切羽詰まった顔。荒い息づかい。獣のように欲情した瞳。頬を伝い顎へ落ちる汗が妙に厭らしい。青峰の表情や身体や汗や息。そのすべてが黄瀬を興奮させる。
冬の寒さがしんしんと深まるこの季節。
セックスだって運動だ。
すぐに熱くなるだろう。
と思って部屋の暖房はついていない。身体は熱い。が、空気は冷たい。重ね合った熱い身体同士の隙間に、入り込む冷気もまた快感を引き立たせ、感覚が、意識がおかしくなっていく。
接合部から広がる快感に黄瀬の身体は甘く痺れていく。腰の奥が痛いくらいにずくずくと疼いて絶頂が近いことを知らせた。疼きが強くなればなるほど、青峰の背中に添えるように置いた指先に力がこもる。突き上げられるように攻められると、爪をたててしまう。
きっと痛いだろうに。
そう思っていても黄瀬には指先の力を緩めることはできなくて。むしろ強くなっていくばかり。
ぱんぱんと渇いた肌と肌がぶつかり合う音が大きくなって、腰を打ち付ける速さも増す。青峰も絶頂が近いようだ。それが何だか嬉しくて自分でも腰を振る。青峰もそれをわかってか、いいとこばかりを突いてくる。目の前がちかちかする。名前を呼んで。好きだと言って。キスをして。
心の中でごめん、とだけ言って皮膚に指が食い込むくらい強く握って絶頂を迎える。それを追うように青峰が吐精するのを胎の中で感じながら黄瀬は意識を手放した。







苦しい。
そう思って重い瞼を持ち上げると、視界いっぱいに青峰が映る。驚きで黄瀬は息が詰まり、逞しい胸板を押して距離をとろうとする。が、青峰の腕がそれを許さない。寝ているくせにがっちりとホールドされているみたいだ。何度か身を捩って抜け出そうとするが、どう抵抗してもこの腕の中から出られなそうにない。仕方なく、黄瀬は大人しく抱かれることにした。

じっと。青峰の寝顔を見つめる。
本当に好きだ。
心底惚れ込んでいるんだな。
と思った。ソファーで昼寝をしている時はどこか幼さがあるのに、今はセックスに疲れた色気のある顔で眠ってる愛しい人。
寝顔までかっこいいなんて反則。
黄瀬の心臓がどくどくと速く脈を打つ。もう何年も見て、むしろ見飽きるくらい見ているはずなのに。青峰の顔を見ると今も昔も心臓が高鳴ってしまう。
腕を伸ばして愛しい寝顔に触れる。すっと筋の通った鼻。短い睫毛。澄んだ瞳を覆う瞼。柔らかい頬。少しかさついた唇。すべてが愛しかった。
顔だけじゃない。骨ばった手も。逞しい胸板も。筋肉質な腕や脚も。肩甲骨が浮き出た大きな背中も。締まった身体もまた同様に愛しい。
青峰の性格も好きだ。無愛想に見えて、でも実は優しい人で。意外にも人のことをしっかり見ていて。崩れそうになったら抱き締めてくれる、そんな青峰が黄瀬はたまらなく好きだった。

規則正しい心音と呼吸を繰り返す青峰。
ああ、はやく起きないかな。
はやく名前を呼ばれたい。
頭を撫でて欲しい。
キスして欲しい。
もっと強く抱き締めて欲しい。
気持ち昂ると抑えられないタイプの黄瀬は無意識に愛しい人の名を呼んでいた。


「あおみねっち…」


しん、とした空間に響き渡った声は小さかったはずなのに。ぴく、と眉が揺れた。もう一度小さく、でもはっきりと名前を呼んでみる。


「…なに?」


目を閉じたまま、眠そうな返事が返ってきた。


「…起きちまったの?」
「うん」


ぱたぱたと青峰がベッドの上の何かを求めて手を伸ばす。


「まだ6時前じゃん」


探していたの携帯だったらしい。くあっと大きな欠伸を1つ。
もう少し寝かせろ。
と言ってぎゅうっと強く抱き締められた。
背中をぽんぽんと優しく叩かれると、不思議と安心して。よくわからないけれど眠気が襲ってきた。


「あおみねっち…」
「…んー?」
「すき」
「あー、はいはい知ってる」
「好きっス」
「わかったから…寝ろ」


ちゅっと額に唇を押し当てられた。
俺も好き。
起きてから可愛がってやるから…おやすみ。
そう言ってまたすぐ青峰は寝息をたて始めてしまった。


腕の中から窓の外を見た。濃紺の空の奥の方がきらきらと眩しい。夜空に朝が迫っている。
まだ6時前だ。
ああ、もう少しだけ。
この腕の中で眠るか。
黄瀬は瞼を下ろし、意識が閉じていくのを青峰の腕の中で待った。



午前6時前


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