15…襲いかかる屍

「……はい、終了。今日はここまで。明日は6時起床。登校するまでの1時間、答案の質疑応答やります」

プリントを提出して合宿初日の勉強は終わり、燐はショート寸前の頭を冷やしに出ていった。
大丈夫だろうかと心配していたら神木さんが朴さんを誘ってお風呂に向かったのでしえみも準備をしだす。
疲れている筈なのにしえみは笑顔のままだ。

「ソラちゃんも一緒に行こう!」
『そうですね。お風呂に入って疲れをとりますか……』

背伸びをし私も準備をして部屋を出る。
隣を歩くしえみをチラ見すると、彼女はまだニコニコと笑顔でいたのでちょっと聞いてみた。

『しえみは疲れていないのですか?ずっとニコニコとしてますが……』
「もちろん疲れてるけど……このあとの事を考えたらどうしてもにやけちゃって……えへへ♪」

どうやら彼女も私と同じで、このあとの交流会が楽しみで仕方ないようだ。
朝からの事を思い出しては頬を染め、笑顔の花を咲かせるしえみはメラ可愛い。

「今日は朴さんとも沢山お話しできて……しかもニーちゃんにも会いたいって言ってくれたんだよ!神木さんとも仲良くなりたいなぁ」
『大丈夫ですよ。あんなに自然に話せていましたし……時間は掛かるでしょうが頑張りましょう!』
「うん!」

しえみと話していたら更に楽しみになってきた。
しかし二人で話ながら2階まで降りてきた時、嫌な気配を感じた私はすぐに【円】で周辺を探る。
すると女子の浴場に悪魔と思われるものが1体確認できた為に私からウキウキ気分は瞬時に消えてしまう。
突然止まり真剣な表情の私をしえみは心配になり声をかけた。

「……ソラちゃん?大丈夫?」
『……しえみにお願いがあります。今すぐに雪を女風呂に連れてきて下さい。悪魔が1体います』
「え!?」
『急いで下さい!』

荷物を放置し走り出したソラ。
状況をあまり理解できていないが、大変な事が起きていると思い指示通りに勉強部屋に向かったしえみ。
ちょうどその時に朴と神木の2名は脱衣場で着替えを始めていた。

「水野さん達……遅いね」
「別にいいんじゃない?あいつらと一緒に入らなきゃいけない訳じゃないんだから」
「でも……二人ともっと仲良くなりたいし。水野さんなんて出雲ちゃんと相性良さそうだったよね。朝は聞いてて……面白かったよ」

部屋へ案内してくれた時の会話を思い出しながら朴は笑っていたが、神木は顔を若干赤くし否定した。
彼女の特徴であるマロ眉はこれでもかと中央に寄っている。

「なっ!?別にあれは違っ……え?」
「…え?」

全てを言い終わる前に朴の顔に黒い液体が落ちてきた。
二人同時に上を見上げるとネイガウスが召喚した【屍】系の悪魔が天井に張り付き、二人を凝視しており今にも襲いにかかりそうだ。
皮膚は所々剥がれ体液なのか分からない黒い液を垂らし……気味の悪いそれは彼女達を怖がらせるのに十分だった。

「「きゃあああ!!!」」
「オオ"ォア!」

悲鳴と同時に悪魔は二人に向かって落ち、腕を降り下ろそうとした……が、そんな悪魔の目の前には蹴りを繰り出そうとしているソラがいた。
気づいた時には遅く2つある顔に彼女の強烈な蹴りがクリーンヒットし、隅の壁まで飛ばされ動かない。
一瞬の事で朴も神木も何が起きたのか分からずに目の前に立つソラを見つめる。

「……水野…さん?」
『遅くなってすみません。今しえみが先生を呼びに行っています……二人は今のうちに避難……を…』
「「?」」

二人の前に立っていたソラは顔だけで後ろを振り向くと恐怖のあまり座り込み震えている朴が目に入った。
その隣には下着姿の神木もおり、ソラはアホ面で固まった後に顔を前に向け口を開く。

『神木さんにお願いがあります。一つは朴さんのボディーガードと……これを着てください!』
「……え?」

差し出されたのはソラが着ていた大きめのパーカーで神木はなんの事か分からなかったが、自分の姿に気づき顔を赤くし素早く受け取った。
ちょうどその時に燐が浴場に到着してしまう。

「おい!大丈夫か!?」
『アウトォーー!』
「フボォッ!?」

まだ神木がパーカーを着ていないので、ソラは燐に向かって着替え入れのかごを投げつけた。
顔にヒットした燐はもちろん怒鳴るが、投げた本人は悪びれる事なく謝る。

「いきなり何すんだ!あぶねーだろ!」
『すみません。燐の体よりも乙女の身と心の安全を優先しました』
「真顔でなに言ってんだよ!?」
(緊張の欠片もない……)

見られないようにと蹲り、パーカーを着ながら二人の会話を聞いていた神木は呆れていたがあることに気づいた。

目の前に立つソラの右脚は異臭と共に皮膚が溶けている。

「ちょっとあんた!足やられてるじゃない!」
『……先ほどクリーンヒットさせた時にアレの皮膚の間から変な液をもろにくらいまして……』

そう言って苦笑するソラだが、異臭を放つ脚を直視しないようにしているようだ。
右脚は結構な範囲をやられており、何やら「シュウウ〜」等と音が聞こえる。
彼女以外の3人はそれを見て慌てだすが、悪魔も復活したようでゆっくりとソラ達の所に来ようと動き出す。

それに気づいた燐は刀を手に前へと進む。

「……ソラは大人しくしてろ。アイツは俺が何とかする」
「そいつの言う通りよ。屍系の魔障はすぐに対処しないと数分で壊死してしまう!これ以上は動いては駄目!」
『……分かりました。しかし、もしもの時は援護します』

内心、足手まといは嫌で仕方ないソラ。
大人しく聞き入れたのは雪男が近くまで来ている事を【円】で確認したからだ。

それでも痛みを感じながら相手を警戒し立っているソラに、神木は小さく息を吐き言う。

「……我慢してないで座りなさいよ。余計に悪くなるわよ」
『……はい』

ゆっくりと座る彼女に朴が何度も心配し声をかける。
神木も式の狐を召喚し、燐の援護にまわり悪魔を遠ざけていく。
なんと頼もしい人達かと、ソラは心の中で呟いていた。

「ガッ!」

燐が頭を鷲掴みにされ浴場に思いっきり投げられ、ガラスの扉は見事に破壊された。
そのまま燐に襲いかかる悪魔にソラは危険と判断し、近くにあった桶に【周】をし立ち上がる。
野球フォームで投げつけ、悪魔の後頭部にクリーンヒット。
相手は痛みで疼くまり動きが止まった。

彼女の後ろでは神木と朴が唖然と見つめ心の中で……(何故に野球フォーム!?)と突っ込んだ。
その直後に響いた声は雪男の声……

「皆さん!伏せて!」

到着した雪男はそう言うと悪魔に銃弾を何発も撃ち込んだ。
まずいと思ったのか悪魔はふらつきながらも天窓から逃げていってしまう。

辺りを警戒しながら燐の方へと向かう雪男に続いて、しえみが息を切らしてソラの所へやって来る。

「ソラちゃん!……怪我したの!?…火傷?」
『落ち着いて下さい。大丈夫で「そうだ!サンチョさん!」……どなた?』

突然【サンチョさん】とやらを探しに行こうとするしえみだったが、ニーちゃんが自分の体から【アロエ】を出す事で止まり喜び……神木達は驚いた。

「すごい!ニーちゃん!!これサンチョさんだよ〜!!」
「いやそれアロエでしょ!?」
『神木さん、ナイス突っ込み!』
「うるさい!」

親指を立てて褒めたつもりのソラだったが、睨まれながら頬を引っ張られている。

そんな二人を前にしえみは応急措置を始め、安全を確かめた雪男と燐もやって来た。
二人とも心配でならないようだ。

「ソラ!大丈夫か!?」
「……今しえみさんが処置をしてくれているから大丈夫だよ。でもすぐに治療をしないと……」

時間も経っており怪我の具合は酷く、雪男は眉間にシワを寄せしえみと一緒に処置を施していく。
一緒に来ていた勝呂達も他に怪我人がいないか確認をとった後に、彼女の心配をしている。

そんな彼らに礼を言ってニコニコとしているソラに雪男は渋い顔を向けた。

『私は幸せ者ですね〜♪』
「……ソラ、そんなに汗もかいて息も乱れ始めてるのに……痛みを我慢するのは良いけど、無理に笑う事までしなくていいよ」
『……すみません』

心配して言ってくれた雪男の顔を見た彼女は笑顔を消し、申し訳ない気持ちが溢れていた。

(………情けないですね)





















その後、別の部屋で雪男に治療をしてもらったソラは暫くの間は学校を休むことになった。
今はしえみが塾での話を彼女に聞かせている。

『……そうですか。朴さんはもう…』
「うん。元々、神木さんに誘われて通ってただけらしくて……前々から考えてたみたい」

あの事件のあと、朴は塾をやめたそうだ。
一般人があんな悪魔と命をかけて戦える筈もなく、朴の判断は正しいとソラは思っている。

彼女が一番に心配をしているのは神木の方だ。
支えである朴がいない事や……おそらく、危険な目に会わせてしまった事への罪悪感から元気がないらしい。
真面目な優等生である神木が授業に集中出来ていないと言うのだから、かなりの重症ではないだろうか。

話しているしえみも何処か元気がない。

「それに勝呂君とも喧嘩しちゃって……このあと勉強部屋に全員集合するようにって雪ちゃんに呼ばれちゃったんだ」
『……連帯責任ってやつですね』
「……だと思う」

時間になり部屋を出ようとするしえみをソラは呼び止めた。
言いそびれていたことがあると思いだしたからだ。

「ん?どうしたの?」

振り向いたしえみにソラは笑顔を見せながら昨夜の礼を口にした。

『……しえみ、助けてくれてありがとう!』
「………うん!」

しえみも満面の笑顔で頷いて部屋を出ていく。
しえみだけでなく、雪男や皆にもちゃんとお礼を言わないと……そう思った矢先にドアをノックする音がした。



[ 16/53 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]


top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -