きっかけはちょっとしたすれ違いだった。
「いやったら嫌です!!」
「いい加減に言う事を聞かないか!」
人ずての連絡は尾びれがついて、本意はどこへやら。
「なんでそう勝手なんですか!?」
「勝手はお前の方だろ!」
この国独特の気候も合間って、じとじといらいら。
「そんなイギリスさんの我儘に付き合ってる暇はありません!」
パシン!!
我儘という言葉にかっとした時にはもうロンドンの頬を叩いた後だった。
「へ?」
声をあげたのは、イギリスだった。
「あ、あ…いや…その…」
叩いたくせに、イギリスは赤く腫れたロンドンの頬を見て、居心地悪そうに眉をしかめた。
叩かれたロンドンも、イギリスの気の抜けた言葉を聞いたせいで痛みを訴えるのも忘れてしまった。
頬を打たれた時のまま驚いて目を見開き、何が起こったのかと手を頬にそえ、その熱さにまた驚く。
「その…っ、今冷やすもの取ってくる」
イギリスさん、とロンドンが言うよりも早くイギリスは顔をしかめて部屋を抜け出してしまった。
(腫れてる…)
戦争もなくなり、平和になってきた最近では久々に感じた痛み。
一人残されたロンドンはため息をついてソファに腰掛けた。
ほんとに些細な言い合いだったのに、言葉にするのが苦手な私たちだからすれ違ってばっかり。
ずっといっしょにいて、ずっととなりでみていたら、こんなことにはならないのに。
熱い頬をクッションに寄せて、ぱちりと目を見開く。
あれ、今わたしは何を考えてたんだろう?
頬にさす赤みは、ほんとうに痛みのせいだけだろうか。
頬を打たれたというのに、こんなことを考えるなんて、お得意の悲壮だ。
この国はじとじとしてるのよ、いつだって。
かた、と廊下で音がする。
どうせ、部屋にどうやって入って来るか悩んできっと廊下でうずくまってるだろう彼を思って悩ましげに息をついた。