春シューティングスターさまに提出




「海、行かね?つーか、行くぞ」



蝉もまだ鳴いていない、生温い夏の風も吹いていないというのに海に行くのはどうかと思っていたけれど、子どもみたいにはしゃぐ彼を見ていたらそんなのどうでも良くなった。
鞄と靴を砂浜に放り出して、ズボンの裾を膝まで上げた青峰が波と戯れるのを黄瀬は見詰める。



空と海とあんたと。



豪華過ぎる景色に黄瀬は目を細める。自分の世界はいつだって青いのに、今日はいつにも増して青い。そりゃそうだ。空も海もあんたも俺には青過ぎる。



「黄瀬も来いよ」



気持ちいいぜ。
白い歯を見せて笑う青峰に胸が締め付けられる。昨日もあの歯に身体を噛みつかれた。味わうように。食われるように。何度も何度も。ずくり。青峰に噛まれたところが疼く。青峰に噛まれる自分を想像してぼっと顔も熱くなる。ああ、くそ。身体だけでなく心まで女みたいになってしまった。いや、変えられてしまった。ぜんぶ、あんたに。



「俺は遠慮しとくっス」



ここからあんたを見ているだけで、十分だから。そこで無邪気に笑っていてください。しかもあんなことを想像したばかりでまだ顔が熱い。身体だって疼いている。こんなみっともない俺を見ないで。青峰が不満そうな顔をしたので、ごめんね、と眉を下げて黄瀬は笑う。大抵の人はこれで黄瀬を誘うことを諦めてくれるのだが、青峰だけは違う。海に浸した足を砂浜にあげ黄瀬の所へざくざくと歩いてくる。やっぱりそうなりますよね。海で濡れた手で腕を掴まれ、そのまま海辺に連れられる。シャツがじんわりと濡れ染みをつくる。潮の匂いが黄瀬の鼻を掠めた。



「ほら脱げ」



しゃがみこんで青峰が靴を脱げと催促する。はいはい、脱ぎますよ。苦笑いしながら靴と靴下を脱ぎ、ズボンの裾を上げる。よし、準備完了、と上体を起こし、青峰の横顔を一瞥する黄瀬。本当に海と空が似合う人だなあ、とつくづく思った。脇にぶらりと下げた手に、青峰のそれが絡む。驚いてもう一度を振り向けば、耳まで真っ赤にして恥ずかしそうにもう片方の手で後頭部をがしがしと掻く彼の横顔があった。なんだよ、それ。ずるい。反則。黄瀬は恥ずかしさ隠しにくくっと喉を鳴らす。



「ほら!行くぞ!」

「はは、青峰っち、照れてる〜」

「うっせーよ!」



ぐいぐいと手を引かれて海に足を浸す。冷たっ。海水の冷たさに身体が少し震え、肌が粟立つ。この人に抱かれるときみたいに。
ズボンの裾が濡れるのも忘れて、膝上近くまで波に飲み込まれる場所へ行く。



「顔、真っ赤〜」

「だから、うるせーって!」



羞恥で力の加減を忘れた青峰がぐいりと腕を強く引いた。黄瀬は身体のバランスを失い崩れるように海に向かって落ちていく。ばしゃり。身体がぶくぶくぶくと海に沈んでいく。目がいたい。反射的に目を閉じれなかった。ゴーグルなんてしてないのに、海面越しに青峰と空が見える。ぼやけた視界は青くて、青くて。このままこの青に溺れていくのかな、なーんて。



「おい、黄瀬!」



沈めた本人が慌てて黄瀬を引き上げる。繋いだ右手を目一杯上げて、左腕で腰を抱く。大丈夫か。めったに見ない心配の色を浮かべた青峰の顔が自分を覗き込む。海に落ちたことよりもそっちの方に驚いて、うん、大丈夫、しか黄瀬は言えなかった。良かった、と青峰が胸を撫で下ろす。
背中に海。目の前に青峰。青峰の上に空。眩しい。目が眩みそうだ。息継ぎがうまくできない。身体が沈む。空は広すぎるし、海は深過ぎる。そんな青の持ち主のあんたに俺は緩やかに溺れいく。どうしよう、どうしよう、どうしよう。息が詰まる。苦しい。助けて、青峰っち。
ぐっと青峰の顔が近付く。あ、キス、される。反射的に目を閉じる。次の瞬間、柔らかいものが唇に押し当てられた。優しい触れるだけのキス。ちゅっと唇が離れて、瞼をあげる。すうっと吸い込んだ空気は青峰と海の匂いがする。ちゃんと、息、できてる。



「しょっぺーな」



へらりと青峰が笑う。黄瀬もつられて笑う。キスは潮の味がした。



青に溺れてしまいそう


(20130121)


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