WANTED!
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―2012年7月20日 22:35
『はい、到着ー』
「送ってくれてありがとうございます」
**ちゃんのアパートに着いて、俺は努めて明るく声を掛ける。
並んで歩いていた**ちゃんが、足を止めて俺に振り向いた。
急に向けられた瞳に俺の心臓は、トクンとひとつ音を立てる。
「…そらさん…?」
**ちゃんは、少し不思議そうな表情で黙り込む俺を見た。
『あ、あの…さ…』
口を開くと、まるで箍が外れたように心臓が暴れだす。
(やばい…口から心臓出る…っ!)
でも、でもでも!
今日、言わなきゃ。
日付が変わる前に。
俺はグッと両手に力を込めて、すぅっと息を吸った。
『あのね…俺、今日誕生日なんだけど…』
「………!」
スッと顔を上げると、少しだけ俯きがちな**ちゃん。
彼女の背景に浮かぶ星が、俺を茶化すように瞬いている。
『俺…どうしても…どうしても欲しいものがあって…』
「……はい…?」
俺の言葉に、**ちゃんは訝しげに眉を寄せた。
いつもは簡単に軽口が叩けるのに、なんでこう、ここ一番って時になるとダメダメになるんだろう。
握り締めた手が小さく震えた。
こんなの止めとけばよかったかな。
そもそも、今日だって誕生日デートとかじゃないし。
**ちゃんの買い物に付き合っただけだし。
…SPとして。
『………っ』
いや、だから。
その"SPとして"ってのが、もう限界だからこうして俺は拳を握ってるんじゃないの?
『**ちゃん…』
意を決して彼女の目をじっと見る。
夜の光を吸い込んだ**ちゃんの瞳が微かに揺れた。
『…俺のものになって…?』
もうSPとかじゃなくて。
誰かに守られる君じゃなくて。
俺だけの**ちゃんになって。
「…………」
痛いほどの沈黙。
騒がしいのは俺の心臓だけ。
…でも、次の瞬間聞こえてきたのは。
「……はぁ…っ」
『っえ…!?』
**ちゃんの呆れたような溜息と、少しへの字に歪んだ彼女の唇。
そして**ちゃんは、若干睨むように俺を見た。
「…そらさん、私の警護をするって決まった頃の事、覚えてます?」
『え、あ、うん、もちろん…』
**ちゃんは俺から目をそらして続けた。
「…あの頃からそらさんって、いっつも誰か女の人から電話来たり、デートの約束してたり」
『う……』
「お世辞にも真面目とは…言えないですよね?」
『は、はい……』
「それなのに、私に"俺のものになって"って…」
返す言葉も無い俺に、**ちゃんはもうひとつ溜息。
「…私に"その他大勢の女の子"の一人になれって事ですか?」
**ちゃんの言葉が、ぐっさりと刺さる。
脆弱な俺の心はもうへし折れそう。
確かに。
確かに、今まではいい加減な俺だったし。
**ちゃんの言う事はごもっともで。
でも、君を"その他大勢"になんかしたくない…!
『…っ**ちゃん!俺は…ッ』
きちんと俺の気持ちを伝えなきゃ。
不安にさせないように、俺の本気をわかってもらえるように。
『今までの事は…本当いい加減で嫌になるかもしれないけど!でも、俺、**ちゃんの事が本気で…』
……とんっ
『…へ…?』
必死になって力説する俺の胸を、**ちゃんはとんっと指で突いた。
「…私が"そらさんのものになる"?…そんなの嫌ですよ」
『………っ』
そう言うと、**ちゃんはスッと俺に顔を近づける。
「そらさんが、私のものになるんです」
『………〜〜っ!!!』
やっばい、いま俺撃ち抜かれたかも。
コルトもスミスも勝てない、鋭い弾丸。
(て、てゆーかそんな殺し文句言っておいて…)
俺の胸をピストルのように突き立てながら、何で真っ赤になってるの。
あぁ、もうこれだから…
『は、ははは…やった…』
「そ、そらさん!?」
へなへなと情けなく座り込んでしまった俺を、**ちゃんが慌てて支える。
『やった…やったーーー!!!』
「そらさん、しーっ!」
もう君のものになるから。
てゆーか君だけのものにして欲しいから。
『**ちゃん…大好き』
「―っ!」
―2012年7月20日 23:02 広末そら確保
「あ、そらさん、お誕生日おめでとう」
『ありがと!』
END
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