19…目指すは

月が綺麗に輝いている目の前で……浮かんでいるのは派手なピエロと白髪の我らが主人公ソラさんだよ。
メフィさんが用意してくれた座り心地の良いソファーに二人並んで座っている。

『空飛ぶソファーなんて初めてですよ……これで相手が魔法少女ならどんなにいいか』

「それについては同感ですが……本人を前にして言わないで欲しいですね。軽く傷つきます」

気の抜けた会話をしていると屋上にネイガウス先生と雪が現れた。
メフィさんから詳しい説明はされていないが、【円】をずっと張っているので彼らの動きは分かっているし……大体の予想はつく。
メフィさんは足を組み、お茶を飲みながら優雅に見ている。

「……これはどういう状況か分かりますか?」

『先生は燐を殺そうとしたが雪に邪魔をされ失敗……燐は前もって雪に別の部屋へ移動されていたので助かった。ちなみに燐も屋上に向かっている』

「クククッ。正解です……しかし、機嫌が悪いですね〜。眉間にシワまで寄せて」

老けますよ?と言いながら私の頬を突いてくるピエロにジト目を向けていると、悪魔の雄叫びが聞こえてきた。
ネイガウス先生の【屍グール】だ。
しかし、私達のいる場所は離れているため会話が聞こえない……よって叫んでいる時の会話しか聞き取れないのだ。

「あの悪魔はネイガウス先生の手駒の中でも最上級の【屍番犬ナベリウス】です」

『……悪魔ってもう少しファンシーな方はいないんですか?』

「それなりにいますよ。というか悪魔に何を求めているんですか貴女は……」

『【萌え】』キリッ

真面目な顔で答えた直後に悪魔は青い炎に包まれ、悲鳴があがった。
そこへ現れたのは【尖った耳】に【長い黒尻尾】【至るところから出ている青い炎】といった悪魔バージョンの燐だ。

まともな姿に少し安心したけれど……どうせなら獣耳が良かったなぁと思う。

「てめェやっぱし敵か……!!」

殴りかかろうとしたが【聖水】をかけられた燐は痛みで倒れた。
今の燐は悪魔なので、対悪魔用の道具はよく効くようだ。
そして、屍番犬に捕まり身体中を締め上げられ苦しむ燐を助けたのは雪だった。
魔法円を消された瞬間、屍番犬は消え燐は解放されたので先生に刀の刃を喉元に当てている。

双子の反撃にメフィさんは機嫌よく口を開く。

「形勢逆転ですね♪」

『………そうですね』

「おやおや。これまた眉間に深いシワをつくって……そんなにショックでしたか?」

『ショックというか……ネイガウス先生は何を憎んでいるんですか?』

「……彼は【青い夜】の生き残りです」

メフィさんの話によると彼は僅かではあるがサタンに身体を乗っ取られ、助けようとしてくれた家族を自分の手で殺したそうだ。
操られたとはいえ、彼にはきちんと意識がありその様子をどんな気持ちで見ていたのか……考えただけで頭が痛いし、胸糞悪い。
眼も家族も奪われた先生にとって【悪魔(サタン)の息子】である燐は……

「……サタンも悪魔と名のつくものは全て!!サタンの息子など以ての外だァ!!!!」

叫び腕から屍の腕を召喚し燐の腹部へ差し込んだが、燐は防ぐことも逃げることもせずに真っ直ぐと先生を見て何かを言っている。
先生は動揺し悪魔の腕をしまい、燐は刀を鞘に納めた。

「だから頼むから!関係ねえ人間巻き込むな!!!」

自分は良くても他の人は……燐らしい言葉だ。
その後、先生はよろけながら帰っていき、燐たちは黙ってその後ろ姿を見ていた。
同じく黙って見ている私にメフィさんは、ソファーに肘をつき顎に手をあてニヤつきながら聞いてくる。

「ご感想は?」

『……燐の悪魔の姿なのですが……』

「はい?」

『尻尾は猫っぽくて良いのですが、耳がエルフ仕様で不釣り合いです。なぜ猫耳ではないのか……これで燐が女の子なら……』

この状況でブツブツと理想の悪魔バージョンを語り出す私に、さすがのメフィさんもどう反応すればよいのか分からずにいる。
呆然とこちらを見ている彼に、ちゃんと聞いているのかと問うと間を置いてから返された。

「………貴女のソレは素ですよね?」

『もちろんです。私はボケ担当ですが……ボケはボケでも【天然ボケ】です!』キリッ

「自分で言っている時点で天然ではありませんよ!?」

メフィさんがつまらないと言いながらお茶を飲んでいる時、私は遅れてやってきたしえみが燐の手当てをしているのを見ていた。
そして、先程の燐の言葉を思い出す。
彼はどんなに心身ともに追い詰められても最後は他人を優先し気にかけるのだ。
故に自己犠牲的な行動が多い。

(私も人の事は言えませんが……燐は特に…)

「さぁて帰りますよ!今夜は朝までコースですから覚悟してくださいネ♪」

『なんですと!?』

このあと私は本当に朝までメフィさんと一緒にゲームをして過ごした。
正直……眠い。
しかし、私はあんなに元気でハイテンションな大人とはなかなか出会えないので嬉しかったりもする。







メフィさんと別れた私はすぐに寮まで走って行った。
燐の傷はすぐに治るとはいえ、やはり気になるのだ。
ドアを開けると良い匂いがしてきたので急いで食堂に向かったら、燐が朝食の準備を普通にしている。
こんな日くらいは休んでいて良いのに……

『な、何をしているんですか!?』

「おぅわ!?……び、びっくりしたぁ。なんだソラか……もう帰ってきたのか?飯食う?」

『………全く貴方という人は……』

「ん?」

夜にあんなことが……怪我までしていたのに何事も無かったように朝食の準備をする燐を見てため息が出そうになった。
体だけじゃない……心も傷ついている筈なのに笑顔で話しかけてくるし。

「今日のメニューは魚がメインだからな♪好きだろ?魚」

『……はい。私も手伝いますね』

「いいのか?」

『燐の手伝いがしたいんですよ』

「……そっか」

燐は不思議そうにしていたが、気にせずに掛けてあったエプロンを着て作業に入る。
そのあとはいつも通りに3人で食事をし学校に行った。


その日の放課後にメフィさんから合格者の発表があり、見事全員が合格という喜ばしい結果に終わり一安心だ。
喜ぶ人、安堵する人、特に何も感じない人と反応は様々で、そんな私達にメフィさんがお祝いに【もんじゃ】を奢ってくれると言う。
お店に向かう為に移動していると、しえみが進路について決めたと教えてくれた。

「私ね、祓魔師になるよ。私にできることを……少しでも皆の役にたちたいから」

『そうですか。しえみは後方支援が得意そうですよね。資格は【手騎士テイマー】ですか?』

「うん!ソラちゃんも手騎士だよね!」

『?……私は【詠唱騎士アリア】ですよ』

「ええ!?なんで?手騎士の才能があるのに!」

「マジで!?詠唱騎士ってそんなに人気高いの!?」

いつの間にか燐も話に参加していた。
私は主に体術で戦うので詠唱しながら戦うことも可能なのだ。
メフィさんの話だと獅朗さんも似た事をよくしていたらしい。
説明をしたら二人とも納得してくれた。

『もちろん、手騎士の資格も詠唱騎士の後に取りますよ』

「そっか……にしても凄いね。戦う詠唱騎士って事でしょ?」

「何それ!すっげーカッコいいじゃん!」

『いや〜ハハハ……資格を取れたらですけどね』

【戦う詠唱騎士】……確かにカッコいい。
しえみのおかげで俄然やる気が出てきた。
あと、燐が目を輝かせながら話しかけてくる姿を見ると昨日の事が嘘のように感じる。
この笑顔を守るにはもっと強くなり、知識も必要になってくるので多少の無理は必須!

(燐や雪が安心して頼ってくれるように私は強くなる!……目指すは奥村兄弟のパートナーです!!)

「……どうした?便秘か?」

『フハハハハ!燐こそどうしました?変な顔をして!』

「イデデデ!!おま、おまへがひっふぁるかららろ!」※お前が引っ張るからだろ!

人が決心した直後に言うので両頬を思いっきり引っ張ってやった。
そんな私達を他のメンバーは呆れた視線を向けたり笑ったりしている。


……ちなみにメフィさんオススメの【チーズ豚モチもんじゃ】が凄く美味しかったのでまた来ようと思う。









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