キスマーク、なんてそんな可愛らしい印はない。
鏡を覗き込めば、痛々しい自分の身体が映し出される。左の首筋に1つ、右肩甲骨に1つ、左の鎖骨に2つ、右内腿に2つある青黒く残る歯形。右肩甲骨の歯形に限っては、皮膚が抉れ瘡蓋に覆われている。腹部には暴力によってできた青緑色の痣が幾つか。今日はネクタイできつく手首を結ばれたから、赤い線が幾重にも重なっていた。痕が残りませんようにと願いながら緩く擦る。
だけどよかった。今日は首を絞められなかった。それだけが今日の救いだった。首筋にうっすら浮かぶ赤い締め付け痕を指でなぞりながら安堵の溜め息を吐く。
好きだと伝えてからもう約2年。青峰っちのセックスは痛くて乱暴で苦しい。獣の性行為の域を超えていると思う。やめて、嫌だ、離してと拒絶したって青峰っちの行為は止まらない。すべて暴力と“俺のこと好きなんだろう?”の一言で片付けられ、行為は青峰っちの気が済むまで行われる。
青峰っちのことは好き。大好き。どうしようもないくらい好き。真っ暗闇にいた俺に手を差しのべて、そこから救い出してくれた存在。とっても大切な人。だから、青峰っちが望むことは何でもしてあげたいし、やりたい。身体を望むなら好きなだけ抱いて欲しいし、心を望むなら何回だって愛の言葉を紡ぐし、キスもする。殴られたり蹴られたり噛まれたり慣らさないで挿入されたりするのは、その一時の痛みに耐えれば済むもの。そう思うようになってから、自分でも気持ち悪いと思うけれど痛みに慣れてしまった。だからこの身体は痛みに鈍くなり、青峰っちの暴力にもひどいセックスにも耐えれてこれた。

だけど青峰っちに首を絞められてから、時々青峰っちと別れた方がいいかもしれないと思うようになった。殺されるかもしれないと思ったし、会う度に増す暴力に恐怖を隠せない。別れたら暴力から解放され、この恐怖に怯えることもなくなるのかな。そう考えると自ずと別れた方がいいかもしれないという答えが出た。
けれど別れられないのだ。好きだから、というのは最もな理由である。それともう1つ。



「起きたのか?」


背後から低い青峰っちの声がして、びくりと身体が跳ねる。
色々考えていたせいで、風呂に行っていた青峰っちの存在を忘れていた。恐る恐る鏡越しに見ると、鏡に映る青峰っちとばちりと目が合う。恐怖で目を背けられない。こわい、逃げなきゃ、はやく。頭で分かっていても、身体は分かっていない。一歩、また一歩と俺に近寄る青峰っちは鏡越しの俺の目をじいっと見つめる。かたかたと身体が震える。震えが止まらない。


「…ごめんな」


ベッドに座った状態の俺を優しく抱き締める。青峰っちの手が肩甲骨にある痕を撫で体が跳ねる。いやだ、触らないで、こわい。心臓の拍動数が上がる。脳裏には今後、展開されるかもしれないことが過る。爪をたてて肩甲骨の痕を深くされるかもしれない。もしかしたらまた新しい痣をつけられるかもしれない。


「黄瀬…ごめん」
「…」
「好きだよ…黄瀬、好きだ…好き」
「あ…あおみね、ち…」
「あいしてる、黄瀬…だから…」


きらいにならないで、
その一言が俺が青峰っちから離れられない理由。




きらいにならなで


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