(眠れない。)
今日も赤司のきついメニューをこなし、放課後は下校時間ぎりぎりまで青峰と1on1をして、身体は悲鳴をあげるくらい疲れているはずなのに、眠れない。
はあ。
しん、とした寝室に重たい溜め息を吐き出して、寝返りをうった。
寝ようと努力して重たくもない瞼を無理矢理下ろす。
瞼の裏から、またやってくる。
まぶしい、まぶしいあの人の横顔。
胸が締め付けられる。
苦しい。つらい。痛い。
痛みに耐えきれず、瞼を持ち上げる。
「…あおみねっち。」
確かめる様に、ゆっくりと呟く。
呟いてみて、後悔した。青峰への好きだという気持ちが心の中から溢れて、涙となって出てきそうだった。
叶わない小さな恋。
(…忘れなきゃ)
そう思っていても、簡単には忘れられない。
忘れてしまったら、自分には何が残るのだろうか。
それくらい、黄瀬にとって青峰の存在は大きい。
白い歯を出して子どものようにくしゃくしゃに笑う。太陽みたいにきらきらした横顔。
瞼の裏に焼き付いているその横顔は、黄瀬の心を掴んで離さない。
いつも一緒にいるはずなのに全然手が届かない、青峰という存在。
(はやく寝ないと、朝練に遅刻してしちゃうのに。)
布団の中に潜り込んで、もう一度目を瞑る。強く、強く。瞼の裏からあの横顔がやって来ないように。
◇
「どーしたんだよ、元気ねえなあ」
体育館の端で小さく脚を抱える黄瀬の横に青峰が腰かける。
「…別に何もないっス。」
ふーん、そう。素っ気ない言葉を吐いた口に、スポーツドリンクを流し込む青峰を、脚を抱えた腕に顎をのせながら見つめる。
形のいい喉仏が上下する。そんな動作すら胸を締め付ける。
(ああ、くそっ…痛い痛い。)
飲むか。差し出されたペットボトルに少し躊躇った。
(間接キス、じゃん)
自分の思考の女々しさに嫌気がさす。
(やだやだ。こんなの、俺じゃない。)
大丈夫っス。ペットボトルを押し返すと、少し不満そうな顔をされた。
さすがにこれ以上一緒にいると胸の痛みでどうにかなりそうだったから、黄瀬は青峰の横から離れようと立ち上がろうした時。青峰の手が頬に触れて黄瀬の身体は固まった。
どくどくと心臓がうるさく鳴る。顔に熱が集まる。
「クマ、ひでえな」
親指の腹で目元を優しく撫でられて、泣きそうになる。
(…あんたのせいっスよ)
あんたのせいで眠れないんスよ。あんたのせいで胸が痛いんスよ。あんたのせいで泣きそうなんスよ。心の中で一息で言って、すっくと立ち上がる。
「…最近、忙しくて寝れないんスよ」
「おーおー、モデル様はお忙しいのかー」
茶化さないで欲しいっス。吐き捨てて、逃げ出すように体育館の扉に向かう。
「あんまり無理すんなよー」
後ろから聞こえる優しいその言葉に、また胸が締め上げられた。
水飲み場で水道の蛇口を捻る。ほてった顔を冷ますように何度も何度も顔を洗う。
ぽたぽたと滴る水を拭かずに、その場にしゃがみこんだ。
(…青峰っちのバスケが好き。青峰っちの大きな背中が好き。青峰っちの大きな手が好き。青峰っちの声が好き。青峰っちの優しいところが好き。青峰っちの暴君みたいな性格が好き。青峰っちの笑顔が好き。青峰っちが好き。大好き。)
伝えたい。伝えられない。
告白なんかしたら、一緒にバスケができなくなってしまうから。一緒に居れなくなるから。あの笑顔が見れなくなるから。だから、ただ見つめるだけでいい。傍に居させてほしい。隣に立つことを許してほしい。
(…この片想い終わりがあるんなら、教えてほしいっス。)
きゅっと唇を噛み締める。
この片想いに終わりがないのなら、それでもいい。それでも構わないから。好きでいることを許してほしい。
じわりと視界が滲む。
泣くな。そう自分に言い聞かせても、はらはらと涙は溢れて黄瀬の熱い頬を濡らした。
後戻りできない恋なんです
(20130104)
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テゴマスの“片思いの小さな恋”という歌があまりにも青←←黄だったので
ぜひ聞いてみてください!!!!
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