17…一言伝えたいだけなのに

私がツンデレ少女とデートをしている時、先生の一人が試験終了を知らせに来てくれた。
皆の様子を聞いた私は松葉杖を使い、治療室に急いで向かうのだが……

(………松葉杖って使いにくい!)

慣れない松葉杖に苦戦しながらも到着した私は、ノックをし中に入る。
真っ先に目に入ったのはベッドで点滴を受け、疲れが表に現れているしえみの姿だった。

『しえみ!大丈夫ですか!?』
「ソラちゃん!」

松葉杖でやって来た私の姿を見たしえみや皆は驚き、一人一人が私の心配をして声をかけていく。
しかし、私はしえみの身体の方が心配だ。

ベッドの隣まで来た私より先に、しえみが少し困惑気味に問う。

「ど、どうしたの?ソラちゃん、まだ熱下がったばかりだし雪ちゃんにも絶対安静にって言われてるのに……」
「そうなのか!?」
『おや?燐は元気そうですね』
「んなわけあるか!疲れてヘトヘトなんだよ!」

突っ込みをする元気はあるようなので燐は大丈夫のようだ。

とりあえずしえみのベッドに腰を下ろし、事情を説明して皆の容態も聞く。
軽い擦り傷などはあっても、他の皆は無事らしい。

しえみは治療も終わり、体力が回復するのを待つだけのようなので『良かった……』と安堵し呟いた。周りでは、燐達が私の合格に驚いている。

「マジで!?俺らが必死になってる時にゲームしてたのかよ!」
『あら、気にするのそこですか』
「そりゃあ、気になるってソラちゃん……どの子選んだん?幼馴染み?」

最後の方は含みのある笑みと共に声色が低くなっていた志摩君
彼が真剣に聞いていると分かり、私もまた真面目に答える。

『いやいや、選んだのは最近興味を持った……【ツンデレ】ですよ』
「ほう……ソラちゃんとはなんや、気が合いそうやね」

真顔でゲームの話をする私達は固い握手を交わし、お互いに小さく笑みを浮かべる。

そんな私達を勝呂君・三輪君・神木さんの3名は呆れた視線を向け、燐・しえみの2名は何の話をしているのか分からずにいた。

その後、試験での出来事を皆から説明して貰っていたら、神木さんが昨夜の事件で気になっていた事があると言う。

「……昨日はどうやって悪魔がいるって分かったのよ」
「あ!私も気になってたの!ソラちゃん教えて!」
『うーん……簡単に言えば私の能力の応用技に感知タイプのがあるんですよ。範囲は限られますが』
「「能力?」」

神木さんやしえみ以外の生徒も気になるようなので、メフィさんの時よりも簡単な説明をしておいた。

様々な反応があったが燐は「俺は知ってたけどな!」とどこか得意気だ。
そのあとすぐに先生が訪れ、部屋に戻り安静にするようにと言われたので私だけ治療室を後にする。

(……元気そうで良かった)
「ちょっと待ちなさいよ!」
『!……神木さん、どうしました?お手洗いですか?』
「違う!」

うむ。彼女の突っ込みはキレと迫力があり大変素晴らしい。
一つため息を吐きながら隣まで来た彼女は、私の体を支えながら眉間にシワを寄せ言った。

「あんたコレ(松葉杖)に慣れてないんでしょ?階段もあるし部屋まで支えてあげる……ほら、さっさと行くわよ」

不器用ながらも優しさを私に向けてくれる和風美人に……私の心がときめいたのは言うまでもないだろう。

『ありがとうございます!朴さんの言うとおり、貴女は本当に優しい人ですね!』
「なっ!?ち、違うわよ!また怪我でもされたら他の人にも迷惑でしょ!というか私の知らない所で朴と何の話してんのよ!」

褒めたら顔を赤くし更に眉間のシワを寄せ怒られてしまった。
しかし、コレが照れ隠しであることは今の私にも理解できるぞ!
……メフィさんのゲームをもう暫く借りることにする。

部屋に到着するとピカが「おかえり!」と鳴きながら飛び付いてきた。
思わず片手で抱き抱えたが、神木さんが離した杖を持ち体を支えてくれたので倒れずにすんだ。

『ありがとうございます。また、助けてくれましたね』
「……大袈裟ね。こんなの助けたうちに入らないわよ」
「……ピッ?」

神木さんがいることに気づいたピカは、彼女をガン見し始め……隣を見ると神木さんもピカを見続けていた。

暫しの沈黙の間、私は見つめ合う両者を交互に見ては、『何?どうしたの?教えて!』と念を送ってみる。

「………………」
「………………」
『………………ピカ?この人は前に話した神木さんです。挨拶は?』

沈黙に堪え切れずにそう言うと、ピカは神木さんの足下に降り元気よく鳴いた。
そして、手を差し出し握手を求める。

「ピッカ!ピカチュウ!ピッ♪」
「〜〜ッ!……ね、ねぇ。これって握手したら良いの?」
『はい』

しゃがみこみ「よろしく」と握手を交わした神木さんの頬はうっすらと赤くなっていく。
可愛さにやられた彼女は顔が緩みそうなのを必死に堪えているようだ。

ここに私が居なければピカを愛でていただろう。
………デレた神木さんは是非とも見てみたい。
私がそんなことを思っていると、神木さんはピカの頭を撫でながらボソリと呟くように言った。

「………あ、あのさ……その、合宿が終わってからだったら良いわよ」
『………?』

何の事かは分からないが……あの神木さんが照れながらも何かに誘ってくれているのではと思った私は頭をフル回転させた。

ここ数日での会話とゲームで得た少しばかりのツンデレ知識、そして今の状況を数秒の間で分析した辿り着いたのは……

『……もしや!合宿初日に提案した【式神と美少女達とのキャッキャウフフフな交流会!】の事ですか!?』
「はぁ!?……あ、いやそうだけど……変に思われるからそんな風に言わないで!」

当たりだったようで、私の心は夏の太陽よりも熱く輝いていく。
イベント発生と言うやつかな?
メラ嬉しい!

『分かりました。心の中だけにしときます……やりましたよピカ!楽しみですね!?何がって?神木さんが誘ってくれたのですよ!?三次元でもツンデレって良いで「うるさい!!」…イヒャイ』

あまりの嬉しさに興奮してピカに一方的に話続けていたら、神木さんに頬を引っ張られ怒られた。
それでも私の顔は緩みまくった笑顔のままだったと思う。

「はぁ……私はあんたのキャラがよく分からなくなってきたわ」
『……主にボケ担当です』
「あっそ……私は部屋に戻るわ。きちんと休んでなさいよ」
『はい。また明日!』

私が手を振ると神木さんもヒラヒラと軽く振り返してくれた。
……額を押さえていたのは頭痛だろうか?

ピカとも別れの挨拶をして彼女は帰っていき、私はしえみにも教えてあげようと携帯を手に取る。













部屋を出た神木は暫く歩くと、しゃがみこみ項垂れていた。
ソラが松葉杖に慣れていないことに気づいた彼女は心配になり、着いてきたのだが他にも理由があったのだ。

(……何やってんのよ私は………昨日の礼を言う筈だったのに!)

そう。彼女は昨夜の事件で助けて貰った事への礼を一言伝えるつもりだったのだ。

自分達を助けるために怪我をしたこともそうだが、何よりも彼女が来なければ、朴が怪我をしていた可能性が高かった。

(……あの悪魔があのまま落ちてきてたら、近くにいた朴が危なかった。だから一言だけ礼を言いたかったのに……〜〜ッ!あいつのあのテンションは一体何なのよ!?)

タイミングを掴むことが出来ずに部屋に到着したが、帰り際に言えばよいと思っていた。
しかし、ピカの存在に癒され交流会の参加を言ってしまった為に、ソラのテンションが上がってしまったのだ。

彼女の大袈裟な喜びように驚き、若干照れくさかったのと……あまりのウザさに疲れてしまい言いそびれてしまう。

「………はあ。また今度にしよ」

そう呟き元の部屋へと帰っていく。
……戻ってきた彼女は何やら精神的に疲れていたそうだ。













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