛び出てもおかしくないくらい驚いて見ている。
そんな私達を気にすることなく話を続ける霧隠さん。

「日本支部の【危険因子】の存在を調査するために、正十字騎士團ヴァチカン本部から派遣された上級監察官だ」

「じょ、上級監察官……!?」

「し…しえみよりでけぇ……!」

『た、確かに……!』

「コラ!そこ!驚くところが違ーだろ!」


指を指しながら注意をされた私と燐は小さく謝った。
しかし、あの大きさは凄いと思う。
それを支える布一枚も凄い。
そして先程やられた腹の痛みを忘れている私も凄いと思って欲しい。
……アホという意味ではなく。










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