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この先もずっと


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「え……?そらさん、もうすぐ誕生日なんですか……?」


不意に聞こえた海司や昴さん達の会話に思わず反応した。


「なんだお前、そらさんの誕生日知らなかったのか?」
「そらさんだったら**さんに真っ先にアピールしそうですけどね」
「まあ…、警護対象のお前がSPの誕生日を知る必要もないからな」


お父さんに会いに総理官邸にやってきた私は、別件で席を外しているそらさんを待つため、SPルームで待たせてもらっていて。
今、一番身近にいる人物の話題だっただけに頭の中がその事でいっぱいになった。


「ね…、海司、そらさんの誕生日っていつなの…?」
「え?ああ、7月20日」


(って、もうすぐじゃない……!)


焦る内心を落ち着かせようと、昴さんの淹れてくれた紅茶を一口喉の奥に流し込む。


「海司達は何かお祝いとか…するの?」
「うーん…、まあお祝い…つっても非番の日とか上がりが同じ時にメシ奢るくらいかなぁ。桂木班全員でそらさんの誕生日に休み取るっていうのはまず無理だし」
「そ、っか……」
「まぁそらさん、毎年お祝いしてくれる人がいるみたいだけどな。今年も誰かと過ごすんじゃねぇの?」


ズキリ、と心が軋んだ。

確かに、そらさんならお祝いしてくれる(女の)人はきっと沢山いるんだろう。
その事実に今更驚くことはないけど、なぜか胸がチクリと痛むのは、今までになかった感情が最近私の中に棲みついたから。




(日頃からお世話になってるし、お誕生日をお祝いするくらい……、いいよね…?)


自分の気持ちを誰かに問いかけて。
答えがどうであれ、私の気持ちは一つしかなかった。









「**ちゃーーんっ!?…聞いてた?今の」

「へっ!?……あ、ごめんなさい…」
「どうしたの?なんかボーっとしてるけど……何かあった?」
「……いえ!何もない、ですよ?」
「………その“間”が気になるなぁ〜…何か些細な事でもなんでも言いから言うんだよ?一人で抱えこむのは**ちゃんの悪いクセなんだから」


心配そうに私の顔を覗き込むそらさん。
なんでこんなに優しいんだろう。
第一印象とギャップがありすぎだよそらさん。

最初に抱いた軽いイメージは、長く一緒にいる時間が増えるにつれて払拭され、そらさんと過ごす時間が増えた今、真面目で誰よりも優しい彼の一面を沢山知ることになっていた。

でも、こうやって優しく気にかけてくれるのは、きっと私が警護対象者だから。

それは仕事だって分かってるけど。
私はそらさんにとっては総理の娘で、そして警護対象者でしかなくって。



だけど、


分かってたけど、



いつの間にか、
そらさんの存在は私の中でどんどん大きくなっていって、


そして、




こんなにも好きになっていた――――








「え……?交代…?」
「そう。夜間に警護に就くはずのいつもの女性SPさんがね、出張先から帰れなくなったらしくて。だから引き続き俺が朝まで警護するから!…あ、通しになっちゃうけど警護には気を抜かないよ?そこは安心して!ね?」


(今日、そらさんの誕生日、なのに……)


そらさん、これからオフだったのに、きっとお祝いしてくれる人が待ってるはずなのに…


「ごめん、なさい……そらさん」
「いいのいいの!**ちゃんは気にしないで!こんなのよくあることだし、慣れてるから大〜丈夫!」


そらさんは連勤になった事を私が気にしてると思ったらしく、明るく笑いながら手をひらひら振る。


(そうじゃないのに……)


そらさんの誕生日まで、犠牲にさせてしまうなんて……


(私の、せいで……)


「あ、ちょっとごめんね。電話一本だけ入れさせてくれる?」


そう言って携帯を取り出しながら玄関の方へ向かった。


「――あ、もしもし?…うん、俺。……悪いんだけどさ、今夜急に仕事が入っちゃって。……うん、ホントごめん!…せっかく用意してくれてたんだろ?……うん、終わったら必ず行くから。……うん、じゃあね」


途切れ途切れに聞こえてくるのはやっぱり今日の予定が変わってしまった事に対して電話相手に詫びるそらさんの声。



「そらさん……」
「……っと、**ちゃん?どうした??」
「…ごめんなさい」
「え…?」
「そらさん、今日誕生日だったんですよね。海司達から聞きました。……それなのに私のせいでせっかくの予定が……」
「**ちゃん。これは仕事なんだから誰のせいでもないよ。もちろん**ちゃんのせいじゃない。それにね、こういう事はよくあるから相手も理解が早くてさ。だから**ちゃんが気にする事は何もないよ?」


そう明るく話すそらさんだったけど、私の心の奥ではやっぱり自分がそらさんの負担になってると思ってしまい、彼の顔を見る事が出来ない。


「ほーらっ、**ちゃん!いつまでも気にしないの。ほら、そろそろ休んだ方がいいよ?」


ぽんぽん、と肩に手を置いて私を部屋まで促してくれた。





警護の終わりに渡すつもりでいたそらさんの誕生日プレゼントを思い出す。


(せっかく用意したんだし、日付が変わるまでに渡したい……)


年に一度のそらさんの誕生日。
そらさんにとって私はただの警護対象者だけれど、
それでも、ちゃんとお祝いしたい―――











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