焦点の合わないその右目に自分が映らないことに酷く不安になった。



「どこ…見とんの?」

「白石んこと、見とうよ」


情事中なら尚更、だ。



組み敷かれて、上に覆い被さる千歳を見上げる。
千歳の首に絡めていた両腕をほどいて。千歳の両頬を両手で挟んで。じっと。千歳の両目を覗き込む。


左目は、しっかり俺を見て、映している。俺が見えている証拠。
右目は、俺を映しているだけ。俺は見えて、いない。

視力が酷く低下しているのだから、仕方がないことだ。
解っている。解っているのに、酷く不安になる。



恐いのだ。他の誰かを映していそうで。俺を抱いているくせに、右目は他の誰かを、どこかを見ていてそうで。
すごく、恐い。



そしてまた、憎いのだ。今、こうやって、俺を抱いて、視姦しているのに、それをしない千歳の右目が憎い。
千歳の全部で俺を抱いて、刺激して、快楽に導いて欲しいのに。
はあ、もう。ほんま、何なん。



こつん。と千歳が俺の額に自分のそれを重ねる。顔がさらに近づいて、右目がよく見える。
さっきは少しだけ、ほんの少しだけずれていた右目が俺をしっかり映した。



「ちゃあんと、見えとうよ」



うそつき。



そう心の中で毒づいて、ちとせ、と頬擦りをする。
もう一度、視線を交えて、瞼を下ろす。唇を重ねられ薄く口を開く。舌を這わせて、舐めて、絡めて、貪って。


唇を離すと熱い吐息を吐き出して、お互いの息を交換するように呼吸をする。


膝を抱え直した千歳が律動を再開する。言葉にならない、あー、とか、んん、とか言った声が出る。



「ちとせ、んっ…すき、すきや…」

「うん…俺も好いとうよ」

「ちゃんと…っあ、ちゃんと、見て…おれんこと」

「ちゃんと見とるよ?」



何がそんなに心配?と、ちゅうっと目尻に溜まった涙を吸われる。

言おうか。言うまいか。
まあ、ええわ。また今度にしよう。
今は、千歳に抱かれて、この快楽に溺れてしまいたい。そんな気分。



「なんも…あらへん」



続き、シてや。
頬を撫でてやると、胎の中の雄が大きくなる。


そっか。大きくな手がくしゃくしゃと頭を撫でる。恐怖と憎しみで荒んだ心が落ち着いていく。ああ、何て単純なんやろ、俺。心底、こいつに惚れとるんやな。












「っ、あ…は、んあ」



脊髄に伝わる射精感が気持ちいいくらいに痛い。
がつんがつんと攻められると、叫び声に似た声が上がってしまう。掠れた汚ない声。
よか声。
耳元で千歳はそう囁いた。ほんまかいな。なんて心の中で突っ込んで、イくことだけに集中する。



「あー、イく…ふあ、イってまう」

「俺も…イきそう」



前立腺を容赦なく突かれ、膨張した俺の雄からびくびく震えて吐精した。
胎の中でも千歳の雄がびくびく震えて熱い子種が吐き出される。
このまま孕めたらな。なんて思いながら、ぼんやりした意識の中で千歳を見つめる。



「しらいし…好いとうよ」



あ、ちゃんと右目も見えとるやん。


(20121231)


右目


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