嫌われたか…あるいは誰かに何か吹き込まれたか…
考えても心当たりがありすぎて分からないという結論に至り、とりあえず俺はなまえを追いかけることにした。
いつもの黒コートをひっつかんで羽織り、ポケットに護身用の折りたたみ式ナイフが入ってることを確認する。
そして机の上のスマホを手にして部屋を後にした。
マンションを出ながらなまえの電話番号に電話をかける。
『おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません』
「くそっ…!」
こんなことならGPSでもつけておくんだった。
今更そんなことを言っても仕方ないので、なまえが接触しそうな人を考える。
杏里ちゃん、帝人くん、紀田くん、運び屋、シズちゃん…
普通に考えたら杏里ちゃんのとこだけど、運び屋にも懐いてるしな…俺に追いかけられたくないならシズちゃんのとこって手もあるか…
そもそもさあ、別れ話しといて「理由は言えないの」って追ってきてって言ってるようなもんだよね?本当に別れたいなら適当にでも理由つけるべき。まったく仕方ないなあ、俺のお姫様は。
そう考え始めたらこの鬼ごっこも悪くない気がしてきて、俺は意気揚々とスマホのホームボタンを押し、SNSを開く。そしてなまえのアカウントを開き、投稿を確認した。本気で別れるつもりならこんなところに行き先のヒントになるようなことは書かないだろうし、ましてやブロックされてることだろう。
「ほらね?」
俺は一人で口角を上げ、スマホをポケットに突っ込んだ。
"セットンさん家で鍋パ!"
その文字を頭の中で繰り返す。そして俺はくるっと方向を変え、歩き出した。
「待ってなよ、なまえ」
お姫様の居場所