20…連絡先が知りたい!猫語を理解したい!
塾へ行くために広く長い廊下を1人で歩いていると、後ろからしえみが走ってやってきた。
息を切らせながらもどこか……いや凄く嬉しそうな顔をしている。
「ソラちゃん!お母さんがね!友達といつでも連絡取れるようにって、ソラちゃんともっと……」
『しえみ!落ち着いてください!まずは息を整えてから……ね?』
「う、うん。そうだね」
息を整えることもせずに話し出したので落ち着いてもらうことにした。
深呼吸をして落ち着いたしえみは、手提げ袋からあるものを取りだし瞳を輝かした素晴らしい笑顔と共に見せてくれる。
「見て!携帯電話!お母さんが試験合格のお祝いに買ってくれたの!」
『おお!おばさん太っ腹ですね!』
「うん!私はこういうの苦手だから今まで気にした事無かったんだけど……えへへ。最近いろんな人と知り合えるようになったし、お友達もできたし……こういうのも良いかなって……」
頬を緩めながら携帯を大事そうに持ち話すしえみを見て私まで嬉しくなった。
最近の彼女の成長は目を見張るものがある。
最初の頃は話すのにもガチガチだったのに……
『じゃあ、さっそく私と連絡先を交換しましょう。しえみのも教えてくださいね!』
「うん!……あっ、でもまだ使い方わからなくて……教えてくれる?」
『もちろん良いですよ!』
その日は休み時間などを利用して、しえみに携帯の使い方を教えた。
もちろん、燐や雪とも連絡先を交換している。
ちなみに、しえみが待ち受けにしたいからと言うので、前に私達4人で撮った写メを送ってあげたら喜んでくれた。
その翌日の昼休みに私は中庭へと向かう。
朴さんと連絡をとり、交流会の日程を話すために集まることになったのだ。
しえみはお店の手伝いがあるため不参加だけど。
「水野さーん!こっちこっち!」
元気よく腕を振り呼んでくれたのは朴さんだ。
隣の神木さんは何故かムスッとしている。
気のせいか?若干頬が膨らんでいるようにも見える……走ろう。間近で見たい!
『お待たせしました。神木さんは何かありましたか?物凄く可愛らしくムスッとしていますが。私的にはもう少し頬を…「ウザイ!黙らないと帰るわよ」……スミマセン』
来て早々に神木さんに怒られている私を朴さんは笑いながら見ていた。
まるで微笑ましいものを見るかのように……
ごめんなさい。反省してます。だから助けて朴さん!!
「フフフ……出雲ちゃんはね、私と水野さんが連絡先を交換してた事に嫉妬してるんだよ」
「ち、違うわよ!私の知らない間にこいつと朴が仲良くなってるのが気にくわないだけで……」
『あらヤダ!神木さんたら言ってくれれば良いのに〜……はい!わたくしの連絡先ですわ。いつでも連絡下さいね♪』
「〜〜っ!!あんたのソレはウザ過ぎるのよ!というか全っ然!反省していないじゃない!!」
『あだだだだだっ!!』
私が神木さんに制裁を受けている間、朴さんは彼女の携帯に私の連絡先を登録していた。
……いつの間にGETしたんだ朴さん。
それから数分後におやつを食べながら日程を話し合った。
『しえみはいつでもOKとの事でした。後はキツネさん達ですね』
「お供え物付きならいつでも参加するって言ってたから大丈夫よ」
「私は出来れば日曜が良いかな。そのまま学校にも通えるし」
『では、今度の日曜に塾が終わったら寮に集合ですね。美味しいご飯を用意しますよ!』
それからも何か好き嫌いが無いかなど話は弾み、昼休みも終わるので解散となった。
しかし、私はどうしても知りたいことがあったので頭を下げて神木さんにお願いをする。
『一生に一度のお願いです!神木さんの連絡先を教えてください!……何かあった時に連絡出来るように……あと個人的に』
「最後のが本音でしょうが」
それでも連絡先を教えてくれた彼女は優しい人だ。
既に私の情報が登録されていることには驚いていて、最初に私が疑われたが無実なので平気さ!
朴さんだと知った時の顔はなんとも言えない表情だったな。
(しえみにも連絡をしておきましょう………そういえば、しえみにLI○Eするのこれが初めてですね)
暫くすると返事が帰ってきた。
まだぎこちないが楽しみにしているのは伝わってくる。
ああ。楽しみだな。
本日は土曜日で快晴、夏日和……もの凄く暑い。
クーラーも無いので扇風機を回しているが、これはもう熱風なので意味がない。
ピカも散歩に出掛けるのは朝方と夜の2回だけとなっている。
「……チ"ャ〜〜……」
『……何か飲み物買ってきましょうか?』
「ピッ!」
あまりの暑さにぐったりとしていたので、冷たいものを買いに向かうことにした。
買いに行っている間の対策として、アイス枕を用意してあげたら抱きついて離れなくなっている。
……ごめんよ。メッサ可愛い。
(ピカも私と同じで暑いのが苦手のようですね)
日射しが強いので麦わら帽子を被り寮を出た。
暫くして、今日は塾の宿題も課題も終わったので【念】の修行をしようかと思い、売店に並んでいたのだが……
「なあ、聞いたか?裏門の門番が暴れてるらしいぜ」
「聞いた!まだ暴れてて、祓魔師が何人も集まってるんでしょ?やっぱ悪魔は悪魔なんだね〜……コワッ!」
「ああ。あれならもう解決したらしいよ。なんでも……」
話を聞き終わる前に順番が回ってきたのでどうなったかは分からないが【裏門の門番】に心当たりがあり、気になって仕方ないので様子を見に行くことにした。
(……あの子でなければ良いのですが)
走って向かうと南裏門は封鎖され、破壊された場所の修復作業に追われていた。
話を聞きたくてもまともに聞いてもらえなかったので、【円】を広範囲に展開しあの子を探す。
(……いた!……ん?燐と雪?なぜ一緒にいるんでしょう)
その子の隣には燐と雪がいたのでまた走って向かった。
もちろんまだ立ち入り禁止なので、他の祓魔師に見つからないよう【絶】を使いながら……
「燐!雪!【クロ】は大丈夫ですか!?」
「えっ!?なんでお前がいんの?」
「なっ!?……というか何普通に入ってきてるの!」
事情を説明すると雪にはため息をはかれ、燐には「便利だな!スパイみてぇ!」と誉めてくれた。
燐の隣を見ると酔っぱらって寝ている【二又の黒猫】がいたので私は安堵から一息吐く。
そんな私に雪は意外そうに問う。
「クロと知り合いだったの?」
『知り合いというか……私が修行も兼ねて学園や街を走り回っていた時に何度か見かけて……一方的に話しかけてただけなのですが……』
「……猫に話しかけてたのか。しかも一方的に」
「相変わらず、人とは思えない修行をしてるんだね」
二人の反応はもっともだが仕方がないのだ。
黒猫で二又……可愛いくて話しかけてしまうのは誰にだって一度はあると思う。
何より門番というより誰かを待ち続けているようにも見えて……気になったのもある。
誰を待っていたのかは燐と雪の説明で分かった。
『獅朗さんの使い魔だったんですか……この子はずっと待ち続けていたんですね』
「ああ。ジジイが死んだと知って溜まってた感情が爆発しちまったんだ」
燐はクロの気持ちが良くわかるのだろう。
話してくれている間も心配し、眠る黒猫の様子を気にしていた。
私は風邪を引いてはいけないので、移動させるために寝ているクロを抱き上げると……目を開け私の顔をジッと見つめられる。
『……えと、覚えていますか?何度か会っているのですが……』
「……ニャニャッ!!ニャァ!」
目を見開き何かを言っているが言葉が通じないので分からない。
困っていると燐が【通訳】をしてくれた。
「こいつ知ってる。獅朗と似た匂いがしたって言ってるぞ」
「ちょっ!兄さん!」
『匂いですか。それは喜ぶべきなのか複雑ですね……それより言葉が分かるんですか?』
なんとビックリ燐が猫語を理解している。
いや、悪魔だから意志疎通が出来るのかもしれない。
私が何も知らないと思っている二人は慌てていた。
「あ!あ〜……その勘だ!なんとなくだけど分かるんだよ。すげぇだろ?ヘヘッ」
(兄さん、それはさすがに無理があるよ……)
『別に誤魔化さなくても良いですよ。私もですが世界には色んな術やら能力者がいるんですから。言葉が理解できるなんてまだ可愛い方ですよ』
私に秘密の力があったように、燐や雪にも……というより、祓魔塾に通い始めてから多くの事を知った今、私はこの程度で驚き悩むような豆腐メンタルではない。
むしろ、その力が欲しい。猫と話せるなんて世の動物好きには堪らない能力ではないか!
その事も付け加えると、二人は焦りから一転し……真顔で納得していた。
「………確かに」
「………言われてみればそうだね。ソラの異常さを忘れていたよ」
いつもは燐にするのだが、今回は雪の頬をつまんどいた。
燐とクロはそんな雪を見て笑い、私は久々の雪への攻撃に満足している。
雪は眉間にシワを寄せていたが、ドヤ顔の私を見て溜め息を吐くだけで終わった。
……失礼な。
その後、帰るとピカが怒っていて腹にタックルをかましてきた。
あまりの痛みに蹲りながら謝る私を見て、背後の二人が溜め息を吐いたのが聞こえた気がする。
「ニャァ〜……」※やっぱりちょっと似てる
「……そうか?」
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