キミのアジ
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7月20日。
一年で一番嫌いだったこの日は、**ちゃんと出会えたことで大切な日に変わった。
のだけど…。
「そら、いい加減そのツラなんとかしろ」
「…」
広末そら。
今年の誕生日のテンションは上がる気配がありません。
「あーあ…またこの日が嫌いになりそう…」
「あ?なんか言ったか?」
「べっつにー」
俺の機嫌を左右させる対象が、あっさりと奪われて行ったのは昨日の出来事だった。
「そらさん、ゴメンなさい…」
心底申し訳なさそうに謝る**ちゃんの顔を見ていると、余計辛くなった。
俺の誕生日。
お祝いをしてくれると張り切っていた**ちゃんは、急遽、総理の公務への同行が決まって出かけることになった。
「何言ってるのー!**ちゃんが悪いんじゃないんだし…それに、せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」
君には笑顔が似合うから。
せめて、笑顔を残して出かけてほしいと俺は**ちゃんを笑わせて、それからファーストレディ代行で出かけて行く彼女の姿を見送った。
「ハァ…」
机に突っ伏した俺の行き場のないため息は、詰所に虚しく響いて溶けていく。
「ったく煩いヤツだな…」
キャリアがそう言いながら、コトリと何かを置いた。
「んー…」
むくりと顔を上げると、ほかほかと美味しそうな湯気を立てる焼きそばがひと皿。
「えっ!?キャリアが作ってくれたの!?」
「…今すぐその呼び方を変えたら、くれてやらねーこともない」
「もうキャリアだなんて呼びません!昴さん!いただきます!」
調子のいい俺は、あっさりと焼きそばに買収されてガッツリと食らいつく。
(ん…?)
一口食べて気付く、その違和感。
「どうした?」
「これ…昴さんが作ったんすか…?」
「フッ…さあな…?」
カタカタとキーボードを打つ手を止めずに答える昴さんに、一つの答えが導き出される。
(でも…いつの間に…?)
「『そらさんの誕生日のお昼ご飯に出してください』って、昨日出かける間際に作って置いてったぞ?」
「…」
「ハァ…泣くか食べるかどっちかにしろ」
「うっ…グズっ…」
まさか、俺の為に焼きそばを作って公務に出かけただなんて知らなくて、その気持ちが嬉しくて思わず少し泣いてしまった。
会えなくても、お祝いしてくれる人がいることが。
俺が生まれてきたことを、喜んでくれる人が。
「ちゃんといるんだね…」
ありがとう**ちゃん。
誕生日の残り時間は、君に感謝をして過ごそう。
君の味がする焼きそばは、いつも以上に心が満たされる味がした。
*END*
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