GIFT
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【ヒロイン サイド】
私は、大学のカフェテリアで難しい顔をしながら真っ白なノートと、今日の講義のドイツ語のテキストを睨んでいた。
でも、それは勉強の為にそんな顔をしているわけじゃない。
もっと難題で、もっと奥深い事に、頭を悩ませていた。
そう、もう少しでそらさんの誕生日が来る。
私の大切な人。
大切な彼氏。
そんな彼の生まれた日なのだから、俄然張り切りもするわけで。
ともすれば、そらさんにあげるプレゼントも、何がいいかずっと眉間に皺を寄せて悩んでいた。
まだ、今日課題に出されたレポートを書く方が簡単だ。
ふぅ、とため息をついて、すっかりぬるくなったカフェオレを口に含む。
ああ、ほんと、何をプレゼントしよう?
というか、私のこの喜びとか、嬉しさとか、どう表現したらいんだろう?
そらさんに出会えて、どんなに嬉しいか。
どうしたら、それが形になるのかなぁ。
ふと窓の外を見上げれば、綺麗な蒼い空。
優しく大きく包み込むようなその空は、私の大好きな人と同じ名前。
そして、同じものを私に感じさせてくれた。
数日後の朝。
ピピピ…と電子音が鳴り、私は恐る恐る脇から体温計をとりだした。
何度見ても、そこには『37.9℃』と表示されている…。
ああ、明後日はそらさんの誕生日なのに…っ!
一気に具合の悪さを覚え、私は深いため息をついた。
どうしてよりによって、大切な日の近くに熱なんて出すんだろう。
この間、お風呂上がりに、髪も乾かさず、ついついそらさんのプレゼントをネットで情報収集していたから?
それとも、夜遅くまで寝不足になりながら、ケーキ作りの練習をしていたから?
…なんにせよ、そらさんの誕生日当日までには、治さなくちゃ。
私は全細胞に訴え掛けるように『治って、治って』と祈りを込めながら再び眠りについた。
♪〜♪〜♪
ベット脇に置いていた携帯がメール着信をならしている。
(…あ、この音、そらさんのだ。)
微睡みながら携帯を手にすると、そこには相変わらず顔文字が沢山のそらさんのメール
「**ちゃん、風邪大丈夫?(つд`)
あ〜看病に行きたいっ!ぜ〜ったい、無理しちゃダメだからね!
早く、良くなりますように☆(*^-')b
仕事が終わったら、また連絡するね?('-^*)」
そらさんらしいメールに思わず笑みがこぼれた。
そらさんは7/20と翌日にお休みを取るため、ここのところ、シフトがハードなのを知ってる。
自分だって、大変なのに。
そらさん、優しい。自分の誕生日の前に体調崩しちゃう私の心配ばかりして…。本当は2人で旅行に行く予定だったのにそれもキャンセルになっちゃって。
そんなことも、責めたりしない。
ああ。ほんと、自分の風邪が恨めしいっ。
絶対、絶対、治すんだ。そらさんの誕生日まで。
私はそらさんのメール画面を開いたまま、愛おしく携帯をぎゅっと抱きしめた。
待ってて。必ず、必ず治すから。
そうして、私は再び眠りについた。
7月20日。
そらさんの誕生日当日。
私の願いが聞き入れられたのか、どうにか前日の夜にはすっかり熱も下がって元気に復活した私。
そらさんもこの日は朝はやくから私のアパートに来てくれて、一緒にご飯を食べた。
「よかった〜っ!!**ちゃんの具合が良くなって。心配したよ?」
「…ごめんなさい。そらさんの誕生日、思いっきり予定が狂ちゃって…」
しゅん、とうなだれる私の頭をそらさんは『いいこ いいこ』して撫でてくれた。
「あはは!ぜーんぜん!?俺、**ちゃんが元気になってくれた方が嬉しーモン!」
屈託なく笑うそらさんの笑顔が、今日は一段と眩しく見える。
ああ。そらさん、…大好き。
…でも…
私は申し訳なさそうに、胸の内に渦巻いてある罪悪感を言葉にした。
「…ごめんなさい。プレゼント、用意出来なかったの…。」
大好きなそらさんの生まれた日。
それが、私にとって、とっても大切な日で、貴方に感謝したくて。
何か形にしたかった。
それを現すプレゼントが、一向に見つからなかったの。
誕生日は、物じゃないって、分かっているけど…、でもね?
何か、そらさんに贈りたかったなぁ。
再び曇った私の顔を、そらさんが優しく包み込んだ。
いつも、あどけない表情で、私を見つめてくれるそらさんだったけど…、今のそらさんの表情は、凄く優しさに包まれていて、少し、真剣な顔だった。
「**ちゃん…、キス、していい?」
不意に掛けられた言葉に、少々戸惑って思わず方をすくめる。
「…風邪、うつっちゃうかも…」
「いーよ。」
「…まだ、明るいよ?」
「**となら、いつだって、どこでだってキスしたいけど?」
もう、ここまで来たら、私が拒む理由もなく、私はそっと目を閉じた。
そして、少しの間を置かれてそらさんの唇を感じた。
優しい、温かい、でも、どこかちょっとエッチなキス。
この人が、好き。
…ずっと、こうしていたいと想った。
【そら サイド】
**ちゃんが風邪を引いたって聞いて、すっごく心配した。
彼女が、そんなに風邪を引くような体質の子じゃないって事は、俺には分かっていたから。
…無理、したのかな?って、心配した。
**ちゃんが、俺の誕生日に凄く張り切ってくれていたのは、分かっていた。
その様子を見てるだけで、俺、すっげぇ嬉しかったんだ。
自分の誕生日なんて…昔の俺にしたら、厄介な物だった。
だって、俺が生まれて一年したら、おふくろはもう出ていった後だったから。
要らない子なの?って何度も想ったし、誕生日が来る度、おふくろの居ないお祝い事は、どこか空々しくて。
それでも、親父が一生懸命祝ってくれるのが、余計に寂しく思えて。
反抗も、したなー。
でも、ある日、皆が良くしてくれてんだって、その気持ちが分かるようになってから、ちょっとだけ、嬉しい振りが出来るようになった。
そうすると、皆も喜ぶしさ。
長いことそうしていたら、段々、ホントに誕生日も悪くないなって思えるようになって。
そんな頃、**ちゃんと出逢ったんだ。
君はいつも一生懸命、俺を想ってくれてたね。
どんな風にしたら俺が嬉しがるとか、喜ぶのか、探してくれていた。
俺、それが嬉しくってさぁ。
…**ちゃんは、何かプレゼント贈りたかったっていうけど、もう貰っちゃったよ。
**ちゃんの、存在全て。
俺の、一番欲しかったもの。
皆、平等に『好き』で来た俺に、『特別』って何か教えてくれた**ちゃん。
…俺が…泣きたいほど手に入れたかった
愛しい存在。
全部。ぜーんぶ、**が俺にくれた。
ありがとう ありがとう
俺、生まれてよかった。**に逢えて
**に触れることが出来て
**を愛せて
それが、**だけが、俺に贈れるただ一つのもの。
「…っ、そら、さ…っ、」
思わず喘いでいる**ちゃんに気づいて俺は慌てて唇を離した。
「あ、ごめんごめん」
ははっと笑って、首を傾げて**ちゃんを見つめた。
…紅くなっちゃって…可愛いの。
**ちゃんは『昼間にするキスじゃないですよぉっ』なんて軽く怒った顔をして俺を睨んでいるけど、それすらぎゅっとしたくなるくらい、可愛い。
「じゃ、夜ならいーんだ?」
クスクス笑って**ちゃんの頭を撫でると慌てふためく君が愛しくって、愛しくて。
もう一回、ぎゅってした。
俺に抱かれたまま身動きしない**ちゃんが、ぱっと顔を上げて、その可愛らしい笑顔一杯浮かばせて、俺に向かっていった。
「そらさん…誕生日、おめでとうございます。生まれてきてくれて、ホントに嬉しいです。ずっとずっと、…これからも、側に居させて下さい。」
…も、**ちゃん……。
俺、マジ、泣きそう……っ
泣きそうな顔をみられたくなくって、俺はもう一度**ちゃんを抱きしめた。
「…離すわけ、ないっしょ…?」
この子が
この子が
俺の側に居てくれることが、俺の人生最大のGIFTかもしんない。
その日は、**ちゃんと2人でケーキ作ってたら、その最中にキャリア達が仕事の合間に押し寄せてきて、俺の誕生日祝いだとあれこれ持ってきた手みやげの様なプレゼントに思わず苦笑して。
俺の育った施設からはお祝いコールが携帯になりっぱなしで。
「もう!**ちゃんと2人きりにさせてよーっ!」
って怒鳴る俺をくすくす彼女が笑っていた。
慌ただしい俺の誕生日だったけど。
うん。
俺って、やっぱ、恵まれてる。
そう思った今日この日。
俺を取り巻く全ての連中と、その中心に存在する彼女に
『ありがとう』って何度言っても足りないそんな幸せを感じた。
翌日は、俺の名前と同じ『空』は晴天で。
俺の心も晴れ晴れだ。
うん!今日もいい天気!
end
Happy birthday sora!!
i'm happy when you're happy…。
2012.07.20
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