金糸のような髪がさらさらと揺れる。ボールを追う目がぎらぎらと光った。俺を抜いて、風をきって、地を蹴って。綺麗にダンクを決める後ろ姿に目を奪われるのは、もう何度目か。



「はい、俺の勝ち〜」



振り返って、ジュース奢ってね、火神っちと黄瀬が笑う。もう一本、勝負しろ。喉元まで出かかった言葉が奥の方に引っ込む。それくらい黄瀬の笑った顔に火神は魅せられていた。男のくせに顔が綺麗とか嫌味か。そう思っていたはずなのに、表情豊かで構ってちゃんな黄瀬に心はどんどん奪われていく。つい最近、こいつが好きなんだと自覚した途端、もっと他の表情が見たいと、もっと構ってやりたいと心が身体が疼く。



今日も今日で、日夜ハードな練習をこなして、マジバでてりやきバーガー食べて、家に帰って、風呂入って、布団に直行しようと思っていたけれど、彼の顔が見たくて、声が聞きたくて、少しでも時間を共有したくて、触れたくて、疲れた身体を叱咤してストバスしようと火神から誘った。きっと黄瀬はバスケしたさに誘われたとしか思っていないだろうけれど。



汗を拭う黄瀬の腕を火神が掴む。身長差は1cmなのに、肩幅とか筋肉のつき方とかが違うせいか火神より小さく見える身体。がっしりと言ってしまうには抵抗があるし、華奢なのかと言えばそうでもない。バランスのとれた綺麗な身体。



「火神っち?」



どうしたの、と見詰める顔がかわいいだなんて絶対言ってやらない。調子にのって、もっとあざとい顔をされた本当に困る。今でさえ、顔の熱を抑えるのに精一杯なのに。



唇を舐めたのだろうか。それともリップクリームを塗ったのだろうか。つやつやと光る形のいい唇に吸い寄せられて、火神はそっと口付ける。目はお互い開けたまま。



ちゅ。わざとリップ音をたてて唇を離す。



「好きだ」



唇が離れてすぐ火神の口から溢れた言葉に、金の瞳は動じない。



「…俺、青峰っちが好きなんスよ」



黄瀬は緋色の瞳を見据える。何者にも屈しない、何色にも染まらない金の瞳はただずっと青い色を追い続けている。深い海に眠る青すぎる青い色を求め続けている。



「知ってる」

「じゃあ、なんでこんなことするんスか?」



掴まれていない方の手の甲で黄瀬が口を拭う。拒絶を意味する仕草に火神は眉を顰める。



「仕方ねーだろ。好きなんだから」

「…」

「なあ…俺にしろよ」

「…むりっス」

「じゃあ、俺を好きになれよ」



それも、むりと紡ごうとした口を塞ぐようにまた口付ける。抵抗するように、口を拭った手で分厚い胸板を押す。後頭部を手で押さえて、交わりを深くする。歯列をこじ開けて腔内を舌で蹂躙する。くぐもった声が堪らない。舌に鈍い痛みが走る。舌を噛まれた。痛みで緩んだ隙に逃げるように黄瀬が顔を離す。腕の中から逃げ出した彼はブレザーとバッグを掴んで走り去る。



「俺、ぜってー青峰より強くなって、お前を振り返らせてみせるから」



小さくなっていく背中に投げかける。




「…やってみろよ」



ぼそりと呟かれた言葉を火神は知らない。



こっち振り向かせますけど、いいですか?


(20130115)


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