18…メフィさんとのお茶会
試験の翌日は快晴、私の気分は曇り。
燐と雪は学校へ行き、ピカは散歩に出掛けた。
今の私は【松葉杖なし】で屋上で寝そべっている。
(念の……性能が良すぎるのは世界が違うからでしょうね)
塾へ通いだしてから、実戦や普段でも使用する機会が増えた事もあり、この世界での念と漫画の念は全てが同じではないことを改めて知った。
扱いやすいのもあるが、他にも一つ一つが漫画より性能が凄く良い。
例えば、【隠】を集中的にしただけで悪魔にやられた足は1日と少しでだいぶと良くなっている。
痕はまだ残っているが問題はない。
そして、この世界の人達のオーラは一人一人感じる気配が違うので【円】の範囲内にいる人が誰なのか分かるのだ。
(……悪魔は人間とは違う感じがしましたね。重いというか…濃いというか……)
他の技も同じように性能が良いので実戦ではとても役立つことだろう。
現に昨日の試験は発見の連続だった。
昨夜、【円】をしながらゲームをしていると【ネイガウス先生】が燐に近づいているのに気づいた。
明らかな【殺意】と共に……
試験の一環だと思いたかったが、先生からは本物の殺意が感じられ危険と判断した私は部屋を出ようとした。
しかし、部屋を出る必要がなくなる……燐のオーラが一気に膨れ上がり気配が変わったのだ。
………人の気配から悪魔のものへと
(っ!?……これは………燐?)
この時は何が起きてるのか分からなかった。
そのあとすぐに先生が去っていったので、戦いが終わったと思われる。
燐は人間なのになぜ悪魔のものへと変わったのか……答えは簡単だ。
奥村燐は……
『………【悪魔】、ですよねぇ』
屋上で寝転がり空を眺めながら呟いた言葉は、上空へと消えることなく急速落下で私の元へ戻ってきたよ。
正直この事実はツラい。
何がツラいかと言うと……
『いつまで知らないふりをしろと?……儂は我慢ができそうにないわい。あ"あ"ぁ〜!叫びたい!言いふらしたい!突撃訪問したい!』
そう、私は燐に話してくれるまで待つと言ってしまった為に聞くに聞けないのが辛いのだ。
彼が悪魔だと分かっても、あの尋常ならざる馬鹿力を考えたら不思議ではないし、前世でもホムンクルスやらキメラやらと知り合いは個性的な方が多かったのでそちらのショックはない。
(雪もそうなのか聞きたい!でも聞けない〜!NOーーー!!)
頭を抱えゴロゴロと転がる私を見て必死に笑いを堪えている人物が1人いる。
派手な服装で見下ろしている彼は、笑いを堪えるように口を手で押さえていた。
「〜〜プッ!…ククッ……お、お元気そ…クッ…うですね」
『おかげさまで……笑ってくれて構いませんよ。笑うがいいさ!』
「アハハハハハハハッ!!!!」
涙目になりながら人を指差し大笑いするメフィさん。
自分で言っておきながら悪いが……シバきたい。
一通り笑い終わった彼はテーブルとイス、お茶菓子を指パッチン1つで用意した。
魔法を使うオジサン……どうせなら魔法少女のが見たかったよ。
「さあ、お茶でも飲みながら話しましょうか……奥村燐について」
『わーい!メフィえもん、色々と教えておくれ』
「いいよ○○太くん!」(大山のぶ代ver)
悪ふざけは程々に本題に入る。
私が燐に待つと言ったことを知ったメフィさんは、まずどこまで知りたいかを聞いてきた。
『そうですね……彼が悪魔だと知ってしまいましたから、まずは【兄弟二人が悪魔なのか】と【ソレをどうやって隠しているのか】が知りたいです』
「ふむ。悪魔の血(力)を受け継いだのは兄だけです。奥村先生は毎日検査を受けていますが問題はありません。ちなみに悪魔の力が覚醒したのは入学前ですよ」
『毎日?学業に先生、祓魔師と多忙のなか検査まで……あの人、どんだけ濃い1日を過ごしているんですか』
「……気にするのソコですか」
一緒に住んでいるのもあり、雪が休む暇もなく寮でも仕事をしているのを知っている。
夜食やお茶をよく持っていくが、並べられた書類や資料の山を見るとマスタングさんの部下一同の苦労している姿を思い出した。
……少しでも早く祓魔師になれたら手伝うことが出来るのだろうか。
「奥村燐が力を隠していられるのは【降魔剣】という不思議道具で封じているからです♪」
『【降魔剣】……ああ。燐がいつも持ち歩いているアレですか。普段が人間と同じ気配(オーラ)なのは……ん?燐って人間と悪魔のハーフですか?』
「ほう……正解です。母親が祓魔師で父親が悪魔の王……【サタン】です」
真剣な眼差しで爆弾発言をしたメフィさんには悪いが、私の反応は彼の予想とは違うものだ。
私はお茶を一口飲み……
『うし!予想大当たり!燐のオーラが青いのはやはりサタンが関係していたんですね』
「……つくづく私の予想を覆してくれますね。貴女の順応性が高すぎて怖いですよ」
『誉めないで下さいよ。HAHAHAHA!』
塾でサタンについては教わったし、勝呂君達にも【青い夜】の事を教えてもらっていたので予想はしていた。
【青い炎】はサタンの証でもあるらしいので、燐のオーラが青いのはもしかしたら……と考えていたのだ。
これが漫画だったら完璧に主人公だよ。
メフィさんはつまらなさそうに他に聞きたいことはないかと言うのであと1つだけ質問をした。
『この事は獅朗さんも知っていたのですか?』
「もちろん。彼は全てを知った上で彼等を育てていましたよ……【武器】としてね」
『………………』
最後の台詞は予想していなかったので何と答えるべきかすぐには思い付かなかった。
でも、出会ってからの獅朗さんが燐達に接する姿や暖かい眼差しはどれも本物としか思えず、最後に会った日の会話を思い出す。
゛ 燐がどんな存在でもか?危険な存在だったらどうする ゛
゛ ……でもおかげで安心したよ……一つ約束してくれるか? ゛
゛ 燐や雪男が困ったり悩んでいる時は助けてやって欲しい……何処に居ても、どんな存在でも友人でいてやってくれ ゛
今なら彼が何を心配していたのか分かる気がする。
ただの武器が作りたいのであればあんなことは言わない。
『最初はそうだったかも知れませんが……少なくとも、私が出会った時には【父親】の顔をしていましたよ。最後まで子を想う良き父親だと私は確信しています』
「そうですか……ちなみに根拠は?」
『ベタで申し訳ないですが……勘です』
ドヤ顔をしながら言うと笑われた。
そんなに面白い顔だったのか?
笑い終わるとメフィさんは紅茶の入ったカップを手に取り私に聞く。
「彼の死については聞かないのですか?」
『……力が覚醒したのが入学前なら、大体は予想がつきます。燐の目的が【サタンを倒す】事らしいので犯人が誰かも……彼等が話してくれるのを待ちますよ』
「クククッ……本当に面白い人ですね。隠し事が難しいタイプだ。私についても何か知っているのですか?」
『貴方が上位の悪魔だとしか知りませんよ』
悪魔の気配(オーラ)がバリバリにするのと出会った悪魔とは遥かに……天と地程の差がある密度というか威圧感というか色々と違うのですぐに分かった。
正直、ここまでハッキリとしていると聞く必要もない。
まあ、もう少し塾になれたら雪が教えてくれると言っていたし……
「これまたシレッと言いますね。貴女の能力は便利というか厄介と言うべきか……」
『メフィさん。お茶のおかわりを下さい』
「……貴女のキャラが掴めませんね」
『主にボケ担当です』
渋い顔のままメフィさんは紅茶を口に含む。
あれ?前にも同じようなやり取りをした気がする。
その後、おかわりを用意してくれたメフィさんはあるお誘いをしてきた。
「今夜は面白いものが見られますが、一緒に如何ですか?」
『この流れでいくと燐に関係する事ですね。行きます!』
「では、今夜は友人の部屋へ泊まりに行くとでも伝え、理事長室に来てください」
この日の夜に私は燐や雪が何を悩み戦っているのか、獅朗さんがなぜあんなことを言ったのかを改めて知る。
そして、燐の存在が周りの人間にとっては恐怖と憎しみの対象であることも……
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